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第2章 ポエトロの町と花園伝説
第16話 秘密の花園―ブルムンタウン―
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「皆さんを秘密の花園、ブルムンタウンに招待致します」
タオは覚悟を決めたように上を見上げてそう言った。
その後タオが指したのは、その部屋の壁の上方にひっそりと開いた抜け穴だった。デミが現れたのもこの穴からだったらしい。空を飛べるモルトが先に入り、僕らは彼が垂らしてくれたロープを伝って登る。
「この穴は元々花園からの排水用の穴だったんです。この洞窟は昔は天然の地下水路だったのですよ。川の流れが変わって今ではすっかり干からびちゃいましたが」
僕らは真っ直ぐに暗い一本道を進んでいく。タオは話しながら壁を探っている。道はまだ先へ続いているが、彼女は途中で立ち止まった。
「ここね」
そう言って手に魔力を込める。すると壁だった場所がすっと消え、登り階段が現れていた。
「そうなってたのね。一方通行だって聞いたときはわけが分からなかったけど、来るときに降りた階段が振り返ったときには無くなってたから結構びっくりしたのよ」
デミが感心した様子で階段をまじまじと見る。
「なるほど、これでは普通の手段で盗賊が花園に辿り着けたわけはないな。土の中を通り抜けない限り」
「そうね。相手にそんな魔法を使える人がいたのが誤算だったわ」
階段を登ってゆくと、上からうっすらと光が差し始めた。洞窟の中に月明かりが届いているらしい。
「着きました。ここが、私たち『花園の守り人』が代々秘密にしてきた場所、ポエトロの町の地下に広がるお花畑、ブルムンタウンです」
階段を上りきるとそこは広大な空洞になっており、一面に色とりどりの花が咲き乱れ、月明かりに照らされて幻想的な空間を作り上げていた。ここが……秘密の花園。真っ暗な道を潜り抜けたあとに広がったこの光景に、思わず胸が高鳴るのを感じたのだった。
「まさかポエトロの町の地下にこんな空洞があって、こんな景色が広がっていたなんて……」
「この月明かりはどこから来てるんだ?あんな大穴、町にはねえぞ?」
「不思議……。穴は上にしかないのに、風が吹いていますわ。気持ちいい……」
僕らはみんなしばらくこの光景に見惚れたあと、次々と湧いてくる疑問をぽつりぽつりと漏らしていた。
「ふふふ。皆さん口が開いていますよ。この穴は皆さんご存じ、町の西の広場にある大きな切り株の位置にあります。切り株に登ったり切り株より高い建物を建てたりするのは禁止されていますからね。今では私以外誰も知りませんが、実はこんな穴が開いていたのです。風は魔法で起こしています。時々空気を循環させないと、瘴気が溜まって薬草が毒草になってしまうんですよ。ただ自然の風を吹かせてしまうと空洞音が鳴ってしまいますからね。色々と工夫しているんです」
タオはにこにこしながら説明する。ずっと誰にも内緒にしてきたことを話すその顔は、いたずらを成功させた子供のように輝いていた。
「あの小屋は何?」
エミルが尋ねる。この空間の中央付近には1階建ての小さなログハウスが建っていた。
「あそこは代々この花園の守り人が過ごしてきた管理小屋です。機密の研究資料などがありますから、本来人を招き入れる場所ではないのですが……。いいでしょう、今日は特別です」
そう言ってタオは花園の中の道を小屋に向かって進む。小石を敷き詰めただけの道は、僕らの足音を空間中に響かせた。こういう音も外までは届かないようにできるのだろうか。
小屋の中は綺麗に整頓されていた。壁際の本棚にはぎっしりと本が詰まっている。観察日誌や薬草の図鑑、それらを薬に精製する研究の日誌などが種類ごとに整理されて並んでいる。
机の上には実験器具が所狭しと並んでいる。どれもこの町では希少な硝子で出来ていた。
「ごめんなさいね。まさかこんな人数を呼ぶ日が来るなんて想定されていないものですから……」
僕らは狭い空間にぎゅうぎゅうに押し込まれていた。小屋の中は研究スペースと生活スペースに分かれており、僕らは生活スペースのダイニングや応接室に通されたはずなのだが、溢れだした僕やレナは研究スペースにいたのだった。
「タオがたまに姿を消すことがあったのは、ここに来ていたからだったのだな」
ヨルダが感慨深げに見回している。今までは夫にも隠しておくほどの徹底ぶりだったのか。
「ヨルダ、今まで隠していたこと悪く思わないでくださいね。絶対に人に秘密を知られてはいけない……それが花園の守り人の務めでしたので。ですがこれからはそうもいきません。外部のものに知られてしまった以上、ここを守るためにはあなた方冒険者に知っておいてもらわなくてはならないのです」
「町にいる画家とか詩人には言わないのか?こんな絶景が町の地下にあるなんて知れたら、大喜びすると思うぜ?」
「そうですね、彼らにはやはり秘密にしなければならないと思います。喜んだ彼らは、ここのことを歌や絵にしたくなるでしょう。そういう記録は残されるとトラブルの種になりますからね」
「そうか。じゃあ俺らもここにいるもの以外には明かさない方がいいってことか」
「ルリィちゃん、絵にはしちゃダメだってよ」
「デミお姉さま、気付かれていたのですか!すみません、描いたスケッチは破棄します……」
ルリィは既に何枚か絵を描いてしまっていたらしい。泣く泣く彼女はスケッチブックからその絵を破りとる。
「ごめんなさいね。情報漏洩は必要最低限に抑えたいのよ。ただあなたのスケッチ力は正直欲しいわね。新しい薬草が見つかったときは私が自分で描いてみたりしたのだけれど、どうにも上手く描けませんでしたので」
「じゃあ!じゃあ!!たまにここに来て絵を描いてもよろしいのですか?」
「あまり頻繁に来られると、花園が見つかるリスクが増えちゃうので控えてもらえると嬉しいですが……」
そこでちらっとデミの方を見る。
「絵を手伝ってもらうかどうかは次代の守り人に任せましょうかね。5年は先の話ですが」
「えっ!えっ!!デミお姉さまが後継者になるのですか!?」
「いや、あたしじゃなくて……。いやいや、まだ決まった話じゃないから。タオが勝手に言ってるだけだから」
彼女は何だかはっきりしない。タオのデミを見る目が鋭くなったのは気のせいだろうか。
ふと机の上の額縁に目が止まる。そこには一枚の古い写真が飾られていた。写真は機械を用いるほかに、念写と言うレアスキルで描くことができる。その写真には小屋の前で仲睦まじく立つ二人の男女が描かれていた。
「タオさん、この二人はどなたですか?」
写真を手に取り聞いてみる。
「その女性の方が初代守り人よ」
隣にいたレナがはっとする。
「それって……ギルドで聞いたお話の?」
「ええ。旅の男を介抱して恋心を抱き、嫉妬に駆られて呪いの力を手に入れてしまった女です。そしてその写真を念写したのが助手であり、2代目守り人であり、私の先祖です」
レナに尋ねるような視線を向けると、「あとで話してあげるから」と言って写真をじっと見つめ始めた。
「この人……狐耳?まさかアローペークス!?」
「ええ、そうです。狐を祖先に持つ人類種アローペークス。ライカンスロープの中でも希少とされる彼らは、精霊との結び付きが特に強い。だからこそ希少な薬草を育てることができたのでしょう。彼女は結局男に捨てられ東の方へと旅立ったと記されていました」
「この人、こんなに幸せそうなのに……。男の方が悪いんじゃないかと思えてきたわ」
「そうですね。私もそう思います。男はここに滞在していた間、彼女だけでなく助手である私の祖先にも手を出したようです」
「え……それじゃあ……」
「私もその男の血を引いているのです」
レナが複雑そうな顔をしてごめんと一言漏らした。事情はよく分からないが、初代守り人は変な男に捕まって大変な目に遭ったと言うことだろうか。
「ところで奇跡の花ってのはどれなんだ?」
窓の外を見ていたユクトルがタオに尋ねる。良かった、変な空気はこれで入れ代わるだろう。
「ああ、それでしたらこの小屋の前の花壇です」
そこには一面クローバーが生えていた。
「おいおい!これ全部四つ葉じゃねえか。どうなってるんだ?」
「そう。この花壇には四つ葉のクローバーしか生えないんです。そしてその花にだけ奇跡の力が宿るのです」
「この花壇だけ……何か魔法でもかけられてるのか?」
「さあ。こればっかりは私にも分かりません。ただ言い伝えられた方法で育て続けるのみです。私には本当に効果があるのかも分からないですからね」
「ふうん。それを知るのは初代のアローペークスだけってことか」
その後、僕らは名残惜しみながら花園を後にした。町へは壁沿いの階段を登り、ポエトロの町の地下を進む隠し通路を通って帰れるらしい。その通路の出口は冒険者ギルドの地下に繋がっていた。
「さあ、帰ったら盛大に宴よ!あたしも踊っちゃうんだから」
「おおー、まじか!今夜は幻のアイドルが踊るぞ!ぱーっと行こう!!」
デミの提案に男たちは大盛り上がり。タオも仕方ないわね、とギルドを使う許可を出してくれた。
「結局盗賊団には奇跡の花を奪われちまったしな。こういうときは飲んで騒いで忘れるに限るぜ!」
ヘルハウンドの襲撃から始まった、ポエトロの町の伝説『秘密の花園』にまつわる一連の騒動は、最後に盛大などんちゃん騒ぎをして幕を閉じることになりそうだ。
結局アリシア盗賊団には逃げられてしまったが、偶然にもアリスと出会ったことで少しこの世界のことが分かった。何もかもが前世とは異なる世界ではあるが、前世との繋がりが全くないわけではない。
ここは確かに前世の世界と行き来できる場所なのだ。つまり……。
また姫様に会える!
何もできなかった戦いの最後に、僕はその希望をしっかりと胸に刻んだ。煌々と賑わう夜のポエトロにムーンハウンドの遠吠えが響いていた。
タオは覚悟を決めたように上を見上げてそう言った。
その後タオが指したのは、その部屋の壁の上方にひっそりと開いた抜け穴だった。デミが現れたのもこの穴からだったらしい。空を飛べるモルトが先に入り、僕らは彼が垂らしてくれたロープを伝って登る。
「この穴は元々花園からの排水用の穴だったんです。この洞窟は昔は天然の地下水路だったのですよ。川の流れが変わって今ではすっかり干からびちゃいましたが」
僕らは真っ直ぐに暗い一本道を進んでいく。タオは話しながら壁を探っている。道はまだ先へ続いているが、彼女は途中で立ち止まった。
「ここね」
そう言って手に魔力を込める。すると壁だった場所がすっと消え、登り階段が現れていた。
「そうなってたのね。一方通行だって聞いたときはわけが分からなかったけど、来るときに降りた階段が振り返ったときには無くなってたから結構びっくりしたのよ」
デミが感心した様子で階段をまじまじと見る。
「なるほど、これでは普通の手段で盗賊が花園に辿り着けたわけはないな。土の中を通り抜けない限り」
「そうね。相手にそんな魔法を使える人がいたのが誤算だったわ」
階段を登ってゆくと、上からうっすらと光が差し始めた。洞窟の中に月明かりが届いているらしい。
「着きました。ここが、私たち『花園の守り人』が代々秘密にしてきた場所、ポエトロの町の地下に広がるお花畑、ブルムンタウンです」
階段を上りきるとそこは広大な空洞になっており、一面に色とりどりの花が咲き乱れ、月明かりに照らされて幻想的な空間を作り上げていた。ここが……秘密の花園。真っ暗な道を潜り抜けたあとに広がったこの光景に、思わず胸が高鳴るのを感じたのだった。
「まさかポエトロの町の地下にこんな空洞があって、こんな景色が広がっていたなんて……」
「この月明かりはどこから来てるんだ?あんな大穴、町にはねえぞ?」
「不思議……。穴は上にしかないのに、風が吹いていますわ。気持ちいい……」
僕らはみんなしばらくこの光景に見惚れたあと、次々と湧いてくる疑問をぽつりぽつりと漏らしていた。
「ふふふ。皆さん口が開いていますよ。この穴は皆さんご存じ、町の西の広場にある大きな切り株の位置にあります。切り株に登ったり切り株より高い建物を建てたりするのは禁止されていますからね。今では私以外誰も知りませんが、実はこんな穴が開いていたのです。風は魔法で起こしています。時々空気を循環させないと、瘴気が溜まって薬草が毒草になってしまうんですよ。ただ自然の風を吹かせてしまうと空洞音が鳴ってしまいますからね。色々と工夫しているんです」
タオはにこにこしながら説明する。ずっと誰にも内緒にしてきたことを話すその顔は、いたずらを成功させた子供のように輝いていた。
「あの小屋は何?」
エミルが尋ねる。この空間の中央付近には1階建ての小さなログハウスが建っていた。
「あそこは代々この花園の守り人が過ごしてきた管理小屋です。機密の研究資料などがありますから、本来人を招き入れる場所ではないのですが……。いいでしょう、今日は特別です」
そう言ってタオは花園の中の道を小屋に向かって進む。小石を敷き詰めただけの道は、僕らの足音を空間中に響かせた。こういう音も外までは届かないようにできるのだろうか。
小屋の中は綺麗に整頓されていた。壁際の本棚にはぎっしりと本が詰まっている。観察日誌や薬草の図鑑、それらを薬に精製する研究の日誌などが種類ごとに整理されて並んでいる。
机の上には実験器具が所狭しと並んでいる。どれもこの町では希少な硝子で出来ていた。
「ごめんなさいね。まさかこんな人数を呼ぶ日が来るなんて想定されていないものですから……」
僕らは狭い空間にぎゅうぎゅうに押し込まれていた。小屋の中は研究スペースと生活スペースに分かれており、僕らは生活スペースのダイニングや応接室に通されたはずなのだが、溢れだした僕やレナは研究スペースにいたのだった。
「タオがたまに姿を消すことがあったのは、ここに来ていたからだったのだな」
ヨルダが感慨深げに見回している。今までは夫にも隠しておくほどの徹底ぶりだったのか。
「ヨルダ、今まで隠していたこと悪く思わないでくださいね。絶対に人に秘密を知られてはいけない……それが花園の守り人の務めでしたので。ですがこれからはそうもいきません。外部のものに知られてしまった以上、ここを守るためにはあなた方冒険者に知っておいてもらわなくてはならないのです」
「町にいる画家とか詩人には言わないのか?こんな絶景が町の地下にあるなんて知れたら、大喜びすると思うぜ?」
「そうですね、彼らにはやはり秘密にしなければならないと思います。喜んだ彼らは、ここのことを歌や絵にしたくなるでしょう。そういう記録は残されるとトラブルの種になりますからね」
「そうか。じゃあ俺らもここにいるもの以外には明かさない方がいいってことか」
「ルリィちゃん、絵にはしちゃダメだってよ」
「デミお姉さま、気付かれていたのですか!すみません、描いたスケッチは破棄します……」
ルリィは既に何枚か絵を描いてしまっていたらしい。泣く泣く彼女はスケッチブックからその絵を破りとる。
「ごめんなさいね。情報漏洩は必要最低限に抑えたいのよ。ただあなたのスケッチ力は正直欲しいわね。新しい薬草が見つかったときは私が自分で描いてみたりしたのだけれど、どうにも上手く描けませんでしたので」
「じゃあ!じゃあ!!たまにここに来て絵を描いてもよろしいのですか?」
「あまり頻繁に来られると、花園が見つかるリスクが増えちゃうので控えてもらえると嬉しいですが……」
そこでちらっとデミの方を見る。
「絵を手伝ってもらうかどうかは次代の守り人に任せましょうかね。5年は先の話ですが」
「えっ!えっ!!デミお姉さまが後継者になるのですか!?」
「いや、あたしじゃなくて……。いやいや、まだ決まった話じゃないから。タオが勝手に言ってるだけだから」
彼女は何だかはっきりしない。タオのデミを見る目が鋭くなったのは気のせいだろうか。
ふと机の上の額縁に目が止まる。そこには一枚の古い写真が飾られていた。写真は機械を用いるほかに、念写と言うレアスキルで描くことができる。その写真には小屋の前で仲睦まじく立つ二人の男女が描かれていた。
「タオさん、この二人はどなたですか?」
写真を手に取り聞いてみる。
「その女性の方が初代守り人よ」
隣にいたレナがはっとする。
「それって……ギルドで聞いたお話の?」
「ええ。旅の男を介抱して恋心を抱き、嫉妬に駆られて呪いの力を手に入れてしまった女です。そしてその写真を念写したのが助手であり、2代目守り人であり、私の先祖です」
レナに尋ねるような視線を向けると、「あとで話してあげるから」と言って写真をじっと見つめ始めた。
「この人……狐耳?まさかアローペークス!?」
「ええ、そうです。狐を祖先に持つ人類種アローペークス。ライカンスロープの中でも希少とされる彼らは、精霊との結び付きが特に強い。だからこそ希少な薬草を育てることができたのでしょう。彼女は結局男に捨てられ東の方へと旅立ったと記されていました」
「この人、こんなに幸せそうなのに……。男の方が悪いんじゃないかと思えてきたわ」
「そうですね。私もそう思います。男はここに滞在していた間、彼女だけでなく助手である私の祖先にも手を出したようです」
「え……それじゃあ……」
「私もその男の血を引いているのです」
レナが複雑そうな顔をしてごめんと一言漏らした。事情はよく分からないが、初代守り人は変な男に捕まって大変な目に遭ったと言うことだろうか。
「ところで奇跡の花ってのはどれなんだ?」
窓の外を見ていたユクトルがタオに尋ねる。良かった、変な空気はこれで入れ代わるだろう。
「ああ、それでしたらこの小屋の前の花壇です」
そこには一面クローバーが生えていた。
「おいおい!これ全部四つ葉じゃねえか。どうなってるんだ?」
「そう。この花壇には四つ葉のクローバーしか生えないんです。そしてその花にだけ奇跡の力が宿るのです」
「この花壇だけ……何か魔法でもかけられてるのか?」
「さあ。こればっかりは私にも分かりません。ただ言い伝えられた方法で育て続けるのみです。私には本当に効果があるのかも分からないですからね」
「ふうん。それを知るのは初代のアローペークスだけってことか」
その後、僕らは名残惜しみながら花園を後にした。町へは壁沿いの階段を登り、ポエトロの町の地下を進む隠し通路を通って帰れるらしい。その通路の出口は冒険者ギルドの地下に繋がっていた。
「さあ、帰ったら盛大に宴よ!あたしも踊っちゃうんだから」
「おおー、まじか!今夜は幻のアイドルが踊るぞ!ぱーっと行こう!!」
デミの提案に男たちは大盛り上がり。タオも仕方ないわね、とギルドを使う許可を出してくれた。
「結局盗賊団には奇跡の花を奪われちまったしな。こういうときは飲んで騒いで忘れるに限るぜ!」
ヘルハウンドの襲撃から始まった、ポエトロの町の伝説『秘密の花園』にまつわる一連の騒動は、最後に盛大などんちゃん騒ぎをして幕を閉じることになりそうだ。
結局アリシア盗賊団には逃げられてしまったが、偶然にもアリスと出会ったことで少しこの世界のことが分かった。何もかもが前世とは異なる世界ではあるが、前世との繋がりが全くないわけではない。
ここは確かに前世の世界と行き来できる場所なのだ。つまり……。
また姫様に会える!
何もできなかった戦いの最後に、僕はその希望をしっかりと胸に刻んだ。煌々と賑わう夜のポエトロにムーンハウンドの遠吠えが響いていた。
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