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30.私の願い
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ウィリアムに背を向け、裏口から食堂へと向かう。
先ほどと同じ場所にいたソフィアのもとに向かい、大きく深呼吸をする。
「…ソフィアちょっといい?」
「いいわよ、なあに?フローリア」
空気にわずかな緊張が漂う。
「今日で、2週間が経つけどソフィア、これからどうするつもり?」
「あっ、そのことね。私、騎士団での仕事を頑張れそうだから、ここで続けて行こうと思っているの!」
ソフィアは少し照れ臭そうに答えた。その言葉に、周りにいた騎士たちの顔に次々と笑みが広がるのが見えた。彼らの中には、まるで自分のことのように喜んでいる者もいた。
「えっ?ソフィアちゃん、ずっとここに居てくれるのか?」
「よかった。ソフィアちゃんに会うと疲れが吹っ飛ぶんだよな」
その場の雰囲気が一気に明るくなった。騎士たちの反応に、ソフィアは少し頬を赤らめながらも、微笑みを返した。
「ふふ。そんなに喜んでくれるなんて。そう、だからフローリアは、元の職場に戻って頑張ってもいいの。もしよければ、第3騎士団のために、元の職場に戻っても薬を納めてくれると嬉しいわ」
ソフィアが続けて言った言葉に、場の雰囲気が少し変わった。
騎士たちの笑顔が驚きに変わり、次々と不安の色を浮かべ始めた。
「フローリアちゃん、辞めちゃうの!?」
「やっぱり、宮廷薬師のほうがいいのか…」
「そんな、ここに居てくれよ」
彼らの声には、困惑が混ざっていた。ぐっとこぶしを握り締め、意を決して言った。
「前も言ったけど、私は辞めないわ」
その言葉に、騎士たち、は再び安堵の表情を見せてくれた。しかし、ソフィアは、少し困惑した表情で私を見つめた。
「そうなの?私もあなたもいないんじゃ、室長たち困っちゃうわね。何とかならない?」
何とかならない!?…言うのよ!私。
「…何とかなるわ。ソフィアが帰ればいいのよ」
ソフィアは驚きと悲しみが交錯した表情を見せ、俯いてしまった。
「私?ひどいわ。この2週間とっても頑張ったのに」
ソフィアは涙を浮かべ呟いた。その小さな声に、周りの騎士たちは顔を見合わせ、どう対処すべきかを悩んでいるようだった。
「ねえ、ソフィア。あなたは帰らなくてはいけないわ。王妃様ご依頼の品はどうするの?新しい部門は?あなた主任なんでしょ?」
「…それは、あなたがやれば…」
「もし、仮に私がやったとしてもあなたへの処罰はなくならないわ。王妃様よ?わかってる?途中で投げ出すなんて…」
下手すれば命に関わるわ。
「でも、どうしてもできないのだもの。主任は私だけど、きっと責任は室長がとってくれるわ」
「あなたがここで、ただ一人の薬師になって、あなたの薬で人を救えなかったとき、自分で責任を取らないってこと?薬師よ?美容だけが仕事じゃないの。そんな無責任な人と一緒に仕事はできないわ。まして、あなたを一人ここに残して置くなんて、怖くてもっとできないわ」
「そんな言い方しなくたって…」
とうとう、ソフィアは泣き出してしまった。騎士たちはおろおろとしながら、どうにかして彼女を慰めようとした。
「あーフローリアちゃん、ちょっと言い過ぎじゃないかな?」
「そうだぞ、医療室にいなかったから知らないかもしれないが、ソフィアちゃん、一生懸命俺らの手当てをしてくれたんだ」
「人手があった方がいいと思うぞ?ほら、休みやすいしな。王妃様のことは、みんなで知恵を出し合えば、いい案が浮かぶかもしれないぞ」
騎士たちは次々と訴えかけてきた。彼らの言葉には、ソフィアへの配慮が込められていた。彼女がすでに、この騎士団に受け入れられていることが、言葉の端々に滲んでいる。味方がいないようで辛い…
「と、とにかく、俺らでは決められないことだから…。フローリアちゃん、もし、上が一緒に働くように言ったら一緒に働かなくてはいけないんだぞ?あまり言い過ぎると今後、気まずいだろ。な、この話は終わりにしようぜ」
終わり?また、受け入れてもらえないの?
「ちょっと待ったぁー!俺は、フローリア様の味方だ!!なんだよお前ら。手当の薬、作っているのはフローリア様だぞ。世話になっておきながら…もっとフローリア様の側で考えてやれよ!」
レオさん!
…そうだわ、負けちゃだめよ。心の中で自分に強く言い聞かせた。自分の信念を曲げてはいけない。騎士団を離れることはどうしても嫌なの。さっきだって、自分が正しいと思っていることを口にしただけ、間違ったことは言っていない。
「私は、一緒に働けない。でも騎士団は辞めたくない」
気持ちを奮い起こして、頑張って言ってはみたが、やっぱり涙が込み上げてくる。目の前にいる騎士たちの顔がぼやけてくる。
「フローリアちゃん…」
誰かが困ったように呟いた。上…そうだわ。
「上の人が決めるというなら、エ、エドモンド様に頼むわ!ソフィアとは働けないって、私は騎士団で働きたいって…なんでも…お願いを聞いてくれるって、そう、言って、いた…もの…」
その言葉を口にした瞬間、目に涙が溢れた。感情が抑えきれなくなり、声が震えた。心の中で渦巻く不安や恐れが、一気に押し寄せてきた。みんなの呆れた顔が目に入る。言うんじゃなかった…。
その時、温かくて大きな手が頭にそっと触れた。安心感が全身に広がり、その手が誰のものであるかを瞬時に理解した。
「その通りだ。フローリアの願いは俺が何でも聞く。おっと、また撫でてしまった、はは。…そういうことだから、ソフィア嬢。申し訳ないが、約束通り今日で君の勤務は終わりだ。今までありがとう」
先ほどと同じ場所にいたソフィアのもとに向かい、大きく深呼吸をする。
「…ソフィアちょっといい?」
「いいわよ、なあに?フローリア」
空気にわずかな緊張が漂う。
「今日で、2週間が経つけどソフィア、これからどうするつもり?」
「あっ、そのことね。私、騎士団での仕事を頑張れそうだから、ここで続けて行こうと思っているの!」
ソフィアは少し照れ臭そうに答えた。その言葉に、周りにいた騎士たちの顔に次々と笑みが広がるのが見えた。彼らの中には、まるで自分のことのように喜んでいる者もいた。
「えっ?ソフィアちゃん、ずっとここに居てくれるのか?」
「よかった。ソフィアちゃんに会うと疲れが吹っ飛ぶんだよな」
その場の雰囲気が一気に明るくなった。騎士たちの反応に、ソフィアは少し頬を赤らめながらも、微笑みを返した。
「ふふ。そんなに喜んでくれるなんて。そう、だからフローリアは、元の職場に戻って頑張ってもいいの。もしよければ、第3騎士団のために、元の職場に戻っても薬を納めてくれると嬉しいわ」
ソフィアが続けて言った言葉に、場の雰囲気が少し変わった。
騎士たちの笑顔が驚きに変わり、次々と不安の色を浮かべ始めた。
「フローリアちゃん、辞めちゃうの!?」
「やっぱり、宮廷薬師のほうがいいのか…」
「そんな、ここに居てくれよ」
彼らの声には、困惑が混ざっていた。ぐっとこぶしを握り締め、意を決して言った。
「前も言ったけど、私は辞めないわ」
その言葉に、騎士たち、は再び安堵の表情を見せてくれた。しかし、ソフィアは、少し困惑した表情で私を見つめた。
「そうなの?私もあなたもいないんじゃ、室長たち困っちゃうわね。何とかならない?」
何とかならない!?…言うのよ!私。
「…何とかなるわ。ソフィアが帰ればいいのよ」
ソフィアは驚きと悲しみが交錯した表情を見せ、俯いてしまった。
「私?ひどいわ。この2週間とっても頑張ったのに」
ソフィアは涙を浮かべ呟いた。その小さな声に、周りの騎士たちは顔を見合わせ、どう対処すべきかを悩んでいるようだった。
「ねえ、ソフィア。あなたは帰らなくてはいけないわ。王妃様ご依頼の品はどうするの?新しい部門は?あなた主任なんでしょ?」
「…それは、あなたがやれば…」
「もし、仮に私がやったとしてもあなたへの処罰はなくならないわ。王妃様よ?わかってる?途中で投げ出すなんて…」
下手すれば命に関わるわ。
「でも、どうしてもできないのだもの。主任は私だけど、きっと責任は室長がとってくれるわ」
「あなたがここで、ただ一人の薬師になって、あなたの薬で人を救えなかったとき、自分で責任を取らないってこと?薬師よ?美容だけが仕事じゃないの。そんな無責任な人と一緒に仕事はできないわ。まして、あなたを一人ここに残して置くなんて、怖くてもっとできないわ」
「そんな言い方しなくたって…」
とうとう、ソフィアは泣き出してしまった。騎士たちはおろおろとしながら、どうにかして彼女を慰めようとした。
「あーフローリアちゃん、ちょっと言い過ぎじゃないかな?」
「そうだぞ、医療室にいなかったから知らないかもしれないが、ソフィアちゃん、一生懸命俺らの手当てをしてくれたんだ」
「人手があった方がいいと思うぞ?ほら、休みやすいしな。王妃様のことは、みんなで知恵を出し合えば、いい案が浮かぶかもしれないぞ」
騎士たちは次々と訴えかけてきた。彼らの言葉には、ソフィアへの配慮が込められていた。彼女がすでに、この騎士団に受け入れられていることが、言葉の端々に滲んでいる。味方がいないようで辛い…
「と、とにかく、俺らでは決められないことだから…。フローリアちゃん、もし、上が一緒に働くように言ったら一緒に働かなくてはいけないんだぞ?あまり言い過ぎると今後、気まずいだろ。な、この話は終わりにしようぜ」
終わり?また、受け入れてもらえないの?
「ちょっと待ったぁー!俺は、フローリア様の味方だ!!なんだよお前ら。手当の薬、作っているのはフローリア様だぞ。世話になっておきながら…もっとフローリア様の側で考えてやれよ!」
レオさん!
…そうだわ、負けちゃだめよ。心の中で自分に強く言い聞かせた。自分の信念を曲げてはいけない。騎士団を離れることはどうしても嫌なの。さっきだって、自分が正しいと思っていることを口にしただけ、間違ったことは言っていない。
「私は、一緒に働けない。でも騎士団は辞めたくない」
気持ちを奮い起こして、頑張って言ってはみたが、やっぱり涙が込み上げてくる。目の前にいる騎士たちの顔がぼやけてくる。
「フローリアちゃん…」
誰かが困ったように呟いた。上…そうだわ。
「上の人が決めるというなら、エ、エドモンド様に頼むわ!ソフィアとは働けないって、私は騎士団で働きたいって…なんでも…お願いを聞いてくれるって、そう、言って、いた…もの…」
その言葉を口にした瞬間、目に涙が溢れた。感情が抑えきれなくなり、声が震えた。心の中で渦巻く不安や恐れが、一気に押し寄せてきた。みんなの呆れた顔が目に入る。言うんじゃなかった…。
その時、温かくて大きな手が頭にそっと触れた。安心感が全身に広がり、その手が誰のものであるかを瞬時に理解した。
「その通りだ。フローリアの願いは俺が何でも聞く。おっと、また撫でてしまった、はは。…そういうことだから、ソフィア嬢。申し訳ないが、約束通り今日で君の勤務は終わりだ。今までありがとう」
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