キミと2回目の恋をしよう

なの

文字の大きさ
上 下
23 / 23

22話

しおりを挟む
その後は2人で色んな話をした。なんで俺が家を飛び出した理由を康太は知らなかった。

「俺はさ、康太がずっと翔を好きなんじゃないかって思ってたんだ。あの日も翔と出かけてただろ?翔の車に乗り込んで行く姿を見てたらさ俺がいないほうがいいんじゃないかって……それで荷物をまとめてどこか行こうとしたんだ。でもどこにも行くところがなくてぼーっと階段を降りてたら足を踏み外してスーツケースも重かったからバランスを崩してそのまま……気がついたら記憶がなくなってた。まさか記憶を無くすなんて思っても見なかったよ。色々ごめん」
さっきから俺を抱きしめてくれる康太の腕に力が入ったのに気がついた。きっと色んな思いをしたんだろう。

「翔には長く付き合ってる人がいます。あの日俺は先輩の誕生日プレゼントを買いに行くのを付き合ってくれたんです。先輩に内緒だったから……でも俺は先輩と2回目の恋をする為にたくさん嘘をつきました。先輩の持ってたスーツケースを家に戻して、入っていた服も元に戻して、今度は決して離れないようにしよう。すれ違わないようにしようと思ったのに……結局はまた先輩に辛い思いをさせてしまいました。でも 俺が世界で愛するひとは先輩だけなんです。だから……もう2度と俺から離れないで」
息が止まりそうなほど抱きしめられて、それに俺も返した。もう康太から離れない。離れたくはない。俺たちはその日、お互いから離れずにずっとお互いの体温を確認しあっていた。
久しぶりに口付けはとても暖かく幸せな気持ちだった。

「先輩、おはようございます。起き上がれますか?」

「おはよーじゃねーよ。どうしてくれるんだよ。俺、1歩も動けそうにないんだけど……」
そう康太はタガが外れたように俺を求めてくれたのはいいが……やりすぎだ。おかげで俺は仕事に行ける状態ではない。

「大丈夫です。立花部長、海野さん、それと瀬川部長にも今日はリモートにしたいってお願いしましたから」

「リモートって……まだ俺のこと……」

「言いましたよ。先輩の記憶が戻ったってことも」
まさか俺が寝ている間に言っていたとは知らなかった。

俺たちがやっていたプロジェクトは終盤だったこともあり新規実装はなく、テストプレイをひたすら行う作業だった。バグが見つかったら地道に直していく。ゲームプランナーが作成した仕様書や設計書に沿ってキャラクターの動きやゲームシステムの構築などゲームのシーン1つとっても意図した通りに動くように……それでも原因不明のバグに遭遇することがある。できれば単純なキーの打ち間違えなどわかりやすいものであればすぐに修正可能なんだけどな。そう思いながら俺はひたすらテストプレイをしていた。

「やっぱり先輩すごいですよね」
俺の隣で作業をしている康太がつぶやいた。

俺は結局起き上がるのがしんどくてベットの上だ。康太が甲斐甲斐しく世話をしてくれる。飲み物を取りに行ってくれたり、トイレはお姫様抱っこをして連れてってくれた。

結局、夜に食べれなかったハンバーグは朝に2人で食べた。焼きたてじゃなくてレンチンなので多少味は落ちてると思ったが康太は美味しいと言ってくれて嬉しかった。

今日の作業が終わり俺を後ろから抱きしめていた康太が俺の左手を握った。
「先輩の誕生日プレゼント早いけど渡してもいいですか?」
と聞いてきた。ふと見ると握ってる手が微かに震えているように見えた。

「いいのか?もらっても」
背中に感じていた康太の温もりがなくなり、クッションを当てられた。康太はベットから降りてサイドチェストからリボンがついた箱を取り出した。その様子を見ていると康太はベットの横で跪いた。そしてリボンを解いて箱から指輪を取り出した。

「先輩、俺とこれからもずっといてください」
康太は俺の薬指に指輪をはめてくれた。シルバーのシンプルなリングだった。
そして箱からもう1つのリングを取り出して俺に渡してきた。
「先輩、俺にもつけてください」
それはお揃いのリングだった。まさかこんなプレゼントをくれるとは思ってもみなかったけど……

「会社にはつけていけないからな」
恥ずかしくてつい言ってしまうと康太はわかりやすく落ち込んで、そうですよね。先輩はつけてくれませんよね。そう言いながら俺の隣に潜り込んできた。わかりやすく落ち込む康太が可愛くて……

「俺のこと先輩じゃなくて名前で呼んだら考えてやるよ」
康太はいまだに先輩と呼ぶ。いい加減、名前で呼んでほしい。俺はもらった指輪を撫でながらいつか呼んでくれたら、康太の柔らかい唇にキスをしたいと思っていたら。

「昴さん……」
かなり小さめだが呼んでくれた康太を見ると恥ずかしそうにしていた。呼び捨てでいいと言ったが、それは無理と言われてしまった。

明日には俺も回復するだろう。お揃いの指輪をはめて会社に行ったら、みんなどんな反応をするだろう?と思いつつ、これからも康太の隣でいられることの喜びを感じていた。

きっとこれからも色んなことがあると思う。でも俺は……今度こそ間違えないようにちゃんと自分の気持ちに正直に生きようと康太の腕の中で幸せを噛み締めた。




……END……
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

火傷の跡と見えない孤独

リコ井
BL
顔に火傷の跡があるユナは人目を避けて、山奥でひとり暮らしていた。ある日、崖下で遭難者のヤナギを見つける。ヤナギは怪我のショックで一時的に目が見なくなっていた。ユナはヤナギを献身的に看病するが、二人の距離が近づくにつれ、もしヤナギが目が見えるようになり顔の火傷の跡を忌み嫌われたらどうしようとユナは怯えていた。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり…… 態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語 *2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...