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名医の条件、仁医の条件

所変われば品変わる

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北風よりも冷たい空気を乗せて進む馬車、その車窓に映る哨鎧騎士団の隊舎を鬱陶しそうに睨むのは桔梗であり、そんな彼女を面白くなさそうに睨むのは向かいに座ったユリウスだ。
桔梗から見たユリウスは権力をかさに着るいけ好かない男であり、ユリウスから見た桔梗は帝国の盾にして剣と謳われる哨鎧騎士団の隊舎を睨む無礼者である。
互いに口が重くなり、口が重くなれば空気も冷える。

『『早く降りたい』』

二人はしくも同じ事を思っていた。




約二十分後、馬車が哨鎧騎士団の隊舎の玄関の前に停まる。
御者が扉を開け、次いでユリウスが降りた。
振り向いて左手を差し出す彼を黙殺し、桔梗は救急箱を右腕に抱えて降りる。
清々しい程の塩対応だ。

「時間がないので、急いで頂けますか?」

微笑みながら青筋を立てるユリウス。
オギャア!と泣いて約二十二年、女性に拒絶された事はない。
これは彼の密かな自慢でもあった。

ユリウスは貴族としてのプライドを総動員して行き場を失った左手を収め-

「では、こちらへ」

何事もなかったように桔梗を促した。




迷路のような建物を抜け、豪奢な庭園に入り、そこを陣取る茶席に案内された桔梗。
彼女は眉をひそめて腰を下ろす。

『何で庭?
私、事情聴取に来たんだよね?
てか、他人を呼んどいて待たせるか、普通。
お貴族様の常識は分からん』

蛇足だそくだが、この国の上流階級は優雅をたっとぶ。
優雅な生活、優雅な振る舞い、優雅な時間、これらは贅沢に直結し、上流階級の贅沢は権威を示す。
持て成しもその一つであり、茶席やエスコートは彼らが桔梗をレディー(上流階級の女性)として扱っている証拠だ。
彼女には通じていないが。 

桔梗は溜め息を吐きながら肩の力を抜く。

『今更ウダウダしても無駄だし、さっさと終わらせてとっとと帰ろう』

その時、茶席の前から二人の青年が歩いて来た。
哨鎧騎士団の団長・レナード ガチバリン(桔梗曰く、騎士)と副団長・フランシス チーローである。
笑ってはいけない。
ガチバリン家もチーロー家もイシリエン帝国の名家であり、れっきとした上流階級だ。
名前が可笑しいだけで(日本人の感覚では)。

ユリウスは二人の方へサッと向き直って右手(拳)を胸に当てる。
これはイシリエン帝国の騎士の挨拶だ。

「団長、副団長」

ユリウスに近付くレナードとフランシス。

「ご苦労。
引き継ぎはあるか?」

「ありません」

「お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

尊大にねぎらったのはレナードであり、丁寧に労ったのはフランシスである。
三人は視線を交わして離れた。

レナードとフランシスを観察していた桔梗はクスッと笑う。

『あの二人、見た目と性格が真逆じゃん。
面白っ!』

騎士様と呼ばれそうな容姿だが、口を開けば王族よりも尊大なレナード。
紺青色の目と髪、高い身長、スラッとした体躯を黒い騎士服に包んでいる。
軍人のような容姿だが、口を開けば執事のように丁寧なフランシス。
紅色の目、銀朱ぎんしゅ色の癖毛、高い身長、ガッチリとした体躯、黒い騎士服がそれらを引き立てる。 

ユリウスが去ると、四本の視線が桔梗を射貫いた。

『うわーーーー、ヤな予感』
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