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帰宅して
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家に着き、玄関のドアを開けると、リビングから母が飛び出してきた。
「彩矢、どうして電話に出てくれなかったの! 何度もしたのに一体どこにいたのっ!!」
充血した目に涙を溜めて叱った。
母の後ろから、めずらしく父も姿を現した。
久しぶりに父を見て、そうか今日は日曜日だったと思った瞬間、ビシッ!! と、平手打ちされた。
「一体、どこまで親に心配をかければ気がすむんだ!」
二日酔いもはじめてなら、父にぶたれたのもはじめてだ。
怒りも悲しみもなく、ただ申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんなさい」
父の顔を見ることもできずにうなだれた。
「松田っていう奴といっしょだったのか? 同じ病院の人間だな?」
「………」
「どうするつもりなんだ。結婚するのか?」
「……しない」
「結婚もしない男と一晩中いっしょにいたのかっ!」
「………」
「会わせろ、その松田って男に。今すぐ電話しろ!」
こめかみに青筋を立てて父が激怒した。
「……先生が悪いんじゃないの。彩矢が、彩矢が泊まりたいって言ったから、ごめんなさい」
「彩矢、どうしてそんなこと」
母が泣き出しそうな声を出した。
「呆れたな。甘やかして育てるから、こんな事になる。今後は門限十時だ。一分でも遅れてみろ、家に入れないからな!」
父がリビングへ戻り、ドアを叩きつけるように閉めた。
やっと自分の部屋に戻れてホッとする。
頭が重い。
ベッドに横になり、目を閉じた。
先生は今頃どうしているだろう。
日曜の今日も術後患者や重篤患者を診に行っているのだろうな。
スマホが鳴りだし、 かけてきたのは佐野さんだった。
「彩矢ちゃん? もしかして忘れてた? 十一時に迎えに行くって言ったこと。さっきから家の前に着いてるけど」
「あ、……佐野さん、ごめんなさい。私、……熱を出しちゃって忘れてた。ほんとにごめんなさい」
「そうかぁ、俺のせいだな、風邪引かせたの。ごめん。じゃあ、ゆっくり休んで早く治せよ。また電話する」
「うん……」
今ならまだ佐野さんとの婚約は断れるのではないだろうか。まるで思いついたかのようにした口約束なのだから。
先生は明るく見えても、奥さんと子どもを亡くしたばかりなのに……。
失意の中で黙々と仕事をして元気に振る舞っていた人に、あんな別れ方しかしてあげられなかった。
うなだれて出ていった後ろ姿を思い出して、また涙が止まらなくなる。
翌日の佐野さんからのLINE。
『気分はどう? 熱は下がったかい?』
『インフルエンザでした。しばらく会えないと思いま す。ごめんなさい』
本当は嘘ばかりついてごめんなさいと言いたい。今はとても佐野さんに会う気分にはなれない。
『インフルエンザかぁ~ じゃあ、クリスマスも無理そうだな。がっかりだけど自分のせいだからな。本当にごめん。なにか俺にできる事はないかな?』
『大丈夫、家で静かに寝てるから。心配かけてごめんなさい。佐野さんも風邪引かないように気をつけてね』
『早く会いたいなぁ~ 熱があるなら具合が悪いよな、ごめん。じゃあ、また明日LINEする』
先生がホテルに置き忘れていった指輪を、どうしたらよいかと思い悩む。
住所を聞いて送り返すしかないけど、気が重い。
もしかしたら、早く返して欲しいと思っているかも知れない。
値段はよくわからないけれど、高価なものだろう。
やっぱりすぐに聞いて送り返してあげよう。
『ホテルに置き忘れた指輪を送りたいので、住所を教えてください』
既読されているのに返事がない。
莉子ちゃんの言ったことを信じていなかったら、佐野さんに会うこともなく、今頃この指輪を喜んで受け取っていたのだろうか。
だとすれば、この二ヶ月の間、落ち込んで反省したつもりでいたことはなんだったんだろうと思う。
結局、自分のしたいようにしてしまうのだとすれば、なんの反省にもなっていない。ただ親に甘えて引きこもっていただけではないか。
やっぱり、先生のことはあきらめよう。
好きであるならなおのこと、あきらめるべきだ。
いくら幸せになる権利があったとしても……。
先生からのプロポーズを断わった日以来、ずっと気持ちが高ぶったまま落ち着かない日々を過ごした。
佐野さんに会いたいという気持ちは、急激に低下していた。
先生のことは諦めないといけないとわかっていても、逢いたい気持ちだけは誤魔化せなかった………。
「彩矢、どうして電話に出てくれなかったの! 何度もしたのに一体どこにいたのっ!!」
充血した目に涙を溜めて叱った。
母の後ろから、めずらしく父も姿を現した。
久しぶりに父を見て、そうか今日は日曜日だったと思った瞬間、ビシッ!! と、平手打ちされた。
「一体、どこまで親に心配をかければ気がすむんだ!」
二日酔いもはじめてなら、父にぶたれたのもはじめてだ。
怒りも悲しみもなく、ただ申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんなさい」
父の顔を見ることもできずにうなだれた。
「松田っていう奴といっしょだったのか? 同じ病院の人間だな?」
「………」
「どうするつもりなんだ。結婚するのか?」
「……しない」
「結婚もしない男と一晩中いっしょにいたのかっ!」
「………」
「会わせろ、その松田って男に。今すぐ電話しろ!」
こめかみに青筋を立てて父が激怒した。
「……先生が悪いんじゃないの。彩矢が、彩矢が泊まりたいって言ったから、ごめんなさい」
「彩矢、どうしてそんなこと」
母が泣き出しそうな声を出した。
「呆れたな。甘やかして育てるから、こんな事になる。今後は門限十時だ。一分でも遅れてみろ、家に入れないからな!」
父がリビングへ戻り、ドアを叩きつけるように閉めた。
やっと自分の部屋に戻れてホッとする。
頭が重い。
ベッドに横になり、目を閉じた。
先生は今頃どうしているだろう。
日曜の今日も術後患者や重篤患者を診に行っているのだろうな。
スマホが鳴りだし、 かけてきたのは佐野さんだった。
「彩矢ちゃん? もしかして忘れてた? 十一時に迎えに行くって言ったこと。さっきから家の前に着いてるけど」
「あ、……佐野さん、ごめんなさい。私、……熱を出しちゃって忘れてた。ほんとにごめんなさい」
「そうかぁ、俺のせいだな、風邪引かせたの。ごめん。じゃあ、ゆっくり休んで早く治せよ。また電話する」
「うん……」
今ならまだ佐野さんとの婚約は断れるのではないだろうか。まるで思いついたかのようにした口約束なのだから。
先生は明るく見えても、奥さんと子どもを亡くしたばかりなのに……。
失意の中で黙々と仕事をして元気に振る舞っていた人に、あんな別れ方しかしてあげられなかった。
うなだれて出ていった後ろ姿を思い出して、また涙が止まらなくなる。
翌日の佐野さんからのLINE。
『気分はどう? 熱は下がったかい?』
『インフルエンザでした。しばらく会えないと思いま す。ごめんなさい』
本当は嘘ばかりついてごめんなさいと言いたい。今はとても佐野さんに会う気分にはなれない。
『インフルエンザかぁ~ じゃあ、クリスマスも無理そうだな。がっかりだけど自分のせいだからな。本当にごめん。なにか俺にできる事はないかな?』
『大丈夫、家で静かに寝てるから。心配かけてごめんなさい。佐野さんも風邪引かないように気をつけてね』
『早く会いたいなぁ~ 熱があるなら具合が悪いよな、ごめん。じゃあ、また明日LINEする』
先生がホテルに置き忘れていった指輪を、どうしたらよいかと思い悩む。
住所を聞いて送り返すしかないけど、気が重い。
もしかしたら、早く返して欲しいと思っているかも知れない。
値段はよくわからないけれど、高価なものだろう。
やっぱりすぐに聞いて送り返してあげよう。
『ホテルに置き忘れた指輪を送りたいので、住所を教えてください』
既読されているのに返事がない。
莉子ちゃんの言ったことを信じていなかったら、佐野さんに会うこともなく、今頃この指輪を喜んで受け取っていたのだろうか。
だとすれば、この二ヶ月の間、落ち込んで反省したつもりでいたことはなんだったんだろうと思う。
結局、自分のしたいようにしてしまうのだとすれば、なんの反省にもなっていない。ただ親に甘えて引きこもっていただけではないか。
やっぱり、先生のことはあきらめよう。
好きであるならなおのこと、あきらめるべきだ。
いくら幸せになる権利があったとしても……。
先生からのプロポーズを断わった日以来、ずっと気持ちが高ぶったまま落ち着かない日々を過ごした。
佐野さんに会いたいという気持ちは、急激に低下していた。
先生のことは諦めないといけないとわかっていても、逢いたい気持ちだけは誤魔化せなかった………。
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