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莉子ちゃんに呼び出されて
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二ヶ月ぶりの外出なのに他に行く当てもなく、欲しいものも何もない。急にどっと疲れを感じて、脱力感に襲われる。
横断歩道で信号待ちをしていたら、不意に行き交う車の前に身を投げ出したい衝動にかられた。
死んでしまえたら、どんなに楽だろうと思った。
里沙ちゃんの変わりになれたらいいのに。
そう思って涙が溢れた。
タクシーを拾い、やっとの思いで家にたどりついた。
夜あまり寝られないため、日中はいつでもベッドに横になり、うとうとしている。
起きると午後五時を過ぎていた。
いつの間にか十二月になり、窓の外はもう真っ暗で、母が部屋に飾ってくれたクリスマスツリーの電飾が、チカチカと点滅していた。
スマホが着信を知らせたので開くと、今頃になってどうしたというのか、莉子ちゃんからだった。
『突然でごめん。体調はどうですか? もし大丈夫なら少し話がしたいんだけど、いいかな?』
疲れていることもあるし、莉子ちゃんからはずっとなにがなんだかわからずに無視された恨みもあって、会いたくなかった。
でも、どうして無視され続けたのかを知りたい気持ちもある。
『疲れているので、遠くまで会いに行けません』
会っても会わなくてもどっちでもいい。
投げやりな気持ちで返信する。
『車で六時に家まで迎えに行きます』
仕方なくルームウェアを脱ぎ、ジーンズとセーターに着替えた。
夕食の準備をしている母に外出する旨を伝える。
「友達が迎えに来るので会ってくる」
「友達って誰? 遅くなるの?」
母もこれ以上の心配は限界なのだろうと思い、正直に伝える。
「同じ病院で働いていた莉子先輩。そんなに遅くはならないと思う」
話ってなんだろう?
今頃になって、落ち込んでいる私を見舞いたくなったのか?
会いたいということは、もう怒ってはいないのだろうか?
六時近くになったので、フードのついたコートを着て外へ出ると、莉子ちゃんの黒い軽自動車は、もう家の前に駐車していた。
助手席のドアを開けて、無言で腰を降ろす。
座席には百均で購入したようなフリルのついた座布団が敷かれていたが、 スポンジがふわふわしすぎて、座り心地が良くなかった。
「なんか、めっちゃ痩せたね」
莉子ちゃんのその言い方に、思いやりは感じられなかった。
「………」
車が走り出し、住宅街を抜けて交通量の多い大通りに出た。
莉子ちゃんはどこに行くというでもなく、私もどこへ行くんですかと聞くでもなしに、車は環状線へと進んでいった。
「あのね、私も今の病院辞めることにしたんだよね」
ポツリと莉子ちゃんがつぶやいた。
今さら莉子ちゃんの進退などに興味はなかった。
返事もせずに窓の外へ目をやった。
「松田先生と一緒に小樽の病院に行くことにしたから」
「……… 」
この発言はさすがに無視できなかった。
顔を上げて莉子ちゃんを見据えた。
「先生、また莉子のところに帰ってきたから。いつも必ず戻ってくることは知ってたんだけどね。今までもずっとそうだったから」
「莉子ちゃんには宏樹さんがいるのに……」
咎めるように莉子ちゃんを見つめた。
「宏くんは私と先生の事はちゃんと知ってるもん。宏くんにはすっごく感謝してるよ。宏くんがいなかったら、莉子は立ち直れなかったから」
悪びれた様子もなく、平然として答える。
「知りませんでした。莉子ちゃんと先生のこと。だから彩矢のこと無視していたんですね」
「ねぇ、私お腹すいてるんだけど、なんか食べながらでもいい?」
私の質問には答えずに、投げやりな調子で空腹を訴えた。
横断歩道で信号待ちをしていたら、不意に行き交う車の前に身を投げ出したい衝動にかられた。
死んでしまえたら、どんなに楽だろうと思った。
里沙ちゃんの変わりになれたらいいのに。
そう思って涙が溢れた。
タクシーを拾い、やっとの思いで家にたどりついた。
夜あまり寝られないため、日中はいつでもベッドに横になり、うとうとしている。
起きると午後五時を過ぎていた。
いつの間にか十二月になり、窓の外はもう真っ暗で、母が部屋に飾ってくれたクリスマスツリーの電飾が、チカチカと点滅していた。
スマホが着信を知らせたので開くと、今頃になってどうしたというのか、莉子ちゃんからだった。
『突然でごめん。体調はどうですか? もし大丈夫なら少し話がしたいんだけど、いいかな?』
疲れていることもあるし、莉子ちゃんからはずっとなにがなんだかわからずに無視された恨みもあって、会いたくなかった。
でも、どうして無視され続けたのかを知りたい気持ちもある。
『疲れているので、遠くまで会いに行けません』
会っても会わなくてもどっちでもいい。
投げやりな気持ちで返信する。
『車で六時に家まで迎えに行きます』
仕方なくルームウェアを脱ぎ、ジーンズとセーターに着替えた。
夕食の準備をしている母に外出する旨を伝える。
「友達が迎えに来るので会ってくる」
「友達って誰? 遅くなるの?」
母もこれ以上の心配は限界なのだろうと思い、正直に伝える。
「同じ病院で働いていた莉子先輩。そんなに遅くはならないと思う」
話ってなんだろう?
今頃になって、落ち込んでいる私を見舞いたくなったのか?
会いたいということは、もう怒ってはいないのだろうか?
六時近くになったので、フードのついたコートを着て外へ出ると、莉子ちゃんの黒い軽自動車は、もう家の前に駐車していた。
助手席のドアを開けて、無言で腰を降ろす。
座席には百均で購入したようなフリルのついた座布団が敷かれていたが、 スポンジがふわふわしすぎて、座り心地が良くなかった。
「なんか、めっちゃ痩せたね」
莉子ちゃんのその言い方に、思いやりは感じられなかった。
「………」
車が走り出し、住宅街を抜けて交通量の多い大通りに出た。
莉子ちゃんはどこに行くというでもなく、私もどこへ行くんですかと聞くでもなしに、車は環状線へと進んでいった。
「あのね、私も今の病院辞めることにしたんだよね」
ポツリと莉子ちゃんがつぶやいた。
今さら莉子ちゃんの進退などに興味はなかった。
返事もせずに窓の外へ目をやった。
「松田先生と一緒に小樽の病院に行くことにしたから」
「……… 」
この発言はさすがに無視できなかった。
顔を上げて莉子ちゃんを見据えた。
「先生、また莉子のところに帰ってきたから。いつも必ず戻ってくることは知ってたんだけどね。今までもずっとそうだったから」
「莉子ちゃんには宏樹さんがいるのに……」
咎めるように莉子ちゃんを見つめた。
「宏くんは私と先生の事はちゃんと知ってるもん。宏くんにはすっごく感謝してるよ。宏くんがいなかったら、莉子は立ち直れなかったから」
悪びれた様子もなく、平然として答える。
「知りませんでした。莉子ちゃんと先生のこと。だから彩矢のこと無視していたんですね」
「ねぇ、私お腹すいてるんだけど、なんか食べながらでもいい?」
私の質問には答えずに、投げやりな調子で空腹を訴えた。
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