上 下
28 / 33

28.嵐の前の静けさ

しおりを挟む
ーside国王ー


来てしまったヴィクターとセレナ嬢が…


ヴィクターの目には燃えるような怒りの火が宿り、その瞳は鋭く傍にいるアレクを射抜く勢いだ。
セレナ嬢は…唇に微笑が浮かんでいる。その微笑はまるで完璧に描かれた絵のように静かで、見る者に安らぎを与える。


どちらが怖いか…間違いなくホフマン家の血を色濃く継いでいるセレナ嬢だ。微笑んでいるからと、気を抜いてはいけない。あの微笑の裏で何を考えているか見当もつかない。ああ、味方であれば心強かっただろうに…


親が同席していないということは、もうすぐ成人の我が子に任せるという意味だろうか。大ごとにしないという意味だろうか。…考えても始まらない。


これから始まる話し合いの想定を頭でしているうちに、待っていられなくなったヴィクターが切り出した。


「陛下、発言の許可を願います」

「…よい、申せ」



「事のあらましを聞きました…王太子と血が近いことを恥じたのは今回が初めてです。」


私はもっと近い…


「自分の地位が脅かされる?だからといって、努力もせずに人を蹴落とすことを選ぶだなんて…なんて恥知らずな!」

「うるさいヴィクター、努力はした!!」


無駄な努力だったがな



「王太子の地位のために私、いや、セレナに迷惑をかけるなど言語道断!陛下、私には必要のない王位継承権、今この場で放棄することを許可願いたい!」

「なっ!それは駄目だ。」


王太子がだめだった場合、他に王位継承権を持っている妹の子供はまだ小さい。




「下手にこんなものを持っているせいで、王太子は愚かな考えを持ち、エヴァン皇子にも迷惑をかけました。次男である私は、小さい頃から公爵家のスペアだった。王位継承権第2位?結局スペアではありませんか。私は、卒業してセレナの唯一の夫となる。だから、必要ないのです!!」


っ!愚息が笑みを隠しきれていない…愚か者め!!!



「…ヴィクター、分かった。そこまで言うなら、了承しよう。では、継承権を持っていたお前に最後に問う。今回の件について、我が息子にどんな罰を与えるといいと思う。」

「…私の父は、実害がないのだから、大目に見ろと。仲が良いのであればエヴァン皇子にもお前がとりなせと言いました。」

「王弟が…いや、身内だとしても甘い顔をしなくていい…1番お前に迷惑をかけたんだ。率直な意見を聞きたい。」


アレクの顔が、気色に満ちたり、青くなったりしている。貴族であれば感情を表に出してはいけないというのに…そんなこともできなかったか…なぜ気付かなかった…



「…アレクは気弱な文官を脅し、ミレーナ嬢はメイドにうその証言をするよう買収したと聞きました。陛下、文官たちの処遇はどうなったのでしょう?」


ヴィクターが静かに私に問いかけた。


「ああ…経緯はどうあれ、己の立場にふさわしくない行動をしたのだ。もう王宮にはいない。」


「そうですか、では、アレクの王位継承権を一時的に剥奪し、学院は休学。アレクは文官、ミレーナはメイドの仕事をするというのはどうでしょう。2人は、臣下や使用人たちがどれだけの努力をしているか、どれだけ重要な役割を果たしているかを理解し、その労働を軽んじていた自分たちの行動を深く反省する必要があります。」


王位継承権を一時的に剥奪に、驚きはあったが、内心で賛同する自分も感じ取った


「期限は?」


「人への敬意と感謝の気持ちを深く理解し、未来の王国にとって真に価値ある者へと成長したと感じた時まででよいでしょう。そうでなければアストリア国にも顔向けができない。自らの行動の重さを理解し、改める機会を与えるべきです。」

その言葉は心に深く響いた。権力を持つ者として責任を重く受け止める。そして再び問いかける。


「それはどうやって判断する。」

「そうですね…一週間の終わりに、アレクとミレーナ嬢は、宮殿の臣下と使用人たち一人一人に感謝の手紙を書くというのはどうでしょう。どれだけ感謝しているか、どれだけ彼らの仕事が大切かということがわかったか、手紙を読んだその者たちに判断させるのもよいかもしれません。」


その時、黙って聞いていたアレクが怒りをあらわにする。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

処理中です...