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4.残念なのはあなたの頭 ー王宮にてー
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side王太子
「父上が呼んでいる?」
父上たちが、隣国の結婚式から帰ってきた。アンナと一緒に挨拶に行こうと打ち合わせをしていたとはいえ、帰ってきて早々に呼ばれるとは、いったい何事だろう?
『緊張するわ』と頬を赤らめるアンナはとても可愛い。こんなに可愛い令嬢を見つけることができるだなんて。ああ、きっと父上たちも喜んでくれるに違いない。
「失礼いたします」
扉を開け、中へ2人で入る。ん?なんだ、このピリッとした空気は? あれ? モンフォール公爵もいる。
「は、初めまして。アンナ・ベルモンドです。ベルモンド子爵家の長女です」
あ! まだ声をかけられていないのに、身分の低いアンナが先に挨拶をしてしまった。うん、緊張をしていたのだな。うっかりなことろも可愛い。こういう時は、私がフォローをしないと。
「国王陛下、無事のご帰還お待ちしておりました。こちらは私の正妃となるアンナです。今は緊張のあまり先走って…」
「おい、少し黙っていろ」
黙っていろ? ひどい、父上…そんなに怒らなくても…
それにしても、機嫌が悪いなぁ。疲れているのか?
「…それで、モンフォール公爵の話をまとめると、我が愚息は、優秀な2人の婚約者との婚約を解消し、そこの令嬢を正妃として選んだ。ということだな」
「…ああ、王太子殿下の名のもとにです。国王陛下代理の正式な書類もここに…。」
ぐ、愚息? 愚息って言ったのか? モンフォール公爵の無表情は怖いし、まったく、シャルロットたちはちゃんと伝えてくれたのだろうな?
「そうか…」
頭を抱える父上、唖然とする母上、信じられないといった表情の王妃殿下
なぜだ? ここは私の口からきちんと説明をしないと!
「でも、1人は残念ですが、もう1人は側妃として…」
言い終わる前に、母上が冷たい目で睨む。
「どちらもあなたの元には戻りません! 残念なのはあなたの頭です!!」
な!
「母上! 息子に向かって残念とはどういうことです!」
元に戻らない? だって、シャルロットは、あとから2人で側妃候補に名乗りを上げると…
「はぁ、お前の王太子教育はどうなっている‥いや、貴族としての教育すらどうなっているのだ」
…皆が優秀だと褒めたたえています、父上
「なんてことをしたの!解消だなんて。もう二度と婚約は結べないわ」
母上がおっしゃっていることは本当なのか? いや、シャルロットはそんなこと一言も…。
「ああ、もう、何て愚かな。優秀な高位貴族の令嬢は残っていないのに」
王妃殿下まで…
その様子を見ていたアンナが、急に一歩前に出て叫ぶ。
「私が高位貴族じゃないことがだめなのですか!! ばかにしないで!」
…冷たい視線が、私にまで突き刺さる。
扇を開き、表情を隠す王妃殿下。笑っていない目に恐怖を感じる。
「あら、それじゃあ…あなたの良さは何かしら?」
はっ!! 良さ! ここは、私がアピールしないと! 恐怖を感じている場合ではない
「アンナは、愛らしく、私のどんな話も楽しそうに聞いてくれるのです。私の癒しなのです! 贈ったものはなんでも喜んでくれるし、ちょっとすねるところも、悲しいとすぐ泣いてしまうところもかわい…」
まだ言い終わっていないうちに、私の話にかぶせるように母上が叫ぶ
「妾ではないのですよ! 国妃なの! 感情を隠せないで社交は務まると思っていて? あの優秀な2人でさえ何年もかかった妃教育が、終わるわけがないじゃない!」
「そ、それは優秀な側妃がいれば、正妃は私の横でほほ笑んでいてくれれば…」
だから、あの2人のうちどちらかに側妃になってもらえばいいだけなのに…。
扇で口も元を隠したまま、蔑んだ目で見ていた王妃殿下が静かに話し出す。
「クリストファー。あなた、正妃である私を馬鹿にしているのかしら? 私がただ微笑んでいるだけで仕事をしていないとでも? あなたの母に仕事を全て押し付けているとでも?」
いつも優しい王妃殿下が、こ、怖い…
「なんてことを! 王妃様に謝りなさい!!」
ああ、混沌としている。なぜこんなに怒られる。
「2人とも落ち着きなさい…」
ため息をつきながら、父上がおっしゃる。
怒り、呆れ、恐怖が一つの場に凝縮され、言葉にならない圧迫感がその場を支配していた。
そんな中、エルミーヌの父であるルーベンス侯爵が到着した。挨拶もそこそこに、モンフォール公爵が事のあらましを説明する。
何やら考え込んでいる様子だったが、急に笑顔になりルーベンス侯爵が話し始める。
「そうでございましたか。まあ、もう覆せないとおっしゃるのであれば、侯爵家といたしましては正当な慰謝料の請求を要求するのみでございます。王家は、誠意を見せてくださると信じておりますぞ」
「…そうだな。ルーベンス侯爵。それについては、あとで書面にまとめよう」
「して、娘はどこにおるのでしょうか?」
やり取りを見ていたモンフォール公爵が、静かに口を開く。
「ああ、我が娘とエルミーヌ嬢は、取り急ぎ王宮を後にしてな。今は我が邸にいる。シャルロットの心が癒えるまで共にいることを許していただきたい」
「そうでございましたか。それは全く問題ございません。願ってもないことでございます。娘にかける金など…いや、こちらの話でございます」
そうか、エルミーヌは、シャルロットと一緒にいるのか
「では、国王様、娘の部屋にある残っている荷物は、今、私が引き取り、持ち帰らせていただきます。公爵様。娘の次の婚約者は早急に見つけるよう努力いたします。それまで、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言うと、娘の心配をすることなく、早々に部屋から出て行ってしまった。
『このやろう…娘の将来の心配より先に金の話だと?』
公爵が小さな声で憎々しげにつぶやく。怒り狂っている様子を感じる、私もそうは思うが、今は何も言えない…。
「父上が呼んでいる?」
父上たちが、隣国の結婚式から帰ってきた。アンナと一緒に挨拶に行こうと打ち合わせをしていたとはいえ、帰ってきて早々に呼ばれるとは、いったい何事だろう?
『緊張するわ』と頬を赤らめるアンナはとても可愛い。こんなに可愛い令嬢を見つけることができるだなんて。ああ、きっと父上たちも喜んでくれるに違いない。
「失礼いたします」
扉を開け、中へ2人で入る。ん?なんだ、このピリッとした空気は? あれ? モンフォール公爵もいる。
「は、初めまして。アンナ・ベルモンドです。ベルモンド子爵家の長女です」
あ! まだ声をかけられていないのに、身分の低いアンナが先に挨拶をしてしまった。うん、緊張をしていたのだな。うっかりなことろも可愛い。こういう時は、私がフォローをしないと。
「国王陛下、無事のご帰還お待ちしておりました。こちらは私の正妃となるアンナです。今は緊張のあまり先走って…」
「おい、少し黙っていろ」
黙っていろ? ひどい、父上…そんなに怒らなくても…
それにしても、機嫌が悪いなぁ。疲れているのか?
「…それで、モンフォール公爵の話をまとめると、我が愚息は、優秀な2人の婚約者との婚約を解消し、そこの令嬢を正妃として選んだ。ということだな」
「…ああ、王太子殿下の名のもとにです。国王陛下代理の正式な書類もここに…。」
ぐ、愚息? 愚息って言ったのか? モンフォール公爵の無表情は怖いし、まったく、シャルロットたちはちゃんと伝えてくれたのだろうな?
「そうか…」
頭を抱える父上、唖然とする母上、信じられないといった表情の王妃殿下
なぜだ? ここは私の口からきちんと説明をしないと!
「でも、1人は残念ですが、もう1人は側妃として…」
言い終わる前に、母上が冷たい目で睨む。
「どちらもあなたの元には戻りません! 残念なのはあなたの頭です!!」
な!
「母上! 息子に向かって残念とはどういうことです!」
元に戻らない? だって、シャルロットは、あとから2人で側妃候補に名乗りを上げると…
「はぁ、お前の王太子教育はどうなっている‥いや、貴族としての教育すらどうなっているのだ」
…皆が優秀だと褒めたたえています、父上
「なんてことをしたの!解消だなんて。もう二度と婚約は結べないわ」
母上がおっしゃっていることは本当なのか? いや、シャルロットはそんなこと一言も…。
「ああ、もう、何て愚かな。優秀な高位貴族の令嬢は残っていないのに」
王妃殿下まで…
その様子を見ていたアンナが、急に一歩前に出て叫ぶ。
「私が高位貴族じゃないことがだめなのですか!! ばかにしないで!」
…冷たい視線が、私にまで突き刺さる。
扇を開き、表情を隠す王妃殿下。笑っていない目に恐怖を感じる。
「あら、それじゃあ…あなたの良さは何かしら?」
はっ!! 良さ! ここは、私がアピールしないと! 恐怖を感じている場合ではない
「アンナは、愛らしく、私のどんな話も楽しそうに聞いてくれるのです。私の癒しなのです! 贈ったものはなんでも喜んでくれるし、ちょっとすねるところも、悲しいとすぐ泣いてしまうところもかわい…」
まだ言い終わっていないうちに、私の話にかぶせるように母上が叫ぶ
「妾ではないのですよ! 国妃なの! 感情を隠せないで社交は務まると思っていて? あの優秀な2人でさえ何年もかかった妃教育が、終わるわけがないじゃない!」
「そ、それは優秀な側妃がいれば、正妃は私の横でほほ笑んでいてくれれば…」
だから、あの2人のうちどちらかに側妃になってもらえばいいだけなのに…。
扇で口も元を隠したまま、蔑んだ目で見ていた王妃殿下が静かに話し出す。
「クリストファー。あなた、正妃である私を馬鹿にしているのかしら? 私がただ微笑んでいるだけで仕事をしていないとでも? あなたの母に仕事を全て押し付けているとでも?」
いつも優しい王妃殿下が、こ、怖い…
「なんてことを! 王妃様に謝りなさい!!」
ああ、混沌としている。なぜこんなに怒られる。
「2人とも落ち着きなさい…」
ため息をつきながら、父上がおっしゃる。
怒り、呆れ、恐怖が一つの場に凝縮され、言葉にならない圧迫感がその場を支配していた。
そんな中、エルミーヌの父であるルーベンス侯爵が到着した。挨拶もそこそこに、モンフォール公爵が事のあらましを説明する。
何やら考え込んでいる様子だったが、急に笑顔になりルーベンス侯爵が話し始める。
「そうでございましたか。まあ、もう覆せないとおっしゃるのであれば、侯爵家といたしましては正当な慰謝料の請求を要求するのみでございます。王家は、誠意を見せてくださると信じておりますぞ」
「…そうだな。ルーベンス侯爵。それについては、あとで書面にまとめよう」
「して、娘はどこにおるのでしょうか?」
やり取りを見ていたモンフォール公爵が、静かに口を開く。
「ああ、我が娘とエルミーヌ嬢は、取り急ぎ王宮を後にしてな。今は我が邸にいる。シャルロットの心が癒えるまで共にいることを許していただきたい」
「そうでございましたか。それは全く問題ございません。願ってもないことでございます。娘にかける金など…いや、こちらの話でございます」
そうか、エルミーヌは、シャルロットと一緒にいるのか
「では、国王様、娘の部屋にある残っている荷物は、今、私が引き取り、持ち帰らせていただきます。公爵様。娘の次の婚約者は早急に見つけるよう努力いたします。それまで、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言うと、娘の心配をすることなく、早々に部屋から出て行ってしまった。
『このやろう…娘の将来の心配より先に金の話だと?』
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