28 / 48
28.卒業パーティーの後 sideウィレムス公爵家③
しおりを挟む
ー父ー
押し寄せる領民にうんざりし、妻を連れ王都の屋敷に戻ってきた。
ん?邸が汚い…庭の花に彩りや美しさがない。
いったいこれは…
「父上、連絡もなしにどうなされましたか?はっ!シルヴィの居場所がわかりましたか?」
「いや、そうではない。それより、この邸のありさまはなんだ。使用人の管理はどうなっている。」
「…今から説明いたします。こちらへ…」
薄汚れたテーブル、輝きのないシャンデリア。飾っている花が貧乏くさい。
次々と料理が運ばれてくるが、こんなところで食事をしろと!?
「まずい!!!なんだこれは!シェフ、いや、使用人も変えたのか?」
見た目も悪いが、味のバランスが最悪だ。こちらの皿は薄味、こちらのスープは、塩辛い。配膳するメイドは皿を置くたびに音を立てる。
「…いいえ、父上がいた頃からだれ一人変わってはいません。」
私がいなくなり、手を抜いているのか?なんというやつらだ。
「それどころか、仕事への意欲も取り組む時間も以前と変わりません。でも、使用人の能力が落ちたのです。」
息子、フェルナンが王太子から見せてもらったというシルヴィの冊子に”私が公爵家にいる間、どんなに手を抜いても、完璧な仕事ができてしまうように使用人に能力強化の魔法をかけた”と書いてあったという。
能力強化だと?使用人の能力を上げる理由がわからない。
「使用人ともほとんどかかわりがなかっただろう?何のために、シルヴィが。」
「かかわりがなかったからではないでしょうか。使用人たちはシルヴィの食事や部屋の掃除に明らかに手を抜いていました。手を抜かれても、自分に影響がないように能力強化の魔法をかけたのかと。」
青ざめ震えているシェフが、膝をついて話し出した。
「私は旦那様のご命令通り、私たち使用人が食べる食事よりも粗末なものをお嬢様に出していました。しかし、なぜか味見をするとおいしかったのです。腕のいい私は手を抜いてもこんなにおいしいものを作ってしまうのかと、そう、自惚れ、おかしな現象を報告しておりませんでした。」
「わ、わ、私たちも、手を抜いて掃除をしたはずなのにお嬢様の部屋が綺麗になっているのを自分たちが優秀で、うっかりきちんと掃除をしてしまったんだといつも笑って話…、申し訳ありません。」
愚かな。
「なぜ早く報告をしない!そしたらシルヴィの能力ももっと早く知ることができたのに!!お前たちなんか解雇だ!!」
「それだけは…旦那様!!!」
公爵家の使用人はそれに見合った能力を持っていなくてはいけない。能力の強化前に見抜けなかったとは。総入れ替えだ!!
「解雇はしません。父上。」
淡々と話すフェルナン。
「公爵家には、解雇時に払う退職金も新しく人を雇い入れる金も、いや、使用人の給金すらありませんから。」
********************
一夜明け、公爵家の使用人は半分に減った。紹介文も持たずに愚かな奴らだ。
しばらく給金がなくても、住むところがあればという者たちだけが残った。まあ、この程度の能力ではどこも雇うことはするまい。
「やり直して!髪がちゃんとアップにされていないではないの。」
妻がメイドにヒステリーに叫んでいる声が聞こえる。
領地の作物は過剰に余っている状態でこのまま適切に取引するものがいなければ、かえって赤字だ。商会もいつの間にか人の手に渡っていた。正式な公爵が許可を出したんだ、それも可能だろう。フェルナンが先行投資を行っていた事業の関係者は、金を持って逃げたらしい。鉱山からの収益が入る口座は凍結されていた。商会や鉱山からは金が入らないとなるとどうすれば、どうすればいい。
…隣国だ。隣国の叔父のところに行ったとしか考えられない。あの護衛も消えた、そうだ間違いない!
叔父と頻繁に連絡を取っていた形跡はなかったが、そもそもこの国でシルヴィと交流している人間など皆無だ。隣国しか選択肢はない。
執事にフェルナンを呼んでこさせる
「隣国の叔父ですか?」
「そうだ、この国で見つからないのであれば、可能性は一つしかない。隣国だ。連れて帰り、まずシルヴィの商会と鉱山の権利を譲渡させよう。他国との契約も結びなおさせなくては。そして今度こそ、公爵をお前に譲らせよう。」
「すぐ行きます。父上も共に行き、うまいこと言いくるめてください。」
「ああ、分かっている。愛情に飢えているあの娘であれば、甘い言葉一つで涙を流し、喜んで帰るだろう。しかし侯爵家とは言え、シルヴィの叔父は、皇室ととても近い関係だと聞く。面倒だ。慎重に動かねばならない。そうだ!シルヴィはこの国の大聖女だ。国王陛下に親書を頼もう。」
今までの行いなどすべて忘れ、甘い予想を立て、王宮へ使いを出し、連絡を待つ。
シルヴィがまいた種から芽が出始めていることにも気付かずに。
押し寄せる領民にうんざりし、妻を連れ王都の屋敷に戻ってきた。
ん?邸が汚い…庭の花に彩りや美しさがない。
いったいこれは…
「父上、連絡もなしにどうなされましたか?はっ!シルヴィの居場所がわかりましたか?」
「いや、そうではない。それより、この邸のありさまはなんだ。使用人の管理はどうなっている。」
「…今から説明いたします。こちらへ…」
薄汚れたテーブル、輝きのないシャンデリア。飾っている花が貧乏くさい。
次々と料理が運ばれてくるが、こんなところで食事をしろと!?
「まずい!!!なんだこれは!シェフ、いや、使用人も変えたのか?」
見た目も悪いが、味のバランスが最悪だ。こちらの皿は薄味、こちらのスープは、塩辛い。配膳するメイドは皿を置くたびに音を立てる。
「…いいえ、父上がいた頃からだれ一人変わってはいません。」
私がいなくなり、手を抜いているのか?なんというやつらだ。
「それどころか、仕事への意欲も取り組む時間も以前と変わりません。でも、使用人の能力が落ちたのです。」
息子、フェルナンが王太子から見せてもらったというシルヴィの冊子に”私が公爵家にいる間、どんなに手を抜いても、完璧な仕事ができてしまうように使用人に能力強化の魔法をかけた”と書いてあったという。
能力強化だと?使用人の能力を上げる理由がわからない。
「使用人ともほとんどかかわりがなかっただろう?何のために、シルヴィが。」
「かかわりがなかったからではないでしょうか。使用人たちはシルヴィの食事や部屋の掃除に明らかに手を抜いていました。手を抜かれても、自分に影響がないように能力強化の魔法をかけたのかと。」
青ざめ震えているシェフが、膝をついて話し出した。
「私は旦那様のご命令通り、私たち使用人が食べる食事よりも粗末なものをお嬢様に出していました。しかし、なぜか味見をするとおいしかったのです。腕のいい私は手を抜いてもこんなにおいしいものを作ってしまうのかと、そう、自惚れ、おかしな現象を報告しておりませんでした。」
「わ、わ、私たちも、手を抜いて掃除をしたはずなのにお嬢様の部屋が綺麗になっているのを自分たちが優秀で、うっかりきちんと掃除をしてしまったんだといつも笑って話…、申し訳ありません。」
愚かな。
「なぜ早く報告をしない!そしたらシルヴィの能力ももっと早く知ることができたのに!!お前たちなんか解雇だ!!」
「それだけは…旦那様!!!」
公爵家の使用人はそれに見合った能力を持っていなくてはいけない。能力の強化前に見抜けなかったとは。総入れ替えだ!!
「解雇はしません。父上。」
淡々と話すフェルナン。
「公爵家には、解雇時に払う退職金も新しく人を雇い入れる金も、いや、使用人の給金すらありませんから。」
********************
一夜明け、公爵家の使用人は半分に減った。紹介文も持たずに愚かな奴らだ。
しばらく給金がなくても、住むところがあればという者たちだけが残った。まあ、この程度の能力ではどこも雇うことはするまい。
「やり直して!髪がちゃんとアップにされていないではないの。」
妻がメイドにヒステリーに叫んでいる声が聞こえる。
領地の作物は過剰に余っている状態でこのまま適切に取引するものがいなければ、かえって赤字だ。商会もいつの間にか人の手に渡っていた。正式な公爵が許可を出したんだ、それも可能だろう。フェルナンが先行投資を行っていた事業の関係者は、金を持って逃げたらしい。鉱山からの収益が入る口座は凍結されていた。商会や鉱山からは金が入らないとなるとどうすれば、どうすればいい。
…隣国だ。隣国の叔父のところに行ったとしか考えられない。あの護衛も消えた、そうだ間違いない!
叔父と頻繁に連絡を取っていた形跡はなかったが、そもそもこの国でシルヴィと交流している人間など皆無だ。隣国しか選択肢はない。
執事にフェルナンを呼んでこさせる
「隣国の叔父ですか?」
「そうだ、この国で見つからないのであれば、可能性は一つしかない。隣国だ。連れて帰り、まずシルヴィの商会と鉱山の権利を譲渡させよう。他国との契約も結びなおさせなくては。そして今度こそ、公爵をお前に譲らせよう。」
「すぐ行きます。父上も共に行き、うまいこと言いくるめてください。」
「ああ、分かっている。愛情に飢えているあの娘であれば、甘い言葉一つで涙を流し、喜んで帰るだろう。しかし侯爵家とは言え、シルヴィの叔父は、皇室ととても近い関係だと聞く。面倒だ。慎重に動かねばならない。そうだ!シルヴィはこの国の大聖女だ。国王陛下に親書を頼もう。」
今までの行いなどすべて忘れ、甘い予想を立て、王宮へ使いを出し、連絡を待つ。
シルヴィがまいた種から芽が出始めていることにも気付かずに。
760
お気に入りに追加
6,946
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる