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4話
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「先輩、着替え持ってきましたけど大丈夫ですか?」
なんか不安そうな顔で聞いてきた。
「あぁ退院してもいいって。入院してても何も治療することがないからってさ。記憶に関しては通院することになったけど」
朝の回診で退院の許可が下りた。退院しても大丈夫かと不安はあることにはあるのだが…
「じゃあお母さんに連絡してきますので着替えて持っててくださいね。着替え、先輩のクローゼットから適当に持ってきてしまって、すみません」
と丁寧に頭を下げられた。
「いや…ありがとう助かったよ」
一緒に暮らしている人がいて助かったと思った。俺が着替えてる間に母親にまで連絡をしてくれる相澤くんには感謝しかない。まぁ俺の携帯は使い物にならないしな。看護師さんたちにお礼を言ってから会計しに行くと、暗証番号は覚えてないかもしれないからと相澤くんが代わりに払ってくれた。
「ごめんな。払わせて…って今までの俺ちゃんと家賃とか光熱費とか払ってた?」
急に不安になった。勝手に居候してたんだから
「大丈夫です。ちゃんと払ってくれてましたから、それに俺も蓄えがあるんで」
片手で俺の荷物、片手で俺を支えながら相澤くんは駐車場までの道をゆっくりと歩いてくれた。相澤くんは俺よりも背が10センチほど高かった。でもなぜか彼の隣は落ち着くと感じている自分がいた。
正面玄関を出ると1台の車が止まっていた。
「よぉって覚えてないか……とりあえず乗れよ」
助手席のドアを開けながら言われたが誰だか分からなくて戸惑っていると
「翔、先輩記憶がないんだから自己紹介しろよ」
翔……って俺の弟?そう思っていたら
「俺は、小嶋 翔、兄貴の弟。それよりも早く乗って後ろに車来ちゃったから」
そう言われて急いで車に乗った。
「何も覚えてなくて……ごめん」
そういうと翔は笑って
「兄貴が謝るなんてなぁ康太…貴重だよな。そんなこともあるんだな」
どういうことだ?俺は謝りもしなかったのか?
「仕方がないよ。今は」
「でもお前……」
そう言いかけた翔の言葉を遮って会社に向かってと言っていた。車に乗って見る景色は初めて見る感じだった。前を向いてても右を見ても、左も見ても後ろを振り返っても何もわからなかった…途中で勤務先が入っていると言われたビルを見上げても俺は何も思い出せなかった。
「ここの15階に職場があるんです。ここは色んな職種の会社が他にも入ってて、あっ社食も美味しいんですよ。来週復帰したら食べましょうね」
俺はうなづいた。
「着きました。ここです」
そう言われて見ると3階建の建物だった。
「送ってくれてありがとう」
俺が翔に声をかけるとそんなのいいよって笑ってくれた。
「康太、待ってるから」
「あぁすぐ行くから待ってて」
相澤くんと翔が話しているのを見ていたら少し胸が痛くなったけど気にしないようにした。
「ここの201号室が俺たちの家です。すみません階段辛いですよね。動かないでくださいね」
そう言うと俺が言う暇もないうちに担ぎ上げられて2階の階段を駆け上がってくれてしまった。
「勝手なことしてすみません」
俺が何か言うと思ったんだろう。その前に謝られてしまった。
「いや、びっくりしただけだから」
そうびっくりしたのだ、まさか担がれて階段を登るとは思わなかった。この前も車椅子に乗せてもらったときに思ったが見た目細く見えるが、がっちりしてて力もあるんだな。と思ってるうちに俺はソファーに誘導され座ると相澤くんはクーラーを付けて、冷蔵庫から冷たいアイスコーヒーを注いで持ってきてくれた。
「今クーラー入れたので涼しくなると思います。俺、お昼買ってくるんで飲んで待っていてくださいね。冷蔵庫にまだあるんで好きに飲んでください。あっ先輩の部屋はこっちです」
俺の部屋を指差して相澤くんは部屋を出ていってしまった。俺も住んでいたんだろうが記憶がない俺はなんだか落ち着かなくて俺の部屋と言われる部屋に入った。そこはベットと4段のチェストが2つ並べてあるだけのシンプルな部屋だった。クローゼットを開けると季節に応じた服やスーツが色別にかけられていた。チェストを開けると仕事のものと思われる書類や本などが分類されて入っていた。ずいぶん几帳面なのか凄く綺麗に置いてあった。もう1つを開けるとさっきのとは少し違い雑に下着やTシャツ、ズボンが入っていた。少し違和感を覚えた。書類はこんなにも丁寧に整理しているのに下着とかは雑なのか変なやつだな俺って。その後気になって3段目、4段目を開けると綺麗に整えられてる服が目に入った。何故かさっきのとは畳み方が違うような気がしたが
「先輩……先輩っ」
そう呼ばれて振り向くと少し汗をかいてる相澤くんが立っていた。
「何か思い出しましたか?」
「いや……何も」
そう言うと、よかった……と小さな声が聞こえた気がした。
「何かあった?」
「いえ何も…あっお昼、買ってきたんで食べましょ。お腹空きましたよね」
俺たちはリビングに戻って相澤くんが買ってきてくれた牛丼を食べた。
「こんなに広いのに1人暮らしだったんだ…もっと狭くてもセキュリティーの高いところとかあったんじゃないの?」
疑問に思って聞いてみると
「俺、男なんでセキュリティーとかどうでもいいんです。ここは駅近で買い物も便利だし、それに俺、整理整頓苦手で……荷物増えたら嫌だなって、それなら少し古くても部屋が広いほうがいいなってここにしたんです。家賃も1LDKと変わらないんで」
「その割には綺麗にしてるじゃん」
そう。リビングもキッチンもとても整理がきちんとされているように見えた。
なんか不安そうな顔で聞いてきた。
「あぁ退院してもいいって。入院してても何も治療することがないからってさ。記憶に関しては通院することになったけど」
朝の回診で退院の許可が下りた。退院しても大丈夫かと不安はあることにはあるのだが…
「じゃあお母さんに連絡してきますので着替えて持っててくださいね。着替え、先輩のクローゼットから適当に持ってきてしまって、すみません」
と丁寧に頭を下げられた。
「いや…ありがとう助かったよ」
一緒に暮らしている人がいて助かったと思った。俺が着替えてる間に母親にまで連絡をしてくれる相澤くんには感謝しかない。まぁ俺の携帯は使い物にならないしな。看護師さんたちにお礼を言ってから会計しに行くと、暗証番号は覚えてないかもしれないからと相澤くんが代わりに払ってくれた。
「ごめんな。払わせて…って今までの俺ちゃんと家賃とか光熱費とか払ってた?」
急に不安になった。勝手に居候してたんだから
「大丈夫です。ちゃんと払ってくれてましたから、それに俺も蓄えがあるんで」
片手で俺の荷物、片手で俺を支えながら相澤くんは駐車場までの道をゆっくりと歩いてくれた。相澤くんは俺よりも背が10センチほど高かった。でもなぜか彼の隣は落ち着くと感じている自分がいた。
正面玄関を出ると1台の車が止まっていた。
「よぉって覚えてないか……とりあえず乗れよ」
助手席のドアを開けながら言われたが誰だか分からなくて戸惑っていると
「翔、先輩記憶がないんだから自己紹介しろよ」
翔……って俺の弟?そう思っていたら
「俺は、小嶋 翔、兄貴の弟。それよりも早く乗って後ろに車来ちゃったから」
そう言われて急いで車に乗った。
「何も覚えてなくて……ごめん」
そういうと翔は笑って
「兄貴が謝るなんてなぁ康太…貴重だよな。そんなこともあるんだな」
どういうことだ?俺は謝りもしなかったのか?
「仕方がないよ。今は」
「でもお前……」
そう言いかけた翔の言葉を遮って会社に向かってと言っていた。車に乗って見る景色は初めて見る感じだった。前を向いてても右を見ても、左も見ても後ろを振り返っても何もわからなかった…途中で勤務先が入っていると言われたビルを見上げても俺は何も思い出せなかった。
「ここの15階に職場があるんです。ここは色んな職種の会社が他にも入ってて、あっ社食も美味しいんですよ。来週復帰したら食べましょうね」
俺はうなづいた。
「着きました。ここです」
そう言われて見ると3階建の建物だった。
「送ってくれてありがとう」
俺が翔に声をかけるとそんなのいいよって笑ってくれた。
「康太、待ってるから」
「あぁすぐ行くから待ってて」
相澤くんと翔が話しているのを見ていたら少し胸が痛くなったけど気にしないようにした。
「ここの201号室が俺たちの家です。すみません階段辛いですよね。動かないでくださいね」
そう言うと俺が言う暇もないうちに担ぎ上げられて2階の階段を駆け上がってくれてしまった。
「勝手なことしてすみません」
俺が何か言うと思ったんだろう。その前に謝られてしまった。
「いや、びっくりしただけだから」
そうびっくりしたのだ、まさか担がれて階段を登るとは思わなかった。この前も車椅子に乗せてもらったときに思ったが見た目細く見えるが、がっちりしてて力もあるんだな。と思ってるうちに俺はソファーに誘導され座ると相澤くんはクーラーを付けて、冷蔵庫から冷たいアイスコーヒーを注いで持ってきてくれた。
「今クーラー入れたので涼しくなると思います。俺、お昼買ってくるんで飲んで待っていてくださいね。冷蔵庫にまだあるんで好きに飲んでください。あっ先輩の部屋はこっちです」
俺の部屋を指差して相澤くんは部屋を出ていってしまった。俺も住んでいたんだろうが記憶がない俺はなんだか落ち着かなくて俺の部屋と言われる部屋に入った。そこはベットと4段のチェストが2つ並べてあるだけのシンプルな部屋だった。クローゼットを開けると季節に応じた服やスーツが色別にかけられていた。チェストを開けると仕事のものと思われる書類や本などが分類されて入っていた。ずいぶん几帳面なのか凄く綺麗に置いてあった。もう1つを開けるとさっきのとは少し違い雑に下着やTシャツ、ズボンが入っていた。少し違和感を覚えた。書類はこんなにも丁寧に整理しているのに下着とかは雑なのか変なやつだな俺って。その後気になって3段目、4段目を開けると綺麗に整えられてる服が目に入った。何故かさっきのとは畳み方が違うような気がしたが
「先輩……先輩っ」
そう呼ばれて振り向くと少し汗をかいてる相澤くんが立っていた。
「何か思い出しましたか?」
「いや……何も」
そう言うと、よかった……と小さな声が聞こえた気がした。
「何かあった?」
「いえ何も…あっお昼、買ってきたんで食べましょ。お腹空きましたよね」
俺たちはリビングに戻って相澤くんが買ってきてくれた牛丼を食べた。
「こんなに広いのに1人暮らしだったんだ…もっと狭くてもセキュリティーの高いところとかあったんじゃないの?」
疑問に思って聞いてみると
「俺、男なんでセキュリティーとかどうでもいいんです。ここは駅近で買い物も便利だし、それに俺、整理整頓苦手で……荷物増えたら嫌だなって、それなら少し古くても部屋が広いほうがいいなってここにしたんです。家賃も1LDKと変わらないんで」
「その割には綺麗にしてるじゃん」
そう。リビングもキッチンもとても整理がきちんとされているように見えた。
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