上 下
31 / 48

31.終わりに向かってーミラベルー

しおりを挟む
ーミラベルー

こんなはずじゃなかった。

皆から愛される優しき王太子妃。そして、美しき未来の王妃。

そう、あの時までは完璧だったはずよ。あの女を踏み台に登り詰めた。それなのに。



やりたくもない神殿の手伝いに通い、猫をかぶり、微笑を絶やさなかった。美しい王太子と出会い、恋に落ちる。計画通りだったわ。あの女が大事にしていた人たちは、全部私の味方。噂を操ることなど簡単なことだったわ。


あの女をイビリまくっていた王妃にだって気に入られていた。そりゃそうよ。わざと若い頃のあの人のようにふるまったのだもの。普通は同族嫌悪を感じるはずなのに、『若い時の私を見るようだわ。セドにはあなたのような人と恋に落ちてほしいわ。』ですって。あはは、母親が浮気を勧めるなんて、ずいぶん頭が軽い、いえ軽いのは頭だけかしら。まあ、あの王妃がこなせる仕事なんて大したことない、そうよ、跡継ぎである王子を産んだら、あとは楽しく暮らすだけ。そう思っていたのに。


あの冊子の中身はどういうこと!?全てはあの女の手のひらの上で踊らされていたっていうの!?


自分が優秀じゃないことなどわかっていた。学院でA評価を取ったことも不思議に思ったのだが、教師への色仕掛けが効いたと勝手に思っていた。なのに外交?普通外交官がするものでしょ?王妃だってやっていないわ。私にできるわけないじゃない。手紙、会議、書類?無理無理無理。最悪だわ。今から学ぶ気なんかさらさらない。

それにしても、王太子のあの姿…。美しい見た目の理想の王子様は、私の目の前で輝きを失った。あれが本当の姿?たいしたことないじゃない…。国王に似ていない王太子…。…厄介な予感しかしないわ。


…あー、もう、いやだ。選択を間違えた。宰相の息子あたりで手を打っておけば、いや、宰相の妻も優秀さが求められるのだろうか。ならば、次期公爵のレオンスは?辺境伯の息子は?はは、今更だわ。

あんなに親しげだった聖女たちの態度も180度変わり、民が私を見る目にも光が無くなった。せめて、自分の評判を落としてはいけないと、あの後も神殿に通っていたが、私への態度に耐えきれず手伝いに行くのをやめた。人間追いつめられると本性が出るっていうけど、あの態度は全く聖女じゃないわね。笑える。


********************


シルヴィの名で、慰謝料の請求が届いた。どういうこと?婚約破棄の時点で公爵があの女だったとは。令嬢ではなく公爵だからこんな馬鹿みたいな金額なの?次期公爵は、フェルナンではなかったの?こんな金額払えないと両親に泣かれてしまった。なによ!公爵令嬢を押しのけるなんてさすが私たちの娘だと言っていたじゃない。わかったわよ。責任は私だけではないわ。王太子に言って、払ってもらうから。


あの姿を見てから、すっかり会おうという気持ちが無くなっていたが仕方がない。何とかしてもらわなければ、この男爵家はとりつぶしだ。金を作るために私たちができる仕事なんて…いやよ、それだけは絶対いや!!


想像したくもない未来が頭をちらつく中、意を決し、重い足取りで、王宮へ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

婚約破棄されてすぐに新しい婚約者ができたけど、元婚約者が反対してきます

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私ミレッサは、婚約者のウルクに罪を捏造されて婚約破棄を言い渡されてしまう。    私が無実だと友人のカインがその場で説明して――カインが私の新しい婚約者になっていた。  すぐに新しい婚約者ができたけど、元婚約者ウルクは反対してくる。  元婚約者が何を言っても、私には何も関係がなかった。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

処理中です...