キミと2回目の恋をしよう

なの

文字の大きさ
上 下
5 / 23

4話

しおりを挟む
「先輩、着替え持ってきましたけど大丈夫ですか?」
なんか不安そうな顔で聞いてきた。
「あぁ退院してもいいって。入院してても何も治療することがないからってさ。記憶に関しては通院することになったけど」
朝の回診で退院の許可が下りた。退院しても大丈夫かと不安はあることにはあるのだが…

「じゃあお母さんに連絡してきますので着替えて持っててくださいね。着替え、先輩のクローゼットから適当に持ってきてしまって、すみません」
と丁寧に頭を下げられた。
「いや…ありがとう助かったよ」
一緒に暮らしている人がいて助かったと思った。俺が着替えてる間に母親にまで連絡をしてくれる相澤くんには感謝しかない。まぁ俺の携帯は使い物にならないしな。看護師さんたちにお礼を言ってから会計しに行くと、暗証番号は覚えてないかもしれないからと相澤くんが代わりに払ってくれた。

「ごめんな。払わせて…って今までの俺ちゃんと家賃とか光熱費とか払ってた?」
急に不安になった。勝手に居候してたんだから
「大丈夫です。ちゃんと払ってくれてましたから、それに俺も蓄えがあるんで」
片手で俺の荷物、片手で俺を支えながら相澤くんは駐車場までの道をゆっくりと歩いてくれた。相澤くんは俺よりも背が10センチほど高かった。でもなぜか彼の隣は落ち着くと感じている自分がいた。

正面玄関を出ると1台の車が止まっていた。
「よぉって覚えてないか……とりあえず乗れよ」
助手席のドアを開けながら言われたが誰だか分からなくて戸惑っていると

「翔、先輩記憶がないんだから自己紹介しろよ」
翔……って俺の弟?そう思っていたら
「俺は、小嶋 翔、兄貴の弟。それよりも早く乗って後ろに車来ちゃったから」
そう言われて急いで車に乗った。

「何も覚えてなくて……ごめん」
そういうと翔は笑って

「兄貴が謝るなんてなぁ康太…貴重だよな。そんなこともあるんだな」
どういうことだ?俺は謝りもしなかったのか?

「仕方がないよ。今は」

「でもお前……」
そう言いかけた翔の言葉を遮って会社に向かってと言っていた。車に乗って見る景色は初めて見る感じだった。前を向いてても右を見ても、左も見ても後ろを振り返っても何もわからなかった…途中で勤務先が入っていると言われたビルを見上げても俺は何も思い出せなかった。

「ここの15階に職場があるんです。ここは色んな職種の会社が他にも入ってて、あっ社食も美味しいんですよ。来週復帰したら食べましょうね」
俺はうなづいた。

「着きました。ここです」
そう言われて見ると3階建の建物だった。

「送ってくれてありがとう」
俺が翔に声をかけるとそんなのいいよって笑ってくれた。

「康太、待ってるから」

「あぁすぐ行くから待ってて」
相澤くんと翔が話しているのを見ていたら少し胸が痛くなったけど気にしないようにした。

「ここの201号室が俺たちの家です。すみません階段辛いですよね。動かないでくださいね」
そう言うと俺が言う暇もないうちに担ぎ上げられて2階の階段を駆け上がってくれてしまった。

「勝手なことしてすみません」
俺が何か言うと思ったんだろう。その前に謝られてしまった。

「いや、びっくりしただけだから」
そうびっくりしたのだ、まさか担がれて階段を登るとは思わなかった。この前も車椅子に乗せてもらったときに思ったが見た目細く見えるが、がっちりしてて力もあるんだな。と思ってるうちに俺はソファーに誘導され座ると相澤くんはクーラーを付けて、冷蔵庫から冷たいアイスコーヒーを注いで持ってきてくれた。

「今クーラー入れたので涼しくなると思います。俺、お昼買ってくるんで飲んで待っていてくださいね。冷蔵庫にまだあるんで好きに飲んでください。あっ先輩の部屋はこっちです」
俺の部屋を指差して相澤くんは部屋を出ていってしまった。俺も住んでいたんだろうが記憶がない俺はなんだか落ち着かなくて俺の部屋と言われる部屋に入った。そこはベットと4段のチェストが2つ並べてあるだけのシンプルな部屋だった。クローゼットを開けると季節に応じた服やスーツが色別にかけられていた。チェストを開けると仕事のものと思われる書類や本などが分類されて入っていた。ずいぶん几帳面なのか凄く綺麗に置いてあった。もう1つを開けるとさっきのとは少し違い雑に下着やTシャツ、ズボンが入っていた。少し違和感を覚えた。書類はこんなにも丁寧に整理しているのに下着とかは雑なのか変なやつだな俺って。その後気になって3段目、4段目を開けると綺麗に整えられてる服が目に入った。何故かさっきのとは畳み方が違うような気がしたが

「先輩……先輩っ」
そう呼ばれて振り向くと少し汗をかいてる相澤くんが立っていた。
「何か思い出しましたか?」
「いや……何も」
そう言うと、よかった……と小さな声が聞こえた気がした。

「何かあった?」
「いえ何も…あっお昼、買ってきたんで食べましょ。お腹空きましたよね」

俺たちはリビングに戻って相澤くんが買ってきてくれた牛丼を食べた。
「こんなに広いのに1人暮らしだったんだ…もっと狭くてもセキュリティーの高いところとかあったんじゃないの?」
疑問に思って聞いてみると

「俺、男なんでセキュリティーとかどうでもいいんです。ここは駅近で買い物も便利だし、それに俺、整理整頓苦手で……荷物増えたら嫌だなって、それなら少し古くても部屋が広いほうがいいなってここにしたんです。家賃も1LDKと変わらないんで」
「その割には綺麗にしてるじゃん」
そう。リビングもキッチンもとても整理がきちんとされているように見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

火傷の跡と見えない孤独

リコ井
BL
顔に火傷の跡があるユナは人目を避けて、山奥でひとり暮らしていた。ある日、崖下で遭難者のヤナギを見つける。ヤナギは怪我のショックで一時的に目が見なくなっていた。ユナはヤナギを献身的に看病するが、二人の距離が近づくにつれ、もしヤナギが目が見えるようになり顔の火傷の跡を忌み嫌われたらどうしようとユナは怯えていた。

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー
BL
【BLです】 「俺と秋さんは恋人同士です!」「そうなの!?」  無気力でめんどくさがり屋な大学生、露田秋は交通事故に遭い一時的に記憶喪失になったがすぐに記憶を取り戻す。  そんな最中、大学の後輩である天杉夏から見舞いに来ると連絡があり、秋はほんの悪戯心で夏に記憶喪失のふりを続けたら、突然夏が手を握り「俺と秋さんは恋人同士です」と言ってきた。  もちろんそんな事実は無く、何の冗談だと啞然としている間にあれよあれよと話が進められてしまう。  記憶喪失が嘘だと明かすタイミングを逃してしまった秋は、流れ流され夏と同棲まで始めてしまうが案外夏との恋人生活は居心地が良い。  一方では、夏も秋を騙している罪悪感を抱えて悩むものの、一度手に入れた大切な人を手放す気はなくてあの手この手で秋を甘やかす。  あまり深く考えずにまぁ良いかと騙され続ける受けと、騙している事に罪悪感を持ちながらも必死に受けを繋ぎ止めようとする攻めのコメディ寄りの話です。 【主人公にだけ甘い後輩✕無気力な流され大学生】  反応いただけるととても喜びます!誤字報告もありがたいです。  ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載中。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

処理中です...