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1.貴族の矜持
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「――私たちは、貴族としての責任に行動を制限されることがあります。しかし、自由がないということではありません。自由を主張したければ、矜持に従って、我が身に恥じない行動をしなくてはいけません」
先生が貴族としての自由についてお話された。
矜持…貴族の誇りか…
授業が終わり、重い足取りで教室から出る。婚約者であるクロード様は…当然迎えには来ていない。
私のことを待っていないだろうけど…クロード様の教室に迎えに行ってみようかしら
歩みを進めると、壁際で嫌な笑みを浮かべながらこちらを見ているいつもの二人がいた。
「あら、エミリアじゃない?クロードは、もうフルールと一緒に帰りましたわよ。置いて行かれましたわね」
「くくっ、フロランス、そう意地の悪いことを言うものではない。…しかし、病的に痩せたみすぼらしい令嬢。はは、我が友クロードの隣には合わないな」
「そうよね、でも愛らしいフルールが隣に立つとあの二人とっても素敵じゃない?」
「ああ、そうだな、私たちの傍にいる者たちは美しくないと」
フロランス第3王女とその婚約者の公爵令息のフィリップ様
その自由過ぎる発言に貴族としての矜持はあるのかしら。
「…そうですか、では、私はこれで…」
憂鬱な気分のまま馬車に乗り、お世話になっている婚約者の邸へと帰る。
***********
幼い頃、両親を失った私は、すでに婚約を結んでいた伯爵家に10歳のころからお世話になっている。義兄はいたが、互いにまだ未成年であり、また、義兄は隣国にすでに留学していたので共に暮らすことは叶わず、『いずれ家族になるのだから』というクロード様の御父上であるコルホネン伯爵様のお言葉に甘えることにしたのだった。
両親の死を思い出し、義兄にも会えない悲しさが溢れてしまった幼い日には、婚約者であるクロード様が傍で寄り添っていてくれた。心が元気になってからも、とても優しいクロード様と穏やかな日々を送っていたが…
「まあ!お姉さま、今日も顔色が悪いですわね。学院に行ってよかったのですか?ねえ、クロードもそう思うでしょ?」
昔を思い出しながら馬車に揺られ、邸に着くと、これから出かけようとしているクロード様とその義妹フルールがいた。…もう少し時間をずらして帰ってくるとよかったわ。
まだ、クロード様と結婚をしていないのに、義姉になるのだからと私をお姉さまと呼び、義兄のクロード様のことは兄であるのに名前で呼ぶ。
領地へ行ってほとんど帰ってこられない伯爵様が、幼かった私とクロード様に、母が必要だろうと、継母とその娘を邸に連れて来てから、全てがおかしくなってしまった。
「そうだよ、無理せず休んでもよかったのに」
クロード様は優し気な声でいい、軽く私の肩を叩いた。
「今日は少しだけ体調がよく…」
「じゃあ、君も一緒にカフェに…」
クロード様はそう言いかけたが、服の裾を引っ張っているフルールに気付き、少し気まずそうに視線を逸らした。
「顔色が悪いし、無理はさせられないね。じゃあ、僕たちは出かけてくるよ」
「…そうですか、では、部屋に戻って少し休みますわ」
フルールと微笑み合いながら出かけていく、私の婚約者クロード・コルホネン伯爵令息
クロード様の腕に掴まり、振り返りながら不敵な笑みをこちらに向けてくるフルール
小さくため息をつき、少しふらつきながらも、自分の部屋に戻るために歩き出した。
角の私の部屋へと着くと、扉が開いている
…ああ、またか…
「え!もう帰ってきたの?」
婚約者の継母と使用人たちが部屋を荒らしている姿が目に入った。
「…何をなさっているのです?」
「べ、別に何もしていないわよ。あなたがまた分不相応なものを持っていないか確かめてたのよ」
分不相応の意味が分からないけど…持っていたら、取り上げようとしたのですね。
「…最近は、お兄様からのプレゼントも届きませんし…何もありませんわ」
我が侯爵家の爵位は、5つ年上の義兄がすでに継いでいるが、領地が離れているせいなのか、忙しいせいなのか、その兄とは両親の死後会うことが叶わず、便りもここ数年ない。
「そう言えばそうね。あら、嫌だ。気持ち悪いくらい顔色が変よ。早く休みなさい。夕食はいつも通り部屋でいいでしょ」
乱雑に荒らした部屋を片付けることなく立ち去っていく。嵐のような人たちだわ。
『休みなさい』と、いう割には使用人たちより質の悪いベッド。
『食欲がないでしょ』と、いつも、同じ味の薄いスープ。
邸と学院…それが私の世界のすべて
会いたい人に会えず
行きたいところに行けず
食べたいものを食べられず
大事なものは私の元から無くなる
繰り返される毎日
私の世界は狭く、理不尽に行動を制限される。自由なんてどこにも存在していない。
先生が貴族としての自由についてお話された。
矜持…貴族の誇りか…
授業が終わり、重い足取りで教室から出る。婚約者であるクロード様は…当然迎えには来ていない。
私のことを待っていないだろうけど…クロード様の教室に迎えに行ってみようかしら
歩みを進めると、壁際で嫌な笑みを浮かべながらこちらを見ているいつもの二人がいた。
「あら、エミリアじゃない?クロードは、もうフルールと一緒に帰りましたわよ。置いて行かれましたわね」
「くくっ、フロランス、そう意地の悪いことを言うものではない。…しかし、病的に痩せたみすぼらしい令嬢。はは、我が友クロードの隣には合わないな」
「そうよね、でも愛らしいフルールが隣に立つとあの二人とっても素敵じゃない?」
「ああ、そうだな、私たちの傍にいる者たちは美しくないと」
フロランス第3王女とその婚約者の公爵令息のフィリップ様
その自由過ぎる発言に貴族としての矜持はあるのかしら。
「…そうですか、では、私はこれで…」
憂鬱な気分のまま馬車に乗り、お世話になっている婚約者の邸へと帰る。
***********
幼い頃、両親を失った私は、すでに婚約を結んでいた伯爵家に10歳のころからお世話になっている。義兄はいたが、互いにまだ未成年であり、また、義兄は隣国にすでに留学していたので共に暮らすことは叶わず、『いずれ家族になるのだから』というクロード様の御父上であるコルホネン伯爵様のお言葉に甘えることにしたのだった。
両親の死を思い出し、義兄にも会えない悲しさが溢れてしまった幼い日には、婚約者であるクロード様が傍で寄り添っていてくれた。心が元気になってからも、とても優しいクロード様と穏やかな日々を送っていたが…
「まあ!お姉さま、今日も顔色が悪いですわね。学院に行ってよかったのですか?ねえ、クロードもそう思うでしょ?」
昔を思い出しながら馬車に揺られ、邸に着くと、これから出かけようとしているクロード様とその義妹フルールがいた。…もう少し時間をずらして帰ってくるとよかったわ。
まだ、クロード様と結婚をしていないのに、義姉になるのだからと私をお姉さまと呼び、義兄のクロード様のことは兄であるのに名前で呼ぶ。
領地へ行ってほとんど帰ってこられない伯爵様が、幼かった私とクロード様に、母が必要だろうと、継母とその娘を邸に連れて来てから、全てがおかしくなってしまった。
「そうだよ、無理せず休んでもよかったのに」
クロード様は優し気な声でいい、軽く私の肩を叩いた。
「今日は少しだけ体調がよく…」
「じゃあ、君も一緒にカフェに…」
クロード様はそう言いかけたが、服の裾を引っ張っているフルールに気付き、少し気まずそうに視線を逸らした。
「顔色が悪いし、無理はさせられないね。じゃあ、僕たちは出かけてくるよ」
「…そうですか、では、部屋に戻って少し休みますわ」
フルールと微笑み合いながら出かけていく、私の婚約者クロード・コルホネン伯爵令息
クロード様の腕に掴まり、振り返りながら不敵な笑みをこちらに向けてくるフルール
小さくため息をつき、少しふらつきながらも、自分の部屋に戻るために歩き出した。
角の私の部屋へと着くと、扉が開いている
…ああ、またか…
「え!もう帰ってきたの?」
婚約者の継母と使用人たちが部屋を荒らしている姿が目に入った。
「…何をなさっているのです?」
「べ、別に何もしていないわよ。あなたがまた分不相応なものを持っていないか確かめてたのよ」
分不相応の意味が分からないけど…持っていたら、取り上げようとしたのですね。
「…最近は、お兄様からのプレゼントも届きませんし…何もありませんわ」
我が侯爵家の爵位は、5つ年上の義兄がすでに継いでいるが、領地が離れているせいなのか、忙しいせいなのか、その兄とは両親の死後会うことが叶わず、便りもここ数年ない。
「そう言えばそうね。あら、嫌だ。気持ち悪いくらい顔色が変よ。早く休みなさい。夕食はいつも通り部屋でいいでしょ」
乱雑に荒らした部屋を片付けることなく立ち去っていく。嵐のような人たちだわ。
『休みなさい』と、いう割には使用人たちより質の悪いベッド。
『食欲がないでしょ』と、いつも、同じ味の薄いスープ。
邸と学院…それが私の世界のすべて
会いたい人に会えず
行きたいところに行けず
食べたいものを食べられず
大事なものは私の元から無くなる
繰り返される毎日
私の世界は狭く、理不尽に行動を制限される。自由なんてどこにも存在していない。
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