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第2章

1アイリーン11歳

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わが国では、基本13歳から貴族の令息令嬢は王都の学院に入学する。

しかし、それまでの教育は、家庭教師をつけて、それぞれの家での教育が主だ。
例外はある。それは、隣国への留学だ。わが国より初等教育の進んでいる隣国では、他国からの留学生を7歳から受け付け、手厚い寄宿舎もある。

7歳から留学…

そう、見聞を広げるため7歳になったお兄様とノエル様は、南にある隣国へ留学してしまった。決して、近くない隣国からは、長期休暇でもなければ帰ってこられない。私も7歳を迎えた時、留学の話を打診してみたが、結局皇太子妃教育があるため、国は離れられないと…
抜け道はありそうだったが、お母様が寂しそうな顔をするので、泣く泣く諦めた。

ノエル様が辺境伯に帰る途中、必ず、わが邸に寄ってくださることが救い。


ああ、それにしても暑い。南はもっと暑いでしょうね。お二人に送った冷却タオル、使ってくれているかしら。『水で濡らしてぶんぶん振ったらあら不思議。とっても冷たい。』のアレよ。魔石をボタン代わりにつけ、冷たさキープを維持できるようにしたの。





「…-ン、アイリーン」

目の前には、いぶかしげな顔の皇太子。

はっ!あまりの暇な時間に、現実逃避をしていた。危ない危ない。

「はい、どうされましたか?エドガール様。」

そう、今日は、定例のお茶会だ。
あまりに話しかけられないから、私が黙ったら、どれだけ無言の時間が続くのか試していたら、おっと、思っていたより時間がたっていたようね。殿下が音を上げて話しかけてくるなんて想定外。


「いや、体調が悪いのであれば、家に帰ってはどうかと思い…」


ナイス提案!


「実は少しめまいが…、非常に残念ですが、殿下がそうおっしゃってくださるなら、お言葉に甘えて家に帰ろうかと思います。」


決して自分から言ったのではないわよ、アピール。お優しいですわ殿下、アピール。



11歳の私、これまで、あまり邪険にするのも大人げないと何度か歩み寄ろうと試みては、『ああダメだ、顔がいいだけ皇子だわ』と打ちのめされ、結局、当初の予定通り、当たり障りのない関係を維持している。
だって、このまま婚約者でいれば、『護衛騎士になるノエル様は皇太子の近く=皇太子の近くに行ける婚約者=アイリーン、ノエル様のそばにいる口実できる』の図の完成よ。いずれ婚約解消を狙うにしても、あと数年はだめよ。今後、推しを傍で愛でるには皇太子のそばにいなきゃ。


皇太子は、12歳、来年は、お兄様やノエル様達と一緒に学院に入学する。ノエル様は、王都にあるタウンハウスから通うらしい。

『我が家から通っても』と、お父様が素晴らしい提案をしてくださったのだそうだが、『さすがに婚約者のいる令嬢の家に世話になるわけにはいかない』と辺境伯様から丁寧にお断りをされたのだそうだ。

「このまま婚約者でいて、ノエル様の近くに」と思う自分と「本当、この婚約邪魔ね。」と思う自分がいるわ。悩ましい。
いやでも、今、行動には起こせないわ。何とか侯爵家に不利にならないように、そして、円満に解消するように動かなきゃ。
まあ、きっと皇太子が入学したら、ヒロインがいるでしょ。そうしたら皇太子は恋に落ちるでしょ。私がシナリオ通り動かなければどうなるか予想ができないけど、慎重に慎重に。


「帰らないのかい?」


怪訝そうな皇太子。
おっと、また思考が飛んでいたわ。

「ちょっと良くなってきましたから、もう少しいようかしら。」

欠片も思っていないことを口にする。
うわ、一瞬、嫌そうな顔をしたわ。うける。


「冗談ですわ。お言葉に甘えて、本日は失礼いたします。ごきげんよう。」
ああ、暑い。ボニー冷たいものでも食べてから帰りましょ。
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