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ネクタイピンの秘密
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「海斗おはよう」いつものように海斗を起こしたが、なかなか目を開けてくれない。昨日は俺より早く寝たのに、あれから眠れなかったのかもしれない。あんなことを言われたら無理もないか…
「海斗、しんどいなら休んでもいいんだぞ。どうする?」そうやって聞くと
「起きます」と目を開けてくれた。でもその目は赤くなっていた。1人で泣いたのかもしれない。
俺はいつもより力を込めて海斗を抱きしめた。今日で終わるから…海斗の辛さも俺が必ず救ってやるからと…思いを込めて…海斗は行きたくないのか、いつもよりぼーっとしながら洗面所に行き支度をして戻ってきた。
「海斗、今日の晩飯はないがいい?」
「なんでも…いいです」と元気のない声で言われた。
いつものあの元気はない。ここ数日こんな感じだ。理由は知っている。あれだけ親父が言ったのに、まだ俺の秘書を狙ってたのか、室長も室長だ。川上さんに乗せられて海斗を排除しようとするなんて許せない。今日は徹底的にあの2人には今までのことを全て詫びてもらうつもりだ。でも今は、海斗には内緒だ。せっかくみんなで計画したのだから、でも海斗の辛そうな顔は見たくないんだけどな…
「そうか…美味しいものでも食べたいな。何がいいか俺に任せてもらってもいい?」
「はい。大丈夫です。透さん…まだ胃の具合がよくないので残します。ごめんなさい」
「いいよ。大丈夫か?無理しなくても…」
「大丈夫です。今日の会議には角谷さんと室長も出席するみたいなので、ちょっと忙しいと思うから、じゃあ少し早いけど先に行きます」
「海斗、車に乗っていかないか?」
「大丈夫。まだ隠してるしバレたら困るでしょ?会社まで近いから電車で行きます。大丈夫ですから…」
海斗のことは心配だが、あまりしつこくすると黙ってしまうから仕方がない。海斗が行ってから俺は支度をしながら1本電話をかけた。
「もしもし叔父さん?」
「おぉ早いな。どうした?海斗くんは?」
「うん。食欲もないし…元気がないんだ」
「そうか…でも会議が終わって結果が出れば…な。少しは気分も良くなるだろう」
「だといいけど…」
「なんだか弱気だな。いつもの感じはどうした?」
「いや…俺のせいで海斗に嫌な思いも辛い思いもさせてるよな…って」
「まぁ…仕方ない。そればかりは…でも海斗くんを守るって、その約束は必ず果たすから、安心しろ」
「ありがとう。叔父さん」
「俺も、これからそっちに向かうから、頼むな」
「じゃあまた後で、今日はお願いします」里中の叔父と話したことで俺の気分も少し上がってきた。海斗を守るために気合を込めて、海斗から贈られたネクタイピンを付けた。
実はこのネクタイピンの裏側にはメッセージが刻まれている。もらった時には気づかなかったが、海斗がスクールに行ってるときにネクタイピンとカフスリンクスを眺めていた時だった。カフスの表の隅に控えめにT.Kと刻印されているのを見て、もしかしてネクタイピンにも同じ刻印があるのかと表を見たが見あたらなかった。ふと裏側を見てみたら「Always with you 」(いつもあなたと一緒)というメッセージが刻まれていた。俺は商談やここぞ!と気合を入れるときにネクタイピンを付ける。それを知ってたからこそ、ネクタイピンをくれたのかと思っていたがそうじゃない。わざわざこの意味のメッセージを入れてくれたのだと思うと胸が熱くなった。控えめな海斗らしい。付ける俺しかそのメッセージは見えないしわからない。嬉し過ぎてスクールから帰ってきた海斗をその日抱き潰してしまい足腰が立たなくなった海斗に「もう透さんとしないっ」とめちゃくちゃ怒られたのをつい思い出して苦笑してしまった。
俺は海斗を好きすぎると思っていたが、海斗も案外、独占欲が強いのだ。海斗からのプレゼントを付けて俺は会社に向かった。
会社に着くといつもは営業部に直行だが、今日は親父の…社長室に行くために駐車場から社長専用のエレベーターに乗って社長室に行った。
「おはようございます透さん。そろそろお見えかと思ってました。社長がお待ちです」
エレベーターの前に角谷さんが立っていた。監視カメラで俺が来るのを見ていたんだろう。思わず緊張が走った。
「透、海斗くんは大丈夫か?」入った早々、社長に声をかけられた。
「あまり食欲もないですし…元気もないです」
「そうか可哀想だな」
実は昨日の夕方、親父に呼び出された。角谷さんが朝、室長から、海斗を辞めさせたいと話があったと…角谷さんも怒りたいのを抑えて冷静に理由を聞くと、海斗は仕事を頼んでもできずにいつも川上さんが手伝ってくれている。他にも他の秘書に手伝ってもらわないと1人で仕事ができない。また今日使う重要な書類を間違えて用意した。秘書として失格だと、いくら俺の推薦でもこうも仕事ができないならば秘書課を離れ、違う部署にした方がいいんじゃないかと。本当はそんなお荷物辞めてもらってもいいんですけどね…と。それから俺の秘書は、やっぱり川上さんが適任じゃないかって…再教育の必要はもうないんじゃないかと。怒りで震える角谷さんは、目を瞑り大きく深呼吸して話を続けた。
「それと今日、自分も会議室で準備をしているときに川上さんが海斗くんに「秘書には向いてない。透さんの秘書は私がなるから」と言ってました。許せなかったのにその場で何も言えずに申し訳ありませんでした」と頭を深く下げて謝られた。
そんなことを海斗は言われたのか…俺は拳を握った。
「室長は、明日の会議の議題に海斗くんの話をしたいと言っていました。本来なら、就任パーティーの確認事項の説明に会議に出席予定だったのに…申し訳ありません」
「じゃあ明日のために対策を練ろう。角谷、茂を呼んでくれ。アイツは弁護士だからこういう時に役に立つな。
里中の叔父さんも交えて明日のために話し合いをすることになった。
「海斗、しんどいなら休んでもいいんだぞ。どうする?」そうやって聞くと
「起きます」と目を開けてくれた。でもその目は赤くなっていた。1人で泣いたのかもしれない。
俺はいつもより力を込めて海斗を抱きしめた。今日で終わるから…海斗の辛さも俺が必ず救ってやるからと…思いを込めて…海斗は行きたくないのか、いつもよりぼーっとしながら洗面所に行き支度をして戻ってきた。
「海斗、今日の晩飯はないがいい?」
「なんでも…いいです」と元気のない声で言われた。
いつものあの元気はない。ここ数日こんな感じだ。理由は知っている。あれだけ親父が言ったのに、まだ俺の秘書を狙ってたのか、室長も室長だ。川上さんに乗せられて海斗を排除しようとするなんて許せない。今日は徹底的にあの2人には今までのことを全て詫びてもらうつもりだ。でも今は、海斗には内緒だ。せっかくみんなで計画したのだから、でも海斗の辛そうな顔は見たくないんだけどな…
「そうか…美味しいものでも食べたいな。何がいいか俺に任せてもらってもいい?」
「はい。大丈夫です。透さん…まだ胃の具合がよくないので残します。ごめんなさい」
「いいよ。大丈夫か?無理しなくても…」
「大丈夫です。今日の会議には角谷さんと室長も出席するみたいなので、ちょっと忙しいと思うから、じゃあ少し早いけど先に行きます」
「海斗、車に乗っていかないか?」
「大丈夫。まだ隠してるしバレたら困るでしょ?会社まで近いから電車で行きます。大丈夫ですから…」
海斗のことは心配だが、あまりしつこくすると黙ってしまうから仕方がない。海斗が行ってから俺は支度をしながら1本電話をかけた。
「もしもし叔父さん?」
「おぉ早いな。どうした?海斗くんは?」
「うん。食欲もないし…元気がないんだ」
「そうか…でも会議が終わって結果が出れば…な。少しは気分も良くなるだろう」
「だといいけど…」
「なんだか弱気だな。いつもの感じはどうした?」
「いや…俺のせいで海斗に嫌な思いも辛い思いもさせてるよな…って」
「まぁ…仕方ない。そればかりは…でも海斗くんを守るって、その約束は必ず果たすから、安心しろ」
「ありがとう。叔父さん」
「俺も、これからそっちに向かうから、頼むな」
「じゃあまた後で、今日はお願いします」里中の叔父と話したことで俺の気分も少し上がってきた。海斗を守るために気合を込めて、海斗から贈られたネクタイピンを付けた。
実はこのネクタイピンの裏側にはメッセージが刻まれている。もらった時には気づかなかったが、海斗がスクールに行ってるときにネクタイピンとカフスリンクスを眺めていた時だった。カフスの表の隅に控えめにT.Kと刻印されているのを見て、もしかしてネクタイピンにも同じ刻印があるのかと表を見たが見あたらなかった。ふと裏側を見てみたら「Always with you 」(いつもあなたと一緒)というメッセージが刻まれていた。俺は商談やここぞ!と気合を入れるときにネクタイピンを付ける。それを知ってたからこそ、ネクタイピンをくれたのかと思っていたがそうじゃない。わざわざこの意味のメッセージを入れてくれたのだと思うと胸が熱くなった。控えめな海斗らしい。付ける俺しかそのメッセージは見えないしわからない。嬉し過ぎてスクールから帰ってきた海斗をその日抱き潰してしまい足腰が立たなくなった海斗に「もう透さんとしないっ」とめちゃくちゃ怒られたのをつい思い出して苦笑してしまった。
俺は海斗を好きすぎると思っていたが、海斗も案外、独占欲が強いのだ。海斗からのプレゼントを付けて俺は会社に向かった。
会社に着くといつもは営業部に直行だが、今日は親父の…社長室に行くために駐車場から社長専用のエレベーターに乗って社長室に行った。
「おはようございます透さん。そろそろお見えかと思ってました。社長がお待ちです」
エレベーターの前に角谷さんが立っていた。監視カメラで俺が来るのを見ていたんだろう。思わず緊張が走った。
「透、海斗くんは大丈夫か?」入った早々、社長に声をかけられた。
「あまり食欲もないですし…元気もないです」
「そうか可哀想だな」
実は昨日の夕方、親父に呼び出された。角谷さんが朝、室長から、海斗を辞めさせたいと話があったと…角谷さんも怒りたいのを抑えて冷静に理由を聞くと、海斗は仕事を頼んでもできずにいつも川上さんが手伝ってくれている。他にも他の秘書に手伝ってもらわないと1人で仕事ができない。また今日使う重要な書類を間違えて用意した。秘書として失格だと、いくら俺の推薦でもこうも仕事ができないならば秘書課を離れ、違う部署にした方がいいんじゃないかと。本当はそんなお荷物辞めてもらってもいいんですけどね…と。それから俺の秘書は、やっぱり川上さんが適任じゃないかって…再教育の必要はもうないんじゃないかと。怒りで震える角谷さんは、目を瞑り大きく深呼吸して話を続けた。
「それと今日、自分も会議室で準備をしているときに川上さんが海斗くんに「秘書には向いてない。透さんの秘書は私がなるから」と言ってました。許せなかったのにその場で何も言えずに申し訳ありませんでした」と頭を深く下げて謝られた。
そんなことを海斗は言われたのか…俺は拳を握った。
「室長は、明日の会議の議題に海斗くんの話をしたいと言っていました。本来なら、就任パーティーの確認事項の説明に会議に出席予定だったのに…申し訳ありません」
「じゃあ明日のために対策を練ろう。角谷、茂を呼んでくれ。アイツは弁護士だからこういう時に役に立つな。
里中の叔父さんも交えて明日のために話し合いをすることになった。
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