上 下
19 / 57

19.リアの探索 sideヴィルフリード

しおりを挟む
「ヴィル、思い出し笑いか?気持ち悪いぞ」


失礼な奴だ…と内心で毒づきながらも、私は平然とした顔で返答した。


「いや、馬鹿が墓穴を掘ったことを喜んでいたのさ」

「墓穴?」


セシルは首をかしげた。


「ああ、リアの婚約者のクロードだ。リアを差し置いて、継母が連れてきた娘に夢中になるなんて馬鹿だろ?リアが王都を出た理由はそれが一番大きいはずだ。まあ、彼を貶める策が無駄になったのは残念だが、おかげで卒業前にリアを保護できる」


リアに近づけなくても、金があればリアを取り巻く環境の情報は手に入る。王女だろうが公爵令息だろうが、リアにとって害になる存在には容赦しない。いずれ潰してやる。


「貶める?ああ、あれか、なるほどクロードって例の黒い靄の奴か。ちなみに、お前も妹にむちゅ…まあ、いいや…」


セシルは私の言葉に、ぼそりと呟いた。後半は、何て言ったか聞こえなかったが、今はそれどころじゃない。


私は地図に目を移し、リアの反応があった日を思い出しながら、馬車での移動時間を計算した。


「反応があった日、馬車での移動を考えると…そうだな、落ち合いそうなのはこの街か」

セシルが地図を覗き込む。

「ああ、この街か!この街は、串焼きがすごくうまいんだ。リアちゃんが見つかったら一緒に食べようぜ」


串焼き?


「…セシル、何を言っている。リアは心細さに食事も喉を通っていないかもしれない。繊細なんだぞ!それを…串焼き?お前は遊びに来たのか!今すぐ帰れ!」

セシルの言葉に私は苛立ちを覚え、声を荒げてしまった。


「そうですね。セシル殿下。不謹慎ですぞ」

セバスも静かに怒っている。


「じょ、冗談だ。いや、食べたいのは本当だけど…いやいや嘘!…怒るな、怒るな」


セシルは慌てて手を振り言い訳をし始める。まったく、この緊張感のなさには呆れるばかりだ。


***********



予想を立てた街に着き、馬車を降りる。



「セシル、セバス、手分けをして探そう。そうだな私は南に行くから、セシルは…」


さっそく探索に向かうべく指示を出す。


「あ!待った待った。よく考えたら俺、リアちゃんの特徴、何も知らねえな、はは」


セシルが突然私の言葉を遮った。


本当にお前は何をしに来た!皇子のくせに役に立たないな。



「…お嬢様は、ハニーブラウンとコーラルピンクが混ざったような髪の色をしております。この国では、珍しい色ですので、すぐにわかります。」

セバスも苛立ちを隠せない。



「ふーん、じゃあ、あそこで串焼きを頬張っている子と同じ色か?あれが、リアちゃんだったりして」

「はぁ?リアは令嬢だぞ。串焼きを頬張るわけがないだろう。馬鹿にしているのか?」


セシルが何気なく指を差した方向を見た瞬間、私の心臓が一瞬止まった。
ハニーブラウンとコーラルピンクの髪の色。幸せそうな顔をして串焼きを頬張っている…リア!



「お嬢様!」

セバスもそう言うなら間違いない。いや、私がリアを見間違えるわけがない。


リアが幸せそうであることに安堵する反面、私の知らない場所で、私の助けを必要とせずに、彼女が自分の時間を楽しんでいるという事実が、心に小さな棘を刺すように感じられた。


でも、何よりも大切なのは、リアが無事であり、笑顔であること。
私は深く息を吸い込み、隠しきれない喜びを胸に彼女の元へ向かって走り出した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

処理中です...