上 下
36 / 48

36.終わりの終わりーミラベル+αー

しおりを挟む
「さて、ミラベルと言ったかな。私の元息子が世話になった。」

元息子…。

「君は、我が国の大聖女にいったい何をしたのだ?」

「な、何もしておりません。いえ、むしろ聖女様たちが悪口を言っていた時もかばっていたくらいで…。」


陛下が、冊子をペラペラめくる。


「そうだろうか?まあいい、ただ、君がいなければ…と、思わないこともないのだがな。」


優し気な言い方が恐怖をさらに募らせる。


「ああ、そうだ!君にお願いがある。」
「お願いでございますか?」


「そう、実は、シルヴィがいなくなったことにより、結界が綻び、我が国の魔獣出現が増加した。」

魔獣ですって?

「君は、聖女たちと仲がよかったな。ぜひ討伐や浄化の際のサポートをしてほしい。」


討伐、浄化…無理よ!


「陛下、私は何の力もありません。そんなの無理です。」


「ははは、聖女の力はないが、できることをしたいと神殿へ頻繁に訪れていたんだろ?民のためだぞ?無理なわけないだろう。ああ、それに、君はシルヴィから慰謝料を請求されていると聞いたが?そうだ、お金が必要だ。このお願いを聞いてくれたら、私が代わりに払ってやろう。どうだ、娼館とサポート。考えるまでもないと思うがな。」


娼館…サポートなら、そんな危険なこともないかしら。お金、そうよ、お金が必要よ。



********************


「邪魔よ、そんなところに突っ立っていないで!!」

―そっちに1匹、行ったぞ!!逃げろ!!!―


怒号が飛び交う国境付近。聞いていない、なんなのこれ。魔獣の数が尋常じゃない。


夜、血の付いた騎士の服を洗う。いやだ、臭い、手が凍える。


「はぁ、浄化どころか結界がもう駄目だわ。少し修復できたと思ったら、すぐ魔獣に壊される。」

「力が足りない…永遠に終わらない…。」

「…ったく、誰かさんが王太子妃なんて高望みなんかするから!!」

なによ!自分たちのことを棚に上げて!!

睨み返してやると、硬いパンを投げつけられる。

「もう2か月よ…。あんたのせいで…生きて帰れる保証もない…」


何があんたのせいよ!さんざん悪口を言っていたくせに。そうよ、せいぜい最後まで逃げ出さずに死ねばいい。私は、こんなとこ逃げ出してやる。そうだ!ここからは、辺境伯領が近いはず。ダニエル!!あの正義感の強い男なら私をきっと助けてくれる。


********************
 

「ダニエル!!」
森を駆け抜け、馬車を乗り継ぎ、辺境伯領へ着いた。探し出せるか心配だったが、運よくダニエルを見つけた。


「…ミラベルか?」

「そうよ、私よ。助けてダニエル。私、今、大変な目にあっているの。」
明るく、人懐っこいイメージだったダニエルは、疲れ果てた顔をしていた。


「…大変。大変かぁ。いや、ミラベル。逃げた方がいい。この辺境伯領は、君が思っているより危険だ。王都までの馬車を手配してやる。それに乗って早くここから離れるといい。」
聞くと、辺境伯領の結界は、すでに崩壊しており、昼夜問わず毎日魔獣が襲ってくるそうだ。


「そ、そうなのね。じゃあ、残念だけど私はもう行くわ。」
こんなところに長居はできない!!立ち去ろうと馬車乗り場へと向きを変えた私にダニエルが話しかけた。


「…なあ、ミラベル。あの噂は…シルヴィは、本当に悪い女だったのか?」
…。いまさら何を。振り返らず、聞こえないふりをして馬車へと急いだ。


********************

家には帰れないわ。陛下の命令で監視がいるはずだもの。

監視…シルヴィの兄もまずいわ。


そうよ!レオンス、侯爵家でかくまってもらおう。

「…ミラベルか?」


ダニエルといい、レオンスといい、なぜ疑問形で聞くのかしら。


「そうよ、ミラベルよ。」

侯爵家のサロンに通され、レオンスと話す。レオンスも疲れた顔をしているわね。


「レオンス、私すごく困っていて、しばらくここに置いてもらえないかしら。」

「ここに?ああ、それは無理だな」
 
どうしてよ、私がお願いしているのよ。

「困ったことがあったら何でも相談に乗るって。…殿下の婚約者になっても、私をずっと想っているってそういったじゃない!!」


何て男らしくないの!!


「大切な幼馴染をないがしろにしてまで君を…どうかしていたんだ。そのつけが、今の私を襲っている。ちょうど明日、領地へ行くこととなった。何にもない土地だ。はは、難しい決算書を作る必要のないほど穏やかな土地で私は生涯を終える。」

「じゃあ、私も連れて行って。」

王都よりも国境付近よりも安全なはず。

「…私は、1か月前子爵令嬢と結婚をしたのだ。知らなかったのか…。妻と一緒に領地へ行く。君は連れて行けない。」



バタン、部屋に騎士が押し寄せてくる。


「陛下の命令に背いた罪により、これより連行する、大人しく着いてこい。」



ああ、レオンス、私を売ったのね。裏切者!!…終わったわ。このまま娼館行きかしら。違うわね、きっと。はは、あははは…生きていられるかしら…。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

【完結】似て非なる双子の結婚

野村にれ
恋愛
ウェーブ王国のグラーフ伯爵家のメルベールとユーリ、トスター侯爵家のキリアムとオーランド兄弟は共に双子だった。メルベールとユーリは一卵性で、キリアムとオーランドは二卵性で、兄弟という程度に似ていた。 隣り合った領地で、伯爵家と侯爵家爵位ということもあり、親同士も仲が良かった。幼い頃から、親たちはよく集まっては、双子同士が結婚すれば面白い、どちらが継いでもいいななどと、集まっては話していた。 そして、図らずも両家の願いは叶い、メルベールとキリアムは婚約をした。 ユーリもオーランドとの婚約を迫られるが、二組の双子は幸せになれるのだろうか。

皇太子の護衛役ービッグカップルは偽装婚約?!

渚乃雫
恋愛
豊富な水資源と豊かな自然に恵まれた水穂国。 時は修文108年。 舞台となる場所は、 夜は瓦斯灯が街を彩り、昼は女性たちの色鮮やかな着物が、華やかさを添える街 帝都。 この国の皇太子殿下こと嘉一殿下の婚約者が内定して早五年。 誰もが羨む美男美女のビッグカップルの婚約内定は、順風満帆に見えていたけど実は偽りの婚約でした?! しかも、殿下が心に決めた人は殿下のすぐそばにいるらしい……? もう何がなんだかよく分からないけれど、私、殿下の護衛、頑張ります!

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

処理中です...