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35.一瞬一瞬を噛み締める side王太子
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side王太子
夜会の空気は優雅で、どこか夢のように淡い光に包まれていた。煌びやかなシャンデリアの下、華やかな衣装を纏った貴族たちが談笑し、杯を傾ける。
その中心で、私とロザリア王女と向き合っている光景は、一層目を引いただろう。
そんな中、王妃殿下と母上が、私たちの元へやってきた。
「あら、王太子。こちらの方と、とても楽し気にお話していますね。私たちにも紹介してください」
王妃殿下の声は柔らかだが、その奥には、興味深々な響きが含まれている。
「こちらは、オセアリス王国のロザリア王女です。私が困っておりましたら、親切にも助け船を出してくれたのです」
ロザリア王女は、軽やかに一礼をして言葉を紡いだ。その声は鈴の音のように心地よく、耳に届いた瞬間、場の空気が少し引き締まるようだった。
「お二人に、ご挨拶いたします。ロザリア・フォン・ヴェルディナと、申しますわ。私も少し前までは、王太子という身分でございましたから、話が弾みまして、王太子殿下をしばらく独占しておりましたわ。ふふ」
「まあ!! 話が弾んで!」
「それはそれは!」
母上と王妃様は、目を輝かせながらうなずいている。
妙に嬉しそうな様子が気になる。しかし、ロザリア王女は笑みを浮かべ、何とも余裕のある佇まいを崩さない。
独占…
私は、照れ隠しに、少し肩をすくめて付け加えた。
「いえ、私の方こそ王女を独占してしまい…お連れの方に叱られてしまいますね」
その言葉に、ロザリア王女は柔らかな笑みを浮かべると、ちらりとダンスホールの隅を見やりながら答えた。
「ふふ、私の連れは我が国の宰相ですの。ほらあそこで他国のつながりを求めて、忙しそうですわ。それに私、婚約者もおりませんから、叱られませんの」
婚約者がいない!?
心の中で繰り返したその言葉は、意識すればするほど妙に響いてくる。
母上がその瞬間、前のめりに身を乗り出した。
「そ、その、王女殿下。婚約者がおりませんでしたら…あの、我が息子、いえ、王太子はどうでしょう。ほら、お話も弾んでおりましたし」
「ク、クラリス! まだ早いのではなくて!?」
「し、しかし、王妃様…。王女殿下! 何卒、一考願えませんか?」
王妃様が慌てて止めに入るも、母上は一歩も引かない。
そのやり取りに顔を赤らめ、いたたまれない気持ちになる。恥ずかしい。あまりに露骨だ。
それでも、ロザリア王女は動じることなく、母上たちの熱意を涼しげな笑みで受け流していた。
「お、お2人とも、落ち着いてください。ロザリオ王女は、他国の王族です。自分の意思で結婚相手を選ぶことは難しいでしょうし…」
「あら、私の婚姻は、私に一任されていますわ。ふふ、こう見えて信頼されておりますのよ」
信頼されているようにしか見えない
「ええ、同じ立場としての気持ちが分かる人になかなか会うことはできませんし…ええ、もう少しお話をして考えてみたいですわ」
「本当ですか!? 王太子、明日のお茶会にお誘いするのです!!」
王妃様…あれ? お茶会なんてあったか? しかし…
「ロザリア王女、もしよかったら…私も、その、あなたともう少し話してみたい」
その言葉を聞いた母上の目には、涙が光っている。希望の光が見えたとでも言わんばかりに。
「ええ、喜んで。あら? ダンスが始まりますわね」
ロザリア王女は、母上たちの騒がしさをものともせず、ダンスホールに目を向けた。
母上が、ささやくように急かしてくる。
『王太子。何をしているのです。早くお誘いして』
覚悟を決めるように深呼吸すると、ロザリア王女の前に立ち、手を差し出した。
「ロザリア王女。私にあなたと踊る名誉を…どうか、私の願いを叶えていただけますか?」
その瞬間、彼女の瞳がほんのりと輝いたように見えた。
「光栄ですわ」
ロザリア王女の手を取った瞬間、胸の高鳴りを感じた。彼女の手の温もりは驚くほど柔らかく、そしてしっかりとした信頼感を与えてくれるものだった。
ホールの中心に向かう道すがら、彼女の一挙一動に目を奪われていた。
心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、ロザリア王女と共にダンスホールの中心へと進んだ。周囲の目線が集まるのを感じるが、それを意識しないように努めた。
ロザリア王女はまるで風のように優雅で、その動きには無駄が一切ない。彼女の目線は遠くを見つめており、心の内を読み取ることはできないが、そこに流れる空気は、穏やかで落ち着いている。
美しい姿に、言葉を失ってしまった。そんな私に、ロザリア王女は微笑みながら、優雅に言葉を発する。
「王太子殿下、今日の夜会の主役はあなたでございます。共に踊ることができたのは誉ですわ」
その言葉に、胸を張り、少しだけ自信を持つことができた。彼女の存在が、なんとも心地よく感じられる。
軽やかなステップが続く中で、ふと足がもつれそうになったが、ロザリア王女が、すかさずフォローしてくれる。その動きに、信頼と確かな力強さすら感じられる。
ダンスが終わると、ホールに流れる音楽も静かに落ち着いていった。深い呼吸をしながら彼女の手をそっと離す。
「ありがとうございました、ロザリア王女」
彼女に向けて礼をし、心からの感謝を言葉に乗せた。彼女は微笑んで、その優雅な仕草で答える。
「こちらこそ、王太子。素晴らしい踊りでしたわ。ふふ、明日も、楽しみにしております」
ロザリア王女は微笑みを浮かべ、颯爽とその場を離れていった。
その後ろ姿を見送りながら、心の中で、ダンスの最中を噛み締めていた。彼女の優雅さや穏やかな微笑みが、今も胸に残っていた。
しかし、その静けさの中、ふと、どこからともなく鋭い視線を感じた。
無意識にその視線を受け止め、ちらりと目をやる。
っ!!!!
遠くからアンナが鋭い睨みで自分を見つめているのに気づいた…。
夜会の空気は優雅で、どこか夢のように淡い光に包まれていた。煌びやかなシャンデリアの下、華やかな衣装を纏った貴族たちが談笑し、杯を傾ける。
その中心で、私とロザリア王女と向き合っている光景は、一層目を引いただろう。
そんな中、王妃殿下と母上が、私たちの元へやってきた。
「あら、王太子。こちらの方と、とても楽し気にお話していますね。私たちにも紹介してください」
王妃殿下の声は柔らかだが、その奥には、興味深々な響きが含まれている。
「こちらは、オセアリス王国のロザリア王女です。私が困っておりましたら、親切にも助け船を出してくれたのです」
ロザリア王女は、軽やかに一礼をして言葉を紡いだ。その声は鈴の音のように心地よく、耳に届いた瞬間、場の空気が少し引き締まるようだった。
「お二人に、ご挨拶いたします。ロザリア・フォン・ヴェルディナと、申しますわ。私も少し前までは、王太子という身分でございましたから、話が弾みまして、王太子殿下をしばらく独占しておりましたわ。ふふ」
「まあ!! 話が弾んで!」
「それはそれは!」
母上と王妃様は、目を輝かせながらうなずいている。
妙に嬉しそうな様子が気になる。しかし、ロザリア王女は笑みを浮かべ、何とも余裕のある佇まいを崩さない。
独占…
私は、照れ隠しに、少し肩をすくめて付け加えた。
「いえ、私の方こそ王女を独占してしまい…お連れの方に叱られてしまいますね」
その言葉に、ロザリア王女は柔らかな笑みを浮かべると、ちらりとダンスホールの隅を見やりながら答えた。
「ふふ、私の連れは我が国の宰相ですの。ほらあそこで他国のつながりを求めて、忙しそうですわ。それに私、婚約者もおりませんから、叱られませんの」
婚約者がいない!?
心の中で繰り返したその言葉は、意識すればするほど妙に響いてくる。
母上がその瞬間、前のめりに身を乗り出した。
「そ、その、王女殿下。婚約者がおりませんでしたら…あの、我が息子、いえ、王太子はどうでしょう。ほら、お話も弾んでおりましたし」
「ク、クラリス! まだ早いのではなくて!?」
「し、しかし、王妃様…。王女殿下! 何卒、一考願えませんか?」
王妃様が慌てて止めに入るも、母上は一歩も引かない。
そのやり取りに顔を赤らめ、いたたまれない気持ちになる。恥ずかしい。あまりに露骨だ。
それでも、ロザリア王女は動じることなく、母上たちの熱意を涼しげな笑みで受け流していた。
「お、お2人とも、落ち着いてください。ロザリオ王女は、他国の王族です。自分の意思で結婚相手を選ぶことは難しいでしょうし…」
「あら、私の婚姻は、私に一任されていますわ。ふふ、こう見えて信頼されておりますのよ」
信頼されているようにしか見えない
「ええ、同じ立場としての気持ちが分かる人になかなか会うことはできませんし…ええ、もう少しお話をして考えてみたいですわ」
「本当ですか!? 王太子、明日のお茶会にお誘いするのです!!」
王妃様…あれ? お茶会なんてあったか? しかし…
「ロザリア王女、もしよかったら…私も、その、あなたともう少し話してみたい」
その言葉を聞いた母上の目には、涙が光っている。希望の光が見えたとでも言わんばかりに。
「ええ、喜んで。あら? ダンスが始まりますわね」
ロザリア王女は、母上たちの騒がしさをものともせず、ダンスホールに目を向けた。
母上が、ささやくように急かしてくる。
『王太子。何をしているのです。早くお誘いして』
覚悟を決めるように深呼吸すると、ロザリア王女の前に立ち、手を差し出した。
「ロザリア王女。私にあなたと踊る名誉を…どうか、私の願いを叶えていただけますか?」
その瞬間、彼女の瞳がほんのりと輝いたように見えた。
「光栄ですわ」
ロザリア王女の手を取った瞬間、胸の高鳴りを感じた。彼女の手の温もりは驚くほど柔らかく、そしてしっかりとした信頼感を与えてくれるものだった。
ホールの中心に向かう道すがら、彼女の一挙一動に目を奪われていた。
心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、ロザリア王女と共にダンスホールの中心へと進んだ。周囲の目線が集まるのを感じるが、それを意識しないように努めた。
ロザリア王女はまるで風のように優雅で、その動きには無駄が一切ない。彼女の目線は遠くを見つめており、心の内を読み取ることはできないが、そこに流れる空気は、穏やかで落ち着いている。
美しい姿に、言葉を失ってしまった。そんな私に、ロザリア王女は微笑みながら、優雅に言葉を発する。
「王太子殿下、今日の夜会の主役はあなたでございます。共に踊ることができたのは誉ですわ」
その言葉に、胸を張り、少しだけ自信を持つことができた。彼女の存在が、なんとも心地よく感じられる。
軽やかなステップが続く中で、ふと足がもつれそうになったが、ロザリア王女が、すかさずフォローしてくれる。その動きに、信頼と確かな力強さすら感じられる。
ダンスが終わると、ホールに流れる音楽も静かに落ち着いていった。深い呼吸をしながら彼女の手をそっと離す。
「ありがとうございました、ロザリア王女」
彼女に向けて礼をし、心からの感謝を言葉に乗せた。彼女は微笑んで、その優雅な仕草で答える。
「こちらこそ、王太子。素晴らしい踊りでしたわ。ふふ、明日も、楽しみにしております」
ロザリア王女は微笑みを浮かべ、颯爽とその場を離れていった。
その後ろ姿を見送りながら、心の中で、ダンスの最中を噛み締めていた。彼女の優雅さや穏やかな微笑みが、今も胸に残っていた。
しかし、その静けさの中、ふと、どこからともなく鋭い視線を感じた。
無意識にその視線を受け止め、ちらりと目をやる。
っ!!!!
遠くからアンナが鋭い睨みで自分を見つめているのに気づいた…。
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