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34.魔法鑑定

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「うわ、ヴィルがリアちゃんを泣かしている」

突然の声が、静かな部屋に響き渡った。セシル殿下の声だわ。彼は、からかうような口調で言いながら、にやりと笑っている。いつの間に彼が現れたのか、全く気づかなかった。


「…何しに来た」


「何しに?今、何しに来たって言ったのか?…ひでえな。お前が、アルセイン伯爵夫妻を転移で連れて来いって言ったんだろ」



呆れたような声で、軽く言い放つセシル殿下。その様子に、ヴィルは深いため息をつきつつも、どこか安心したような表情を浮かべた。

アルセイン伯爵夫妻…そうだ!お兄様の実の両親、アルセイン伯爵夫妻だわ。




そんなことを考えていると、ドアの前に現れた伯爵夫人が、勢いよく駆け寄ってきて、私をしっかりと抱きしめた。



「リアちゃぁぁぁん」


驚きで体を固くしながらも、夫人の優しさと暖かさに包まれる。伯爵夫人は涙を浮かべ、震える声で必死に言葉を紡ぎ出した。



「ああ、こんなに痩せて、顔色も悪くて…婚約解消ですって!ああ、あの時無理やりにでも引き取っていれば。何度も後悔したのよ。本当にごめんなさい」

「い、いいえ。私もまさかこんなことになるなんて思っていなくて…ご心配おかけして申し訳ありません…」


そう伝えた瞬間、お兄様が静かに歩み寄り、私を伯爵夫人の抱擁から優しく引き離した。



「…アルセイン伯爵夫人、リアが困惑しています。離れてください」


少し眉をひそめたお兄様がそう告げる。伯爵夫人はそれに少しも怯むことなく、呆れた顔をした。



「ヴィル…アルセイン伯爵夫人って…こんな身内しかいない場所で、他人行儀、相変わらずね。はぁ…ああ!リアちゃんが来てくれて本当によかった!」

「まあ、とにかく、ここではなんだ。場所を移してみんなで話そうじゃないか」


アルセイン伯爵のその一言で、一同は少しずつ落ち着きを取り戻し、別の部屋へと移動することになった。


***********

別の部屋に移動し、落ち着いた雰囲気の中、アルセイン伯爵が静かに語り始めた。


「あらましは、第5皇子殿下から聞いた。本当によく耐えたな」

「そうよ、魔法の異常な行使をさせるなんて…立派な虐待よ!!」



アルセイン伯爵は、愛情深くおっしゃり、夫人も厳しい顔をしていたが、そこには愛情が感じられた。



「リア?実は、リアに提案があるんだ。…魔法の鑑定をもう一度やってみないか?」



お兄様は、少し間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。

鑑定?




「鑑定を受けたのは10年以上前だとヴィルから聞いた。今は魔道具も進化し、より詳細な判定ができるようになったんだ。まあ、そんな素敵な魔道具を作ったのは、天才であるこの俺だがな」

セシル殿下は、得意げに言い、お兄様は呆れた顔をした。


「こいつ性格はともかく、作る魔道具の効果は皇帝のお墨付きだ、やってみないか?」


「性格もいいだろう?友人だろ、ったく。とにかく、リアちゃんの症状を聞いて不思議に思っていたんだ。いくら闇魔法とはいえ、リアちゃんの魔力量を考えたら、魔力行使後、そんなに長く体に影響が出るはずがないんだ。だから調べたい」

セシル殿下は得意げな表情を崩さず話した。


鑑定…少し戸惑いながらも、彼らの真剣な表情に勇気づけられ、ゆっくりと答えた。


「…分かりました。やってみます。」


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