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新たな希望
しおりを挟む「彩矢ちゃん、寒くない?」
「大丈夫。イルミネーション見たかったから嬉しい」
まだ舗道に雪は積もっていないけれど、少し濡れた路面は凍りついていて滑りやすくなっている。
「夢みたいだな、彩矢ちゃんとイルミネーション見ながら歩けるなんて」
少し照れたように佐野さんは星のない曇り空を見上げた。
「…佐野さんにずっと謝りたかったの」
「俺、彩矢ちゃんと同じ病院にいることが苦痛でさ、逃げたくて。…… 松田先生を殴ったのは本当に俺が悪かったんだ」
「………」
佐野さん、先生を殴ったこと、気にしてたんだ。
「もう、ほんとに彩矢ちゃんのこと忘れようと思った。好きになった途端に苦しい思いばかりさせられたからな。可愛い子ならどこの病院にだっているし、 別に彩矢ちゃんにこだわる必要もないと思ってさ。でも、確かにどこの病院にも可愛い子はいるんだけど、そんなに簡単に人を好きになったりはできないんだな。結局、違う病院に移っても考えることは彩矢ちゃんのことばかりでさ。逢えなくなったぶん淋しくて、彩矢ちゃんの家まで運転したりしてた。ひと目でいいから会いたくて。ストーカーみたいなことやってて情けないよな」
「……どうして彩矢のことなんか」
「恋って、そういうものなんだろう。何年ぶりかな、こんな気持ちになったの。それで彩矢ちゃんの気持ちもだいぶわかるようになったよ。好きになっちゃいけないってわかっても止められないって気持ちがさ」
「佐野さん……」
「俺、今じゃ、彩矢ちゃんのこと好きになって良かったと思ってる。片思いでもさ。好きな女の子がいなかった今までより、ずっと生きてるって気がするんだな。あ、、ごめん、彩矢ちゃんからしたら、未練がましくて迷惑だろうけど」
佐野さんの率直な告白に胸が熱くなる。
「ううん、彩矢のこと、そんなにまで思ってくれてありがとう。……佐野さんが病院辞めちゃったとき、すごく寂しかった。でも嫌な思いばかりさせて申し訳なくて、佐野さんには合わせる顔がなかったから」
「……彩矢ちゃんが迷惑でなかったら、また会ってくれないかな? 二人っきりじゃなくていいんだ。有紀とか誰かと一緒でも」
懇願するようなような目で見つめられた。
「彩矢も佐野さんに会いたい。佐野さん人生相談が得意なんでしょう。彩矢たくさん相談したいことがあるから」
「ほんとに? どうせ恋の悩みだろう。まぁいいや、なんでも聞くよ。また会えるんだったらなんでも聞く」
子供みたいに素直で、なんて純粋な人なのだろうと思った。
「佐野さん……」
絶望して死のうとばかり思っていた自分を、こんなにまで慕ってくれるひと。
こんな自分にも存在する価値があることを、ひたむきに伝えてくれるひと。
この人のためだけに生きてもいい。
もう、捨ててしまおうとしていた命なのだから。
「じゃあ、また明日も会ってくれる?」
「うん」
佐野さんの嬉しそうな顔を見て、やっと生きる希望がわいてきたことを実感した。
いつのまにか、チラチラと細かな雪が降っていた。
「あっ、佐野さん、雪がふってきたよ」
大きく両手を広げて、全身で雪を受け止めた。
冷たい雪が頬にあたってとけた。
ずっと閉ざされていた心を、やっと解き放してくれた、そんなやさしい雪だった。
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