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15.大きな綻び sideソフィア
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sideソフィア
「皆、一旦手を止めてくれ」
部屋に入ってきた室長の青ざめた顔に、室内の空気が一気に緊張感を帯びた。
「いくつか確認したいことがある。まず、薬草を育てている第2温室で、半分以上の薬草が腐っている。担当は誰だ」
その問いに、先輩たち数名がおずおずと手を上げる。え?薬草を腐らせたの!?薬師なのに?
「せ、世話はきちんとしています。でも、水も肥料もあげているのに、どんどん弱まり、枯れて…」
一人が小声で弁明するが、その声には自信がなく、怯えているようだった。
「…枯れたのではなく、腐ったのだ。あの温室で育てている薬草は乾燥地のものだ。水がなく栄養の低い土地で本来育てる物なのに、どんどん水も肥料も与えたら腐るに決まっているだろ!!」
室長の声が部屋中に響き渡り、その場にいた全員が息を飲んだ。先輩たちは青ざめ、声にならない悲鳴を上げた。
「宮廷薬師ともあろうものが、薬草の知識がないなど…今までこんなことはなかっただろ。ちゃんと前担当者は、引き継ぎをしたのか?」
その問いに対し、他の先輩が反論するように口を開いた。
「私たちはちゃんと引き継ぎました!!その、言いにくいのですが今年、新人が入ってきてから、今の担当はずっとフローリアにやらせていて、引き継ぎ書もフローリアに渡して自分たちは見ていないはずです」
え?フローリアにやらせていたの?信じられない!断るのが苦手なのを知っていて…ひどいわ。
「ちょっと余計なこと言わないで」
「うるさいわね。ちゃんと引き継ぎをしなかったと思われたら、たまったもんじゃないわ」
「あんただって、フローリアに発注書を全部やらせていたの知っているんだから。取引内容を今慌てて覚えてるんでしょ。バレバレなのよ」
嘘…先輩たち、自分の仕事をフローリアに押し付けていたってこと?
「なるほど、最近、注文ミスが多いのはそのせいか」
低く響く室長の声に、先輩たちは互いに顔を見合わせ、居心地悪そうに視線をそらす。
「ち、違うんです、室長。そうだ!関係ない顔をしていますが、そこにいるイアンやアレクも、書類整理や器具の洗浄などをフローリアにやらせていました。私たちだけじゃありません」
「なっ、巻き込むなよ!俺らは新人を鍛えようとしていただけだ」
その会話に室長の表情が一層険しくなる。
「そうか、整然としていた作業場に清潔さが無くなったのはそのせいか。たるんでいると思っていたが…。はぁ、大事な話は、まだある。昨日の当直は誰だ?」
「…私です」
消え入りそうな声で、一人が名乗り出る。
「お前は、昨日、当直をやらずに帰っただろ?なぜだ。王子殿下が夜、急に腹痛を訴え、当直がいなかったため、私が呼び出された。お前は、いったい何を考えている!!どんな処罰が下るか分からん、覚悟しろ!」
「ひぃ、助けてください!急用ができたのです…でも、もう誰も残っていなくて頼めず。か、勝手に帰ったのは今回が初めてです!いつもはフローリアにちゃんと頼んで…あっ…」
「またフローリアか!まさか、お前たち、ポーションの質が落ちていることにフローリアは関係ないだろうな!」
その言葉に、先輩たちは一斉に視線をそらし、ますます居心地悪そうにする。
ああ、そんな…。ポーションづくりまで押し付けられていたの?フローリアも大変なら大変ってちゃんと言ってくれれば、気付いてあげられたのに。同期なのに水臭いわ。
「…なんということだ。首にするべきなのは、フローリアではなかったということか」
室長の声には、怒りと失望がにじみ出ていた。
しばらくの沈黙の後、ため息をついた室長が私たちの方へ向き直った。
「…さて、ソフィア、ウィリアム。いつも王妃様の依頼をすぐにこなしてきたお前たちが、なぜこんなに時間がかかっている。お前たちも、フローリアが、と言うのか」
え?どういうこと?当たり前じゃない。
「室長!私はずっと、3人の共同開発だと言っていました。フローリアは、私のこうなったらいいなを絶対に形にしてくれる、フローリアが頑張ってくれたと。手柄を独り占めしたことは一度もありません。それなのに辞めさせて2人で開発をさせようとしているのは、室長じゃありませんか」
なんでそんな呆れ顔をするのかしら。室長や先輩たちのせいで、フローリアがいなくなって、私たちだって困っているのに!
「…研究や成果物の代表は、ソフィアの名前だったじゃないか。普通、一番功績をあげた者が製品の開発代表者となる。代表じゃない者がいなくなったとして、そんなに影響が出るとは思わない。…これまでの成果の報告書を見ながら、もう一度報告を受けたい。二人とも、別室に来てくれ」
「皆、一旦手を止めてくれ」
部屋に入ってきた室長の青ざめた顔に、室内の空気が一気に緊張感を帯びた。
「いくつか確認したいことがある。まず、薬草を育てている第2温室で、半分以上の薬草が腐っている。担当は誰だ」
その問いに、先輩たち数名がおずおずと手を上げる。え?薬草を腐らせたの!?薬師なのに?
「せ、世話はきちんとしています。でも、水も肥料もあげているのに、どんどん弱まり、枯れて…」
一人が小声で弁明するが、その声には自信がなく、怯えているようだった。
「…枯れたのではなく、腐ったのだ。あの温室で育てている薬草は乾燥地のものだ。水がなく栄養の低い土地で本来育てる物なのに、どんどん水も肥料も与えたら腐るに決まっているだろ!!」
室長の声が部屋中に響き渡り、その場にいた全員が息を飲んだ。先輩たちは青ざめ、声にならない悲鳴を上げた。
「宮廷薬師ともあろうものが、薬草の知識がないなど…今までこんなことはなかっただろ。ちゃんと前担当者は、引き継ぎをしたのか?」
その問いに対し、他の先輩が反論するように口を開いた。
「私たちはちゃんと引き継ぎました!!その、言いにくいのですが今年、新人が入ってきてから、今の担当はずっとフローリアにやらせていて、引き継ぎ書もフローリアに渡して自分たちは見ていないはずです」
え?フローリアにやらせていたの?信じられない!断るのが苦手なのを知っていて…ひどいわ。
「ちょっと余計なこと言わないで」
「うるさいわね。ちゃんと引き継ぎをしなかったと思われたら、たまったもんじゃないわ」
「あんただって、フローリアに発注書を全部やらせていたの知っているんだから。取引内容を今慌てて覚えてるんでしょ。バレバレなのよ」
嘘…先輩たち、自分の仕事をフローリアに押し付けていたってこと?
「なるほど、最近、注文ミスが多いのはそのせいか」
低く響く室長の声に、先輩たちは互いに顔を見合わせ、居心地悪そうに視線をそらす。
「ち、違うんです、室長。そうだ!関係ない顔をしていますが、そこにいるイアンやアレクも、書類整理や器具の洗浄などをフローリアにやらせていました。私たちだけじゃありません」
「なっ、巻き込むなよ!俺らは新人を鍛えようとしていただけだ」
その会話に室長の表情が一層険しくなる。
「そうか、整然としていた作業場に清潔さが無くなったのはそのせいか。たるんでいると思っていたが…。はぁ、大事な話は、まだある。昨日の当直は誰だ?」
「…私です」
消え入りそうな声で、一人が名乗り出る。
「お前は、昨日、当直をやらずに帰っただろ?なぜだ。王子殿下が夜、急に腹痛を訴え、当直がいなかったため、私が呼び出された。お前は、いったい何を考えている!!どんな処罰が下るか分からん、覚悟しろ!」
「ひぃ、助けてください!急用ができたのです…でも、もう誰も残っていなくて頼めず。か、勝手に帰ったのは今回が初めてです!いつもはフローリアにちゃんと頼んで…あっ…」
「またフローリアか!まさか、お前たち、ポーションの質が落ちていることにフローリアは関係ないだろうな!」
その言葉に、先輩たちは一斉に視線をそらし、ますます居心地悪そうにする。
ああ、そんな…。ポーションづくりまで押し付けられていたの?フローリアも大変なら大変ってちゃんと言ってくれれば、気付いてあげられたのに。同期なのに水臭いわ。
「…なんということだ。首にするべきなのは、フローリアではなかったということか」
室長の声には、怒りと失望がにじみ出ていた。
しばらくの沈黙の後、ため息をついた室長が私たちの方へ向き直った。
「…さて、ソフィア、ウィリアム。いつも王妃様の依頼をすぐにこなしてきたお前たちが、なぜこんなに時間がかかっている。お前たちも、フローリアが、と言うのか」
え?どういうこと?当たり前じゃない。
「室長!私はずっと、3人の共同開発だと言っていました。フローリアは、私のこうなったらいいなを絶対に形にしてくれる、フローリアが頑張ってくれたと。手柄を独り占めしたことは一度もありません。それなのに辞めさせて2人で開発をさせようとしているのは、室長じゃありませんか」
なんでそんな呆れ顔をするのかしら。室長や先輩たちのせいで、フローリアがいなくなって、私たちだって困っているのに!
「…研究や成果物の代表は、ソフィアの名前だったじゃないか。普通、一番功績をあげた者が製品の開発代表者となる。代表じゃない者がいなくなったとして、そんなに影響が出るとは思わない。…これまでの成果の報告書を見ながら、もう一度報告を受けたい。二人とも、別室に来てくれ」
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