上 下
34 / 48

34.お茶会の後、商会訪問

しおりを挟む
********************


「この後、商会へ行くわ。」

フランシーヌとのお茶会を終え、まだ日も高かったため、この国にある私の商会へ向かうことにした。



あの国にいた頃、叔父様に頼み、手に入れた商会だ。初めて会った商会長ジャンは、情に弱く、それによって手元資金を減らすような人だった。昔からの取引相手にいいように利用され、挙句、従業員にお金を持ち逃げされ、一家で首をくくるしか…というところだったのを、叔父様に声をかけられたと聞いた。


そんな人が商会長だった商会?と思ったが、経営が向いていないだけで、ジャンの商品を見分ける鑑定眼は本物だった。そして新しいもの流行るものをかぎつける勘も素晴らしいものだった。叔父様、さすがだわ。

優秀な経理・財務担当、営業担当を雇い、商会長には、商品に向き合うことに集中してもらった。結果、今、めきめきと売り上げを伸ばしている。


********************


書類が積み重なり、従業員が騒然とした中で、右往左往している。

「…帰るか?」

多事多端な様子を見たアランが、げんなりした顔で言った。


「ふふ、だめよ。もう、商会長に見つかってしまったもの。」

疲れ果てた顔で、書類と格闘していた商会長が私に気づき、顔を明るくさせた。

「ああ、やっと来てくださった!シルヴィ様、なんですこれ?いろいろな国や商会の取引の契約書が、どんどん送られてきて、てんやわんやなのですが…。」


「前から言っていたではないの。あの国の商会はいずれ手放すから、すべての窓口はこちらに移るって」

「ですが、この量は…。今の人数じゃ無理ですよー。」


商会長から、書類を半分受け取って、処理していく。


「大丈夫よ、優秀な人材をきちんと引き抜いているの。もうすぐ紹介するわ。」


『新しい従業員…各部署への調整は、きっと私の仕事ですよね…。』と泣き言を言いながらもどこか嬉しそうだ。


********************


新しい商品を見せてもらったり、商会の規模拡大に向けての会議に参加したりとそんなことをしているうちにすっかり夕暮れだ。



「少し歩きたいわ。」


御者に、先に帰るように伝え、アランとナタリーを伴い、歩きだす。坂道や階段、細い路地が続くこの地区は、この国の魅力をより深く感じることができる。



「ああとってもきれいな景色ね。…もう少し、遠くまで見渡したいわ」

道の脇を見ると、側面の土が崩れるのを防ぐために設置される擁壁がある。登れそうね。



「おい!シルヴィ、そんな靴で!危ないぞ」
「シルヴィお嬢様!!」

アランとナタリーが慌てて止める。


「このくらい大丈夫よ。」

あー美しい景色。遠くの丘も沈みゆく太陽も美しい。…優しい風が頬に当たり気持ちいいわ。


「ねえ、2人は、私の顔が、見るも無残にただれてしまったらどうする?」

「泣きます!!あっ、そういうことではないですよね。シルヴィお嬢様に嫌がられても決しておそばを離れません。」

ふふ、ナタリーありがとう。




「…お前、自分で治せるだろ?」

ずっと無言で考え込んでいたアランが言った言葉を聞き、ナタリーが冷たい目を向ける。

「な、なんだよ。あれだろ。姫さんと同じ状況ってことだろ?…ってシルヴィまでなんだよその目…」

………。

「はぁ、もしもの話は嫌いなんだよ。ただれたらだったか…正直嫌だ。そもそも護衛の俺がそんな状況にはさせないし傷一つ付けさせやしない…治せないって言うなら、お前が自分の姿を見て悲しまないようにこの世の鏡をすべて割ろう。俺に見られるのが、いや、俺の目に映る自分を見るのも嫌なら目を潰してもいい。そうだ、お前以外の奴の目を全て潰してやろう。」


『物騒な!』『なんだと!』とアランとナタリーが言い合っている。初めてあったころはあんなにおびえていたのに、ナタリーも随分強くなったものね。

ふふ、アラン、私はその答えにとっても満足よ。



夕日が沈みかけ、ナタリーがはらはらしているから、そろそろ降りようかしら。


………。



「…どうした。」

勘づいているくせに


「降りられないと言ったらどうする?」

「ほらみろ!!だから言っただろ!?はぁ~…ったく!俺の体格じゃそこは狭すぎる。しょうがない、ほら、思いっきり飛べ、受けとめてやる。」

大きく手を広げるアランに向かって飛び込む。



「ふふ。重かったでしょ。」

「ばか言え。だから、羽より軽いと言っているだろう。」


呆れ顔のアラン。ラピスラズリが夕日に映えるわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

わたしの婚約者の好きな人

風見ゆうみ
恋愛
わたし、アザレア・ミノン伯爵令嬢には、2つ年上のビトイ・ノーマン伯爵令息という婚約者がいる。 彼は、昔からわたしのお姉様が好きだった。 お姉様が既婚者になった今でも…。 そんなある日、仕事の出張先で義兄が事故にあい、その地で入院する為、邸にしばらく帰れなくなってしまった。 その間、実家に帰ってきたお姉様を目当てに、ビトイはやって来た。 拒んでいるふりをしながらも、まんざらでもない、お姉様。 そして、わたしは見たくもないものを見てしまう―― ※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。ご了承ください。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

処理中です...