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27.回想⑨~シルヴィ・ウィレムス公爵令嬢~
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「じゃあ、ちょっと結界のこの辺に人が通れる分の穴を開けてくれる?」
本当の本当に本気なのかしら?
『しょうがない、開けてやれ』
やれやれといった感じでアランが言う。
手をかざし、少しずつ吸い取るイメージで結界を消していく。ボーっとしていると叔父様に手を取られ、そのまま穴の中を通る。国境を越え、再び綻ばせた結界を修復して埋める。
ああ、こんなに簡単に。
なんだか足元がおぼつかない。こんなに簡単に国境を超えるだなんて。あぁ、私を縛り付けていたものは、本当は私が作り出していたのかもしれない…。
「じゃあ、転移するよ。初めての時は少し酔うかもしれないから、気を付けて。」
ここは?
「おい、ここ、宮殿じゃないか?」
あら、アランは来たことがあるのね。
「そうだよ、実はシルヴィには、皇女様に会ってほしいんだ。」
叔父様の話では、3か月前、皇女様が視察として訪れた領地で運悪く魔物のスタンピードがおき、視察一行を襲ってきたというのだ。そして、さらに運悪く騎士が切りつけた魔物の血が皇女の顔にかかってしまったそうだ。
「魔物の血は、強い酸性や毒性を持つものもあってね。皇女は命が助かったものの頭皮の部分に至るまで皮膚がただれてしまったんだ。この国の医師や薬師の力をもってしても、元に戻すことはできない。シルヴィ、少しでも元に戻してあげたいんだ。頼まれてくれないだろうか。」
私の、聖女の力を欲しているのね。
「可愛い姪の力を利用しようとしているわけではない。だが、打算的な言い方をすれば、上手くいけば、今後シルヴィがこの国に来た時、いやあの国で不当な目にあった時、有利に皇帝を動かすことができる。」
そういうことね。でも…
「はっ!やるに決まっているだろ?俺に爵位を取って来いって言った女だぞ!利用できるものは利用するさ。なあ?」
そういえばそうね。ふふ。
「叔父様。私を皇女様のところへ連れて行ってください。」
********************
「こんな顔で誰にも会わないわ!!」
部屋の中から、何かを投げつける音が聞こえる。
「皇女様、今一度、今一度だけ会ってはみませんか?隣国で大聖女と言われている方だそうです。きっと、きっと…うぅ」
侍女長が、扉に縋りながら泣いている。
「…その大聖女とやらだけ入って…」
扉を開け、薄暗い部屋の中へと入る。ベッドの上に寝ころび、布団にくるまっているあの方が皇女様ね。
「皇女様、まず顔を見せてください。」
ゆっくり起き上がり、こちらに顔を向ける皇女様。これは、ひどい。
「…ああ、あなた、すごくきれいな肌ね。ふふっ、私だって前は…見て!醜いでしょ!!みんな私を哀れな目で見るわ。顔をしかめ、『早く良くなることを祈っている』そう言って…2度と訪れないの。仲が良かった友達もほとんど離れて行った…あなた、大聖女なのでしょ、じゃあ、あなたも早く祈るといいわ。そしてお大事にって言って、国に帰って!!!」
この方は、色々な人に見放されたのね。
「友達が離れてしまったのですね。では、治ったら私のお友達になってくださいね。」
顔に手をかざし、聖力を高める。顔を包み込むように、皇女様に力を流し込んでいく。
「ふぅ、とりあえず1回目は終わりです。鏡をどうぞ。」
恐る恐るといった様子で受け取り、鏡を見る。
「っつ!!」
皇女様がご自分の顔を何度も触り、涙を流している。
「完璧に治ってはおりません。しかし、聖力を一気に流し込むと疲労感が急に出ます。皇女様は体力がありませんので、3回に分けて治さなくてはいけません。私は一度国に帰りますが、また来ます。必ず治ります。安心してください。」
何度も国から出るのは危険なため、幻覚魔法をかけて、治ったかのように見せかけることもできたが…”お友達になってくださいね”なんて…ふふ、意外な言葉が私の口から出たわ。
「お友達の件、よろしくお願いいたしますわ。」
ベットから勢いよく飛び出し、抱き着く皇女様。
「ええ、もちろんよ。お気に入りのお菓子を用意して待っているわ。」
ラベンダーアメシストの瞳から流れる大粒の涙。
ああ、この皇女様がみる者を魅了してやまないという宝石姫だったのね。
「じゃあ、ちょっと結界のこの辺に人が通れる分の穴を開けてくれる?」
本当の本当に本気なのかしら?
『しょうがない、開けてやれ』
やれやれといった感じでアランが言う。
手をかざし、少しずつ吸い取るイメージで結界を消していく。ボーっとしていると叔父様に手を取られ、そのまま穴の中を通る。国境を越え、再び綻ばせた結界を修復して埋める。
ああ、こんなに簡単に。
なんだか足元がおぼつかない。こんなに簡単に国境を超えるだなんて。あぁ、私を縛り付けていたものは、本当は私が作り出していたのかもしれない…。
「じゃあ、転移するよ。初めての時は少し酔うかもしれないから、気を付けて。」
ここは?
「おい、ここ、宮殿じゃないか?」
あら、アランは来たことがあるのね。
「そうだよ、実はシルヴィには、皇女様に会ってほしいんだ。」
叔父様の話では、3か月前、皇女様が視察として訪れた領地で運悪く魔物のスタンピードがおき、視察一行を襲ってきたというのだ。そして、さらに運悪く騎士が切りつけた魔物の血が皇女の顔にかかってしまったそうだ。
「魔物の血は、強い酸性や毒性を持つものもあってね。皇女は命が助かったものの頭皮の部分に至るまで皮膚がただれてしまったんだ。この国の医師や薬師の力をもってしても、元に戻すことはできない。シルヴィ、少しでも元に戻してあげたいんだ。頼まれてくれないだろうか。」
私の、聖女の力を欲しているのね。
「可愛い姪の力を利用しようとしているわけではない。だが、打算的な言い方をすれば、上手くいけば、今後シルヴィがこの国に来た時、いやあの国で不当な目にあった時、有利に皇帝を動かすことができる。」
そういうことね。でも…
「はっ!やるに決まっているだろ?俺に爵位を取って来いって言った女だぞ!利用できるものは利用するさ。なあ?」
そういえばそうね。ふふ。
「叔父様。私を皇女様のところへ連れて行ってください。」
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「こんな顔で誰にも会わないわ!!」
部屋の中から、何かを投げつける音が聞こえる。
「皇女様、今一度、今一度だけ会ってはみませんか?隣国で大聖女と言われている方だそうです。きっと、きっと…うぅ」
侍女長が、扉に縋りながら泣いている。
「…その大聖女とやらだけ入って…」
扉を開け、薄暗い部屋の中へと入る。ベッドの上に寝ころび、布団にくるまっているあの方が皇女様ね。
「皇女様、まず顔を見せてください。」
ゆっくり起き上がり、こちらに顔を向ける皇女様。これは、ひどい。
「…ああ、あなた、すごくきれいな肌ね。ふふっ、私だって前は…見て!醜いでしょ!!みんな私を哀れな目で見るわ。顔をしかめ、『早く良くなることを祈っている』そう言って…2度と訪れないの。仲が良かった友達もほとんど離れて行った…あなた、大聖女なのでしょ、じゃあ、あなたも早く祈るといいわ。そしてお大事にって言って、国に帰って!!!」
この方は、色々な人に見放されたのね。
「友達が離れてしまったのですね。では、治ったら私のお友達になってくださいね。」
顔に手をかざし、聖力を高める。顔を包み込むように、皇女様に力を流し込んでいく。
「ふぅ、とりあえず1回目は終わりです。鏡をどうぞ。」
恐る恐るといった様子で受け取り、鏡を見る。
「っつ!!」
皇女様がご自分の顔を何度も触り、涙を流している。
「完璧に治ってはおりません。しかし、聖力を一気に流し込むと疲労感が急に出ます。皇女様は体力がありませんので、3回に分けて治さなくてはいけません。私は一度国に帰りますが、また来ます。必ず治ります。安心してください。」
何度も国から出るのは危険なため、幻覚魔法をかけて、治ったかのように見せかけることもできたが…”お友達になってくださいね”なんて…ふふ、意外な言葉が私の口から出たわ。
「お友達の件、よろしくお願いいたしますわ。」
ベットから勢いよく飛び出し、抱き着く皇女様。
「ええ、もちろんよ。お気に入りのお菓子を用意して待っているわ。」
ラベンダーアメシストの瞳から流れる大粒の涙。
ああ、この皇女様がみる者を魅了してやまないという宝石姫だったのね。
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