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第2章
裏切られて
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「はぁ? どういうこと?」
「だ、だからさ、あの車は2ドアだし、ファミリー向けじゃないだろ。だからミニバンにした」
慎ちゃんがいつもより遅くに帰宅して、まだ3ヶ月しか乗っていない新車を下取らせて、ミニバンに買い替えたと言った。
「大きな買い物をするときは事前に相談すべきでしょう! 子供も生まれていないのに、どうして慌てて買い替えなきゃいけないのよっ!」
「中古車だけど、すごくお買い得な車だったんだよ。いま買わないとすぐになくなるって言われてさ」
やはり慎ちゃんに父の遺産の話などすべきではなかった。こんなに金銭感覚のおかしな人とは思わなかった。
「安いからって何でも衝動買いされたら、たまったものじゃないわ。子供にはとってもお金がかかるのよ。車なんて買い換えてる場合じゃないでしょっ!」
子供のための車より、ローンを減らすほうが大切だと、なぜ気づけないのか。
「じ、実を言うとさ、あの車、昨日友人にゲロを吐かれちゃったんだ。拭き取っても何をしても臭いが残っちゃってさ、あんな車は沙織が嫌だろうと思って」
「私ならきれいにお掃除ができたわよ。ゲロの始末くらい慣れてるわ。とにかく、その車は今すぐ返品してちょうだい ‼︎ それからまだあるのよ、このクレジット会社からの請求書ってなんなの? もう、全部返済したはずでしょ!」
「そ、それは車の頭金だよ。ディーラーローンより、カードローンの方が金利が安かったんだ。だから、借りて頭金にした。相談しないで決めてごめん。とにかくゲロの匂いが酷くてさ、沙織には嗅がせたくなかったんだ」
まるで、私のための配慮だと言わんばかりの態度だけれど、そんなの優しさとは違うでしょ。
「ダメよ、私は今の車が気に入ってたの。子供ができてもいないのに、ミニバンになんて乗りたくないわ!」
「もう契約しちゃったんだよ。また買いなおすと、かなり損をすることになるよ。あの車、まだ3ヶ月した乗ってなかっただろう。すごく高く下取ってくれたんだ。だから、100万円のローンは増えたけど、前の車のローンは減ったから」
「……もういい、勝手にして!」
一緒に食べるはずの夕食も摂らずに、ひとり寝室へ向った。
慎ちゃんにここまで腹が立ったのは初めてだ。こんな悩みがこれからもずっと続くのかと思い、怒りの気持ちを鎮めることができなかった。
ベッドに身体を投げ出し、突っ伏すと涙がにじんできた。
ーーどうしてうまくいかないんだろう。
ごく平凡な幸せを望んでいるだけなのに。
私にはそんな幸せも与えられないの?
しばらくしてから部屋のドアが開き、慎ちゃんが入ってきた。
「ごめん、、本当に、もう本当に買い物はしないよ。これ僕のクレカとキャッシュカード、みんな沙織に渡すから。ねぇ、頼むから機嫌なおしてよ、スープカレ一緒に食べようよ。ねぇ、お腹すいたよ。すごく美味しそうだよ、スープカレー食べようよ、ねぇったら、、」
甘えたように私の肩を揺さぶる。
人柄のせいなのか、年下だからなのか、慎ちゃんが相手だと、なぜか怒りの気持ちもスルスルと半減されてしまう。
「もう、絶対に内緒で買い物なんてしないでよ!」
「しないしない、絶対にしないから」
慎ちゃんを信じて起きあがり、キッチンへ戻って、温めてあったスープカレーを盛り付けた。
素揚げしたレンコンや茄子、かぼちゃやズッキーニなどをトッピングした。
「おー、きれいで旨そう! 僕って幸せ者だなぁ。あーあ、もっと稼げる亭主になりたいなぁ」
1日置いたスープカレーは、まろやかさが増して、昨日よりずっと美味しくなっていた。
「うわっ、めっちゃ旨い! これ売れるじゃん。ねぇ、病院やめてカレー屋さんやらない? いいと思わないか? 300万くらいあればお店出せるんじゃないかな?」
「やめてったら! 夢みたいなこと言ってないで。慎ちゃんは出費を減らすことだけ考えて!」
もう、慎ちゃんったら……。
「お店を出すくらい、別に夢みたいなことじゃないだろう。これ、本当に美味しいよ」
いつか慎ちゃんに上手く丸め込まれて、本当にお店の資金を出してしまいそうな不安がよぎる。
「そういえば昨日はどこへ泊まったの? 」
「えっ、あ、、ああ、大学時代の友人のところだよ」
そんなところだろうとは思っていたけれど、なんとなく狼狽えて見えた慎ちゃんに不信感をおぼえた。
「本当? 浮気じゃないでしょうね? 」
「浮気なんて、、するわけないじゃないか。それだけは僕、自信があるよ。絶対に、絶対にしないから!」
冗談で言ったのに、焦ったようにムキになって誓う慎ちゃんが可愛い。
「そうね、それは私も信じてる。ウフフッ」
「なんだよ、その笑い方。なんか僕が全然モテないみたいな言い方だな」
カレーをもぐもぐ食べていた慎ちゃんが、むくれたように口をへの字に曲げた。
「そんなことないわよ、慎ちゃんは人気者だもん。私、病院の女性職員たちから恨まれてるのよ」
「ハハハッ、それはずいぶん大袈裟だな。僕がそんなにモテるわけないだろう。とにかく浮気はしないから」
そう、慎ちゃんは浮気なんてしない。
ーー松田先生とは違うもの。
夜勤者に申し送りをすませ、タイムカードを押してナースステーションを出た。
晩ご飯、何にしよう?
階段を下りながら考える。
たまには外食がしたいな。
子供ができたら、夫婦二人で出かけることは難しくなるって既婚者の誰かが言っていた。
そうだわ、別に貯金が底をついてるわけでもないんだし、新婚なのにケチケチしていたら楽しくないわ。
子供が出来るまでは、うーんと楽しんでおいた方がいいわよね。
よーし、今夜は慎ちゃんとどこかへ食べに行こう。ロマンチックにホテルディナーがいいかなぁ。
まだ外も明るいし、小樽までドライブして、美味しい海鮮料理を食べて来るのもいいかもしれない。
一階のロビーを通り、更衣室へ向かっていたら、
「お疲れ様、橋本さん!」
誰かに後ろから声をかけられた。
振り向くと事務員の渡辺さんだった。
橋本さんと呼ばれることにまだ慣れてなく、病棟では未だに旧姓の北村で呼ばれている。
みんな、わたしが慎ちゃんと結婚したことを快く思っていないから。
事務の渡辺さんとなど、今まで話をした覚えもないけれど、一体なに用だろう?
慎ちゃんはもう、駐車場で私が来るのを待っているばずだ。
ーー早く帰りたいのに。
「何ですか? なにかご用?」
いつもそうだけれど、無愛想につっけんどんな返事をした。
「実はあなたに慎也くんのことで、お礼とお詫びが言いたかったの」
挑戦的な目つきと態度には、侮蔑がこめられていた。
こんな野暮ったい年増の女と、慎ちゃんが何かあったはずもない。
「お礼とお詫び? なんのことかしら? 悪いけど急いでるの。手短に話してもらえます?」
「すぐに終わるわよ。まず百万円のお礼が言いたかったの」
「百万円 ⁉︎」
「聞いてなかった? じゃあ、あの百万円はあなたに内緒でくれたのかしら。同居中にお世話になったお礼がしたいからって、この間、突然アパートを訪ねて来たの。もうびっくりしたわ」
「………」
「ごめんなさい。やっぱり内緒だったのね。去年のことだけど、慎也くん家賃を滞納しすぎて、アパートを追い出されたことがあったの。その頃、私たち付き合っていたし、可哀想だから同居してあげたのよ。だけど、慎也くんってほら、金遣いが荒いでしょ。もう、嫌になっちゃって追い出したんだけど、慎也くんはまだ私に未練があったみたいなの」
「そんなの嘘よ ‼︎ 」
慎ちゃんがこの女に未練があるなんて絶対に嘘だ。
他の人たちと同じで、わたしを妬んでいるだけだわ。
こんなに敵意むき出しで挑戦的なところをみると、今もまだ好きなんだわ。
だけど、百万円って………
「信じないなら信じなくてもいいけど、せっかくだから百万円は遠慮なく頂いておくわ。
それと、この間一緒に飲みに行ったとき、わたし気持ちが悪くなっちゃって、車の中で吐いてしまったの。ごめんなさい」
ーー嘘でしょ、慎ちゃん、嘘よね、、
そんなことって、、
「ああ、それからこれっ、」
渡辺美波は制服のポケットに手を入れると、ゴソゴソ探して何かを取り出した。
「このボタン、慎也くんのじゃないかしら。ベッドの下に落ちてたの。探しているんじゃないかと思って」
つまんだ小さなボタンをわたしに手渡した。
以前に買ってあげた、ラルフローレンのポロシャツのボタンだった。
確かにこの間、洗濯物をたたんでいたとき、ボタンがひとつ無くなっていることに気づいた。
もうなにも言えなくなり、絶望感に苛まれる。
「言いたかったのはそれだけよ。じゃあ、お幸せにね」
渡辺美波が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて去っていった。
ーー慎ちゃんが、わたしに嘘をついていた。
あんな女に執着して、お金まで渡して浮気をしていたなんて……。
患者も誰もいないロビーで立ちすくみ、しばらくの間、なにも考えられなかった。
「はぁ? どういうこと?」
「だ、だからさ、あの車は2ドアだし、ファミリー向けじゃないだろ。だからミニバンにした」
慎ちゃんがいつもより遅くに帰宅して、まだ3ヶ月しか乗っていない新車を下取らせて、ミニバンに買い替えたと言った。
「大きな買い物をするときは事前に相談すべきでしょう! 子供も生まれていないのに、どうして慌てて買い替えなきゃいけないのよっ!」
「中古車だけど、すごくお買い得な車だったんだよ。いま買わないとすぐになくなるって言われてさ」
やはり慎ちゃんに父の遺産の話などすべきではなかった。こんなに金銭感覚のおかしな人とは思わなかった。
「安いからって何でも衝動買いされたら、たまったものじゃないわ。子供にはとってもお金がかかるのよ。車なんて買い換えてる場合じゃないでしょっ!」
子供のための車より、ローンを減らすほうが大切だと、なぜ気づけないのか。
「じ、実を言うとさ、あの車、昨日友人にゲロを吐かれちゃったんだ。拭き取っても何をしても臭いが残っちゃってさ、あんな車は沙織が嫌だろうと思って」
「私ならきれいにお掃除ができたわよ。ゲロの始末くらい慣れてるわ。とにかく、その車は今すぐ返品してちょうだい ‼︎ それからまだあるのよ、このクレジット会社からの請求書ってなんなの? もう、全部返済したはずでしょ!」
「そ、それは車の頭金だよ。ディーラーローンより、カードローンの方が金利が安かったんだ。だから、借りて頭金にした。相談しないで決めてごめん。とにかくゲロの匂いが酷くてさ、沙織には嗅がせたくなかったんだ」
まるで、私のための配慮だと言わんばかりの態度だけれど、そんなの優しさとは違うでしょ。
「ダメよ、私は今の車が気に入ってたの。子供ができてもいないのに、ミニバンになんて乗りたくないわ!」
「もう契約しちゃったんだよ。また買いなおすと、かなり損をすることになるよ。あの車、まだ3ヶ月した乗ってなかっただろう。すごく高く下取ってくれたんだ。だから、100万円のローンは増えたけど、前の車のローンは減ったから」
「……もういい、勝手にして!」
一緒に食べるはずの夕食も摂らずに、ひとり寝室へ向った。
慎ちゃんにここまで腹が立ったのは初めてだ。こんな悩みがこれからもずっと続くのかと思い、怒りの気持ちを鎮めることができなかった。
ベッドに身体を投げ出し、突っ伏すと涙がにじんできた。
ーーどうしてうまくいかないんだろう。
ごく平凡な幸せを望んでいるだけなのに。
私にはそんな幸せも与えられないの?
しばらくしてから部屋のドアが開き、慎ちゃんが入ってきた。
「ごめん、、本当に、もう本当に買い物はしないよ。これ僕のクレカとキャッシュカード、みんな沙織に渡すから。ねぇ、頼むから機嫌なおしてよ、スープカレ一緒に食べようよ。ねぇ、お腹すいたよ。すごく美味しそうだよ、スープカレー食べようよ、ねぇったら、、」
甘えたように私の肩を揺さぶる。
人柄のせいなのか、年下だからなのか、慎ちゃんが相手だと、なぜか怒りの気持ちもスルスルと半減されてしまう。
「もう、絶対に内緒で買い物なんてしないでよ!」
「しないしない、絶対にしないから」
慎ちゃんを信じて起きあがり、キッチンへ戻って、温めてあったスープカレーを盛り付けた。
素揚げしたレンコンや茄子、かぼちゃやズッキーニなどをトッピングした。
「おー、きれいで旨そう! 僕って幸せ者だなぁ。あーあ、もっと稼げる亭主になりたいなぁ」
1日置いたスープカレーは、まろやかさが増して、昨日よりずっと美味しくなっていた。
「うわっ、めっちゃ旨い! これ売れるじゃん。ねぇ、病院やめてカレー屋さんやらない? いいと思わないか? 300万くらいあればお店出せるんじゃないかな?」
「やめてったら! 夢みたいなこと言ってないで。慎ちゃんは出費を減らすことだけ考えて!」
もう、慎ちゃんったら……。
「お店を出すくらい、別に夢みたいなことじゃないだろう。これ、本当に美味しいよ」
いつか慎ちゃんに上手く丸め込まれて、本当にお店の資金を出してしまいそうな不安がよぎる。
「そういえば昨日はどこへ泊まったの? 」
「えっ、あ、、ああ、大学時代の友人のところだよ」
そんなところだろうとは思っていたけれど、なんとなく狼狽えて見えた慎ちゃんに不信感をおぼえた。
「本当? 浮気じゃないでしょうね? 」
「浮気なんて、、するわけないじゃないか。それだけは僕、自信があるよ。絶対に、絶対にしないから!」
冗談で言ったのに、焦ったようにムキになって誓う慎ちゃんが可愛い。
「そうね、それは私も信じてる。ウフフッ」
「なんだよ、その笑い方。なんか僕が全然モテないみたいな言い方だな」
カレーをもぐもぐ食べていた慎ちゃんが、むくれたように口をへの字に曲げた。
「そんなことないわよ、慎ちゃんは人気者だもん。私、病院の女性職員たちから恨まれてるのよ」
「ハハハッ、それはずいぶん大袈裟だな。僕がそんなにモテるわけないだろう。とにかく浮気はしないから」
そう、慎ちゃんは浮気なんてしない。
ーー松田先生とは違うもの。
夜勤者に申し送りをすませ、タイムカードを押してナースステーションを出た。
晩ご飯、何にしよう?
階段を下りながら考える。
たまには外食がしたいな。
子供ができたら、夫婦二人で出かけることは難しくなるって既婚者の誰かが言っていた。
そうだわ、別に貯金が底をついてるわけでもないんだし、新婚なのにケチケチしていたら楽しくないわ。
子供が出来るまでは、うーんと楽しんでおいた方がいいわよね。
よーし、今夜は慎ちゃんとどこかへ食べに行こう。ロマンチックにホテルディナーがいいかなぁ。
まだ外も明るいし、小樽までドライブして、美味しい海鮮料理を食べて来るのもいいかもしれない。
一階のロビーを通り、更衣室へ向かっていたら、
「お疲れ様、橋本さん!」
誰かに後ろから声をかけられた。
振り向くと事務員の渡辺さんだった。
橋本さんと呼ばれることにまだ慣れてなく、病棟では未だに旧姓の北村で呼ばれている。
みんな、わたしが慎ちゃんと結婚したことを快く思っていないから。
事務の渡辺さんとなど、今まで話をした覚えもないけれど、一体なに用だろう?
慎ちゃんはもう、駐車場で私が来るのを待っているばずだ。
ーー早く帰りたいのに。
「何ですか? なにかご用?」
いつもそうだけれど、無愛想につっけんどんな返事をした。
「実はあなたに慎也くんのことで、お礼とお詫びが言いたかったの」
挑戦的な目つきと態度には、侮蔑がこめられていた。
こんな野暮ったい年増の女と、慎ちゃんが何かあったはずもない。
「お礼とお詫び? なんのことかしら? 悪いけど急いでるの。手短に話してもらえます?」
「すぐに終わるわよ。まず百万円のお礼が言いたかったの」
「百万円 ⁉︎」
「聞いてなかった? じゃあ、あの百万円はあなたに内緒でくれたのかしら。同居中にお世話になったお礼がしたいからって、この間、突然アパートを訪ねて来たの。もうびっくりしたわ」
「………」
「ごめんなさい。やっぱり内緒だったのね。去年のことだけど、慎也くん家賃を滞納しすぎて、アパートを追い出されたことがあったの。その頃、私たち付き合っていたし、可哀想だから同居してあげたのよ。だけど、慎也くんってほら、金遣いが荒いでしょ。もう、嫌になっちゃって追い出したんだけど、慎也くんはまだ私に未練があったみたいなの」
「そんなの嘘よ ‼︎ 」
慎ちゃんがこの女に未練があるなんて絶対に嘘だ。
他の人たちと同じで、わたしを妬んでいるだけだわ。
こんなに敵意むき出しで挑戦的なところをみると、今もまだ好きなんだわ。
だけど、百万円って………
「信じないなら信じなくてもいいけど、せっかくだから百万円は遠慮なく頂いておくわ。
それと、この間一緒に飲みに行ったとき、わたし気持ちが悪くなっちゃって、車の中で吐いてしまったの。ごめんなさい」
ーー嘘でしょ、慎ちゃん、嘘よね、、
そんなことって、、
「ああ、それからこれっ、」
渡辺美波は制服のポケットに手を入れると、ゴソゴソ探して何かを取り出した。
「このボタン、慎也くんのじゃないかしら。ベッドの下に落ちてたの。探しているんじゃないかと思って」
つまんだ小さなボタンをわたしに手渡した。
以前に買ってあげた、ラルフローレンのポロシャツのボタンだった。
確かにこの間、洗濯物をたたんでいたとき、ボタンがひとつ無くなっていることに気づいた。
もうなにも言えなくなり、絶望感に苛まれる。
「言いたかったのはそれだけよ。じゃあ、お幸せにね」
渡辺美波が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて去っていった。
ーー慎ちゃんが、わたしに嘘をついていた。
あんな女に執着して、お金まで渡して浮気をしていたなんて……。
患者も誰もいないロビーで立ちすくみ、しばらくの間、なにも考えられなかった。
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