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29.隣国到着

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「シルヴィ!」

馬車から降りると、叔父様に勢いよく抱き着かれる。


「今か今かと待ってたよ。やっと来たね。ようこそ、侯爵家へ。」

そして、また、アランに引き剥がされる。


「叔父様、今日からよろしくお願いいたしますわ。」

「また、水臭いことを。君は今日からこの侯爵家の娘だよ。しかし本当によかったのかい?公爵位を返上して。この国にいながらでも爵位を持ち続けることはできたかもしれないのに…」


「よいのです。亡くなったお母様、もちろん叔父様にも悪いという気持ちは当然あるのですが…」


「私のことも、姉上のこともいいんだよ。君が幸せで、納得していれば。」


花がほころぶように笑う、ああ、記憶のお母様もこのように笑う方だったわ。


「はい、公爵位の放棄、返上は必要なことだったのです。」


「そうか、うん、わかったよ。よし!この話は終わりにしよう。しかし、残念だなあ。ぎりぎりまで待っていたのだが、我が妻は、安定期のうちに両親がいる領地へ息子と行ったんだ。君にとっても会いたがっていたよ。でも、安心して。君を迎える準備は妻が万全にしておいたから。領地は近いから落ち着いたら会いに行こう。さあ、中に入ろう。」

叔父様に、優しくエスコートされ、モザイク装飾が美しいエントランスの階段を上がって、邸内に歩みを進める。


一見シンプルながら品の良い空間が広がる。


出会う使用人たちの雰囲気もいい。歓迎されているのが表情から読み取れる。


********************

「着いて早々で悪いのだが、皇女様が私と同じくらいシルヴィが来るのをずっと待っていてね。着いたらすぐ教えるよう催促がひっきりなしさ。報告したら、きっと明日にでも使いの者が来ると思うが大丈夫か?」


「まあ、ふふ。大丈夫ですわ。先日、婚約した皇女様へのお祝いの贈り物も早く渡したいと思っていましたし、ちょうどよかったですわ。」


「助かるよ。さすがに色よい返事ができないことが続いて申し訳ない気持ちになっていたんだ。じゃあ、さっそくシルヴィが着いたことを伝える報告をするよ。」

侍従が頷いて、部屋から出て行く。


「さて、アランも久しぶりだね。すっかり護衛らしくなったね」

「…3か月前に会ったよな?」

「もう、つれないね。「男子三日会わざれば刮目してみよ」だよ。」


『なんだよ、また意味が分からないことを』とつぶやきながら

「3日と、3か月は、違うだろ?何言ってんだ。」
と、アランが言う。



呆れたように笑う叔父様。

「3日間というわずかな時間でも人間は変わることができるという意味だよ、全く、君の口の悪さは変わらないね。まあ、王太子は、3日前に変わり果てた姿になったと私の耳にも入ったがな。あーははは。ああ、見たかった、驚愕に歪むその表情を。シルヴィを粗末に扱うからだ。馬鹿王太子め。君は見たんだろアラン。羨ましいなあ。」

「そうだろう、滑稽だったぞ。」


アランが、会場での王太子の様子を面白おかしく伝え、2人でこの先の王太子の未来を予想しながら、悪い顔で話を弾ませている。

やっぱり仲良しね。
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