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27.俺一人で? sideウィリアム
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sideウィリアム
静まり返る室内に、深い緊張感が漂っていた。
「つまり、私とイアン、カミラの3人はこれから上級ポーション製作のためのチームを組む。また、ソフィアは、2週間休職することになった。以上」
室内は一瞬の静寂に包まれた。その静けさを破るように、アレク先輩の慌てた声が響いた。
「ちょ、ちょっと待ってください。イアンと分担していた仕事はどうすればいいのですか?」
アレク先輩の目が焦燥感に満ちている。
「お前一人でやることになる。あー、カミラのやっていた仕事は、アリシアに任せる」
「え!無理です。カミラの仕事は私の専門外です」
先輩たちの表情には困惑と不安が色濃く浮かび、『イアンとカミラのノルマも分け合わなければならないのか』と騒然としている。すでに忙しさで手一杯なのに…。
「何が、無理だ。私たちは、今から成功率がとんでもなく低い上級ポーションづくりに挑む。無理を承知の上でだ。専門外?お前たちは、引き継ぎ書だけ渡して、フローリアに仕事をやらせていたのだろう。経験の浅い新人のフローリアに!」
室長の言葉が、冷たく響き、先輩たちは一様に黙り込む。室内の空気がさらに張り詰める中、一人の先輩が恐る恐る尋ねた。
「なぜ、急に上級ポーションを作ることになったのですか?差し迫って大きな戦いでも?」
「違う…。第2騎士団がな、この前のスタンピードで上級ポーションを使う第3騎士団を見たそうだ…その話が第1騎士団にも伝わって、両騎士団長から、『なぜ我々が持っていない上級ポーションを第3騎士団が持っている』と、苦情が入った。宮廷薬師が作ったものではないと説明をしたのだが…」
「まさか、そのポーション…」
「ああ、フローリアが作ったものだろう」
部屋中がざわめく。誰もが驚きと困惑の入り混じった表情で囁き合う。「まさか、そんな、俺なんか見たことないぞ上級なんて」といった言葉がちらほらと聞こえてくる。
「第3が手に入れられるような品を現宮廷薬師たるもの作れないわけないだろうと、簡単に言ってきてな。…上級ポーションなど私とて、これまでの人生で奇跡的に1本できたくらいだ」
室長で1本…。
「プライドにかけ、せめて2本は完成させなければならない。とにかく今は、皆で、何としてでもこの窮地を乗り越えなくてはならない。…私はもちろん、お前たちにも、この現状を引き起こした一端はあるのだからな」
室長が言い放つと、その場にいた全員が無言で俯いた。フローリアを追い出した結果、全員が困難に直面しているという現実に、誰も反論できなくなっていた。
しかし、俺は、もう一つの話が死活問題だ。
「室長、ソフィアの休職とは一体どういうことです?理由をお聞きしても?」
意を決して問いかける。問いかけに対し、室長の表情が一層厳しくなった。
「ああ、表向きは家庭の事情だが…隠していてもどうせわかることだろう。ソフィアの希望で、彼女は今、第3騎士団にいる」
「希望ってどういうことですか?」
「知らん!甘やかされた伯爵令嬢の考えなど。美容部門がうまくいかなく逃げたのか、フローリアの力になりたいのか、騎士団に想い人でもいるのか。第三騎士団で2週間、働くんだとよ。とにかく、伯爵から頼まれたら否とは言えん、この忙しい時に!」
室長の口調が荒々しくなる。忙しい時に重なる問題に対する苛立ちが見え隠れしていた。俺にはわかる。理由は一つ、副騎士団長だ、きっと。
「…戻ってくるんですよね」
「それもわからん、ソフィアはフローリアとの交換を願っているらしい。余計な面倒を起こさないといいのだが…いや、フローリアが帰ってくるならそれに越したことなどない。しかし第3騎士団長からは、フローリアの希望優先だと言われているから…ああ、可能性の低い希望に縋る暇はない…ウィリアム一人だが、王妃様から依頼されたものの完成を急いでくれ」
俺一人で?
その言葉が心に深く刺さる。一人で背負うべき負担が明確になり、その重みに身が削られていくような感覚に襲われ、目の前が徐々に真っ暗になっていった。
静まり返る室内に、深い緊張感が漂っていた。
「つまり、私とイアン、カミラの3人はこれから上級ポーション製作のためのチームを組む。また、ソフィアは、2週間休職することになった。以上」
室内は一瞬の静寂に包まれた。その静けさを破るように、アレク先輩の慌てた声が響いた。
「ちょ、ちょっと待ってください。イアンと分担していた仕事はどうすればいいのですか?」
アレク先輩の目が焦燥感に満ちている。
「お前一人でやることになる。あー、カミラのやっていた仕事は、アリシアに任せる」
「え!無理です。カミラの仕事は私の専門外です」
先輩たちの表情には困惑と不安が色濃く浮かび、『イアンとカミラのノルマも分け合わなければならないのか』と騒然としている。すでに忙しさで手一杯なのに…。
「何が、無理だ。私たちは、今から成功率がとんでもなく低い上級ポーションづくりに挑む。無理を承知の上でだ。専門外?お前たちは、引き継ぎ書だけ渡して、フローリアに仕事をやらせていたのだろう。経験の浅い新人のフローリアに!」
室長の言葉が、冷たく響き、先輩たちは一様に黙り込む。室内の空気がさらに張り詰める中、一人の先輩が恐る恐る尋ねた。
「なぜ、急に上級ポーションを作ることになったのですか?差し迫って大きな戦いでも?」
「違う…。第2騎士団がな、この前のスタンピードで上級ポーションを使う第3騎士団を見たそうだ…その話が第1騎士団にも伝わって、両騎士団長から、『なぜ我々が持っていない上級ポーションを第3騎士団が持っている』と、苦情が入った。宮廷薬師が作ったものではないと説明をしたのだが…」
「まさか、そのポーション…」
「ああ、フローリアが作ったものだろう」
部屋中がざわめく。誰もが驚きと困惑の入り混じった表情で囁き合う。「まさか、そんな、俺なんか見たことないぞ上級なんて」といった言葉がちらほらと聞こえてくる。
「第3が手に入れられるような品を現宮廷薬師たるもの作れないわけないだろうと、簡単に言ってきてな。…上級ポーションなど私とて、これまでの人生で奇跡的に1本できたくらいだ」
室長で1本…。
「プライドにかけ、せめて2本は完成させなければならない。とにかく今は、皆で、何としてでもこの窮地を乗り越えなくてはならない。…私はもちろん、お前たちにも、この現状を引き起こした一端はあるのだからな」
室長が言い放つと、その場にいた全員が無言で俯いた。フローリアを追い出した結果、全員が困難に直面しているという現実に、誰も反論できなくなっていた。
しかし、俺は、もう一つの話が死活問題だ。
「室長、ソフィアの休職とは一体どういうことです?理由をお聞きしても?」
意を決して問いかける。問いかけに対し、室長の表情が一層厳しくなった。
「ああ、表向きは家庭の事情だが…隠していてもどうせわかることだろう。ソフィアの希望で、彼女は今、第3騎士団にいる」
「希望ってどういうことですか?」
「知らん!甘やかされた伯爵令嬢の考えなど。美容部門がうまくいかなく逃げたのか、フローリアの力になりたいのか、騎士団に想い人でもいるのか。第三騎士団で2週間、働くんだとよ。とにかく、伯爵から頼まれたら否とは言えん、この忙しい時に!」
室長の口調が荒々しくなる。忙しい時に重なる問題に対する苛立ちが見え隠れしていた。俺にはわかる。理由は一つ、副騎士団長だ、きっと。
「…戻ってくるんですよね」
「それもわからん、ソフィアはフローリアとの交換を願っているらしい。余計な面倒を起こさないといいのだが…いや、フローリアが帰ってくるならそれに越したことなどない。しかし第3騎士団長からは、フローリアの希望優先だと言われているから…ああ、可能性の低い希望に縋る暇はない…ウィリアム一人だが、王妃様から依頼されたものの完成を急いでくれ」
俺一人で?
その言葉が心に深く刺さる。一人で背負うべき負担が明確になり、その重みに身が削られていくような感覚に襲われ、目の前が徐々に真っ暗になっていった。
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