上 下
52 / 57

52.王都での再会

しおりを挟む
「こら、エミリア様だろ。侯爵令嬢に失礼だと、あれほど教えたのに」

マリーさんが少し慌てた様子で、コリー君をたしなめる。


「だって…」

シュンとするコリー君


「いいんですよ、エミリア姉ちゃんで。マリーさんも気にせず、エミリアとお呼びください。ね、お兄様」

「こちらの美形は、侯爵かい!じゃなかった、侯爵であらせられますか?」


マリーさんが少し戸惑いながら尋ねると、お兄様が苦笑いを浮かべた。



「エミリアが望むように、楽にしてくれるとありがたい。その…、敬語も苦手ならそのままで。不敬とは言わないから安心してくれ」

「あー良かった、むず痒くてたまらなかったんだよ」


マリーさんは安堵の表情を浮かべ、自然体に戻った様子だった。あら?


「あの、ベンさんは?」

「ああ、ベンね。エミリアから手紙をもらって、今日来ることを知ったから、家で、食事の用意をしているよ。ベンはコックだからね。腕によりをかけて、うまいもん食わせるって、はりきってるよ」

「俺も、さっきまで手伝っていたんだぜ」

「そうなのですね」


お兄様は、私たちの様子を見ていて、ふと真剣な表情になった。



「マリーさん、こんなところでなんですが、感謝を述べさせてください。リアに会えたのは、マリーさんのおかげです。リアに優しくしてくれてありがとうございます」

言葉には、深い感謝と誠意が込められていた。お兄様…



「いや、大したことなんてしていないよ。それに、助けてもらったのは私たちの方だし…」

マリーさんは少し照れくさそうに答えたが、お兄様はさらに続けた。



「それでもです。心身ともに弱っていたリアに寄り添ってくれた。本当にありがとう」

「い、いや、貴族様にお礼を言われると何とも…エミリア何とかしておくれよ」

「ふふ、マリーさんったら。あ、よかったらこれを」


困った様子のマリーさんに、セバスが準備していた領地の野菜が入った箱を差し出した。



「リアが、きっとマリーさんは高価なものは望まないと言ったので、領地の特産の野菜です。マリーさんへのお礼です」


「うわ!野菜かい?すごいね。見たことないものがたくさん。ベンが喜ぶよ。悪いねぇ。ああ、高価なものはいらないさ。いや、高価なものも嬉しいよ。だけど、盗まれるんじゃないかって毎日、はらはらするのも嫌だし、変に金目のものなんかあったら、またベンの悪い虫が騒ぎ出すかもしれないだろ?ああ、野菜が一番。食べ盛りの子もいるしね 」


マリーさんは笑顔で話し、その楽しそうな様子に、私も自然と笑顔になった。


「アリー、やさい、だいすき」


「俺は、肉の方が好きだぞ」


子供たちが元気に答える。その言葉に場が和み、笑い声が広がった。



「はは、そうか。野菜は定期的に届けるつもりだったから…ああ、わが領地は、燻製肉も特産だ。それも入れよう。鮮度を保つ魔道具があるから、距離はあるが大丈夫だ」


お兄様が提案した。


「まじか、言ってみるもんだな、母ちゃん」


コリー君が、喜びを隠しきれない様子で言うと、皆が再び笑った。マリーさんだけが少し恥ずかしそうにしていた。



コリー君が、箱を覗きながら言う。


「芋もたくさんあるぜ。練習し放題だな、エミリア姉ちゃん」

「ば、ばか、あんた。令嬢はそんなことしなくても…」


慌てるマリーさん

お兄様が目を丸くして私を見つめる。



「リア、芋の皮をむいたのかい?初耳だ」

「ええ、少しお手伝いを。駄目でしたか?」


私は少し不安げに答えた。令嬢がすることではないから、叱られるかもしれないと心配になったが、お兄様はいつものように微笑んだ。



「何も問題ないよ。でも、リアの手料理か…いつか食べさせてくれるかい」

「はい!ドニに習います。食べてください、約束ですよ」


お兄様の言葉に、私は少し驚きながらも嬉しくなった。自分が作った料理をお兄様が喜んでくれる姿を想像すると、自然と微笑みがこぼれた。



「食事も用意してくれているというから、行っておいでリア。セバスは付いていくが、私たちがいたら気を遣うだろうから、どこかで時間をつぶす。夕方には、迎えに行くから楽しんで」

「そうだな、リアちゃん安心して。ヴィルの面倒は俺が見るから。なあ、ヴィル、仲良く買い物に行こうぜ」


彼の声はいつもと変わらず軽やかで、どこか楽しげな響きを持っている。



「なぜ私が、お前に面倒を…」

とお兄様が少し不満そうに答えた。


「そう言うなって、珍しい魔道具、お前も興味あるだろう?」


セシル殿下はそんなお兄様の態度を気にすることなく、にっこりと笑いながら肩を組んだ。


「…本当に珍しいんだろうな」


ふふ。お兄様は、少しそわそわしながら、セシル殿下の言葉に興味を示しているようだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...