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31.黒い靄 sideクロード

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死ぬ、私が?どういうことだ…
父の口から発せられた言葉に、自分の耳を疑った。


「エミリアがいないと、とは、エミリアの魔法と何か関係あるのですか?」

「お、お姉様が闇魔法で呪いをかけたってこと!?」


黙ってくれフルール。彼女の言葉は、ただでさえ混乱している状況をさらに悪化させるだけだった。父は冷静を装いながら、ゆっくりと話し始めた。



「…エミリアの闇魔法は、強く願ったものを消すのであって呪いなどかけられない。幼き頃…ベットから起き上がるのも、やっとだったお前が、元気になったのはいつからか覚えているのか?」

「元気になった頃ですか?5歳…そうだ、エミリアに出会ったころからだ…」


エミリアが私の人生に現れた瞬間から、何かが変わったことを…漠然とは感じていた。



「エミリアにはお前の周りに黒い靄が見えるそうだ。エミリアは、それが何かはわからなくても。お前にとって良くないものだと判断し、消そうと強く願っていた。」


「く、黒い靄‥‥」


その言葉に戦慄した。自分が知らず知らずのうちに、エミリアに何か重大な犠牲を強いていたのではないかという恐怖が、胸を締め付けた。




「ああ、年々エミリアの体調が悪くなったのは、おそらく無理をし過ぎたからだ」

「そ、そんな…なぜ父上もエミリアもそれを教えてくれなかったのですか!知っていたら、私は…」


もし自分が知っていたら、エミリアに無理をさせることはなかったはずだという思いが、心をかき乱した。



「そうだな、エミリアではない、私が悪い。闇魔法はあまり解明されていないことが多い。だからお前に闇魔法を使っていることを伝えて、お前たちの関係がよくないものになるのを危惧したのだ。」

「エミリアが、私のために犠牲になっていたことを知っていれば!!」

「知っていればなんだ?フルールなんかに心を奪われなかったというのか?」

「…少なくても、もっと大事にしました」


絞り出すように言った。エミリアが自分のためにどれだけの犠牲を払ったかを知っていれば、彼女をもっと大切にしていたはずだ。



「はっ!婚約者だぞ?何をおいても大事にしなくてはいけないだろう。幼き頃から言い聞かせていた言葉を、お前は、どういう気持ちで聞いていたのだ!」


父の叱責は、心に重くのしかかった。


「…フルールを選んだことを伝えたのであれば…婚約の継続は難しい。例えエミリアが許したとしても、あの義兄、現侯爵家当主は、許しはしない。」


「あの、義兄ですか」

その人物を思い浮かべた。数年前にしか会ったことがないが、とても優秀で美しい義兄が頭の中で鮮明に浮かんだ。


「今まで私がどんな思いでお前のために…手を尽くしてきたのに、お前が水の泡にした…くそ!」

父の怒りは次第に抑えきれなくなり、言葉が乱雑になっていった。父の怒りが限界に達しつつある中で、必死に考えを巡らせた。



「せ、誠意を込めて謝ったら…助けてくれる、エミリアは優しいんだ。」

「粗末な扱いをし、傷つけたお前を?婚約者でもなくなるお前を?義理はないだろう?見返りは何を用意するつもりだ?忘れているようだが、相手は侯爵令嬢だぞ!」

「それは…幼いころから一緒だったんです、情に訴えれば…」


過去の思い出に縋りつくように、必死で言い訳を探したが、それが通用するかどうかはわからなかった。




「はっ!では、やってみろ!私が探しに行きたいところだが、恐らく早馬で婚約解消に向けての取り決めが届くような気がする。…ロザリー、お前にも聞かなくてはならないこともたくさんありそうだしな!」

父は苛立ちを隠しきれずにいた。


「わ、私もクロードと行きます!私もお姉様には悪いと思っているの。クロードのことを助けてもらえるようにお願いする」



フルール、私のために――その言葉は、クロードの胸の中で温かく響いた。彼女の優しさと決意が、心を少しだけ軽くした。しかし…エミリアに対する負い目が消え去ることはなかった。




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