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試練
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毎日が忙しいながらも過ぎていった。パーティーの準備もだいぶ整ってきてあとは前日を迎えるだけにほぼなっていた。
あれから室長から頼まれごとをされるたびに、川上さんが手伝ってくれることが多くなった。角谷さんが言ってくれたんだと思っていたそんなある日、室長から呼び出された。
「小沢くん、この資料は君が集めてくれたんだろ?」
「はいっ…何かありましたでしょうか?」
「資料が違うんだけど、これじゃないんだよ、頼んだ資料は…明後日の重役会議にメインで使う資料なんだよ。君に任せた俺が悪かったようだね」
「えっそんなわけ」
川上さんと目が合うと彼女の口角が少し上がったような気がした。何かされたのかもしれない。ふとそんなことを思ったが、人のせいにしちゃいけないと思い直した。
「申し訳ありませんでした。今すぐ用意を…」
「もういいよ。川上さんがちゃんと用意してくれたから、全く資料の1つ満足に用意できないんじゃ来週の秘書検定試験も合格なんかできないんじゃないか?せっかく浅井部長の推薦だかなんだか知らないけど、まだ勤務年数も浅い君には秘書なんて部署は荷が重かったのかもしれないね。今後のことは、考え直した方がいいよ。私から角谷さんや、社長に伝えておいてあげるから。もういいよ。業務に戻りなさい」
「失礼いたしました」
やられた。でも証拠がない。きっとこのことは角谷さんや社長、透さんにも伝わるだろう。やっぱり透さんの秘書には向かないと言われるかもしれない。
就業時間を過ぎても会社にいた。周りが帰っていくなか、なかなか帰る気にはならなかった。今更、挽回することはできない。
まさか川上さんに裏切られるなんて思っても見なかった。いつも優しく教えてくれて、いつも声をかけてくれて…でも本当は僕が秘書課に来たのは嫌だったのかもしれない。だって僕は透さんの元部下だから…
僕はオフィスの窓から暗くなった外の景色を眺めていた。どのくらい経ったのだろう…コツコツと足音が聞こえてきた。警備の人かもしれない。もう帰らないといけないのか…荷物を鞄に詰めてるとスマホが光っていた。透さんからの着信が5件とお義母さんからのメッセージがあった。
「海斗くん元気?そろそろ秘書検定試験だね。頑張って応援してるから。前日は美味しいトンカツご馳走するからランチに行こうね」と書いてあった。そんな申し訳ない。お義母さんも応援してくれてるのに期待を裏切るかもしれない。
気がつけば足音が聞こえなくなっていて、ドアの開く音が聞こえた。振り向くと「海斗、お疲れさま」と透さんが入ってきた。
「もう帰れそうか?」
「はい」
「じゃあ帰ろう」
透さんの車に乗って会社を出た。何か声を出せば悪口を言いそうで、黙って外の景色を見ていた。「疲れたか?」と聞かれて「大丈夫です」と答えて目を瞑った。何も聞かないでほしい。何も言いたくなかった。夜遅いからコンビニ寄って帰るか?と言われ何時だろうと時計をみると21時を回っていた。
透さんは僕の態度がいつもと違うのに何も言わないし、聞かないでいてくれた。いつもはお風呂に入ってもちょっかい出してくるのに今日は何もしなかった。そのまま特に何かを話すことなく透さんの隣で目を瞑った。
でもなんだか胃が痛くなってきて僕はそっとベッドから降りた。
キッチンで胃薬を飲んでソファーに座った。どうして川上さんに意地悪されてしまったんだろうか?室長にも嫌われてしまったら僕は…秘書課にいられない。これからも意地悪をされるかもしれない。
「眠れないのか?」
「あっもう寝ます。少し喉が渇いただけなので」
そう言って立ち上がった僕を優しく抱きしめてくれた。
「海斗が言いたくないなら、何も聞かない。でも俺は海斗の夫だよ。頼りないかもしれないけど、それでも頼ってほしい」
「透さん…ごめんなさい」
「大丈夫。もう寝よう」
透さんの優しさに泣きそうになったけど…でも川上さんがやった証拠もないのに言うわけにはいかない。
翌日、透さんは何事もなかったように接してくれた。
職場でも室長はいつも通りで僕に怒ったことなんてなかったような態度だった。
僕だけが、気持ちがモヤモヤしてしながら時間だけが過ぎていった。
明日の会議の準備をするため、会議室で他の秘書さんたちと机や椅子を並べていた時、川上さんが僕に近づいてきて「明日が楽しみね。もう無理して秘書なんてしなくていいのよ。やっぱりあなたに秘書なんて向いてないのよ。心配しなくても浅井副社長の秘書は私がなるから心配しないで」と言われてしまった。そうだよな。まだ僕は補佐の立場だから、誰の秘書にもなれていない。それが現実だ。でも僕は僕らしく仕事をするしかないんだから。
でも川上さんと僕のやり取りを角谷さんが準備をしながら見ていたことに僕は何も気づかなかった。
帰ってからも透さんとギクシャクしてしまった。明日の会議には透さんも出席の予定だ。きっと僕に秘書課からは角谷さんと室長が何故か出席をする。いつもは出席なんてしないのに…きっと僕の失態を言うんだろう。
でも、どんな事になっても透さんに愛されてれば大丈夫。そう思い透さんに擦り寄って眠りについた。
「海斗、何も心配しなくてもいいよ。海斗のことはみんなで守るって約束したんだから」
スヤスヤと寝息を立てて眠る海斗にキスをして海斗を抱きしめて眠った。
きっと明日は大丈夫。みんなを信じてほしい。
あれから室長から頼まれごとをされるたびに、川上さんが手伝ってくれることが多くなった。角谷さんが言ってくれたんだと思っていたそんなある日、室長から呼び出された。
「小沢くん、この資料は君が集めてくれたんだろ?」
「はいっ…何かありましたでしょうか?」
「資料が違うんだけど、これじゃないんだよ、頼んだ資料は…明後日の重役会議にメインで使う資料なんだよ。君に任せた俺が悪かったようだね」
「えっそんなわけ」
川上さんと目が合うと彼女の口角が少し上がったような気がした。何かされたのかもしれない。ふとそんなことを思ったが、人のせいにしちゃいけないと思い直した。
「申し訳ありませんでした。今すぐ用意を…」
「もういいよ。川上さんがちゃんと用意してくれたから、全く資料の1つ満足に用意できないんじゃ来週の秘書検定試験も合格なんかできないんじゃないか?せっかく浅井部長の推薦だかなんだか知らないけど、まだ勤務年数も浅い君には秘書なんて部署は荷が重かったのかもしれないね。今後のことは、考え直した方がいいよ。私から角谷さんや、社長に伝えておいてあげるから。もういいよ。業務に戻りなさい」
「失礼いたしました」
やられた。でも証拠がない。きっとこのことは角谷さんや社長、透さんにも伝わるだろう。やっぱり透さんの秘書には向かないと言われるかもしれない。
就業時間を過ぎても会社にいた。周りが帰っていくなか、なかなか帰る気にはならなかった。今更、挽回することはできない。
まさか川上さんに裏切られるなんて思っても見なかった。いつも優しく教えてくれて、いつも声をかけてくれて…でも本当は僕が秘書課に来たのは嫌だったのかもしれない。だって僕は透さんの元部下だから…
僕はオフィスの窓から暗くなった外の景色を眺めていた。どのくらい経ったのだろう…コツコツと足音が聞こえてきた。警備の人かもしれない。もう帰らないといけないのか…荷物を鞄に詰めてるとスマホが光っていた。透さんからの着信が5件とお義母さんからのメッセージがあった。
「海斗くん元気?そろそろ秘書検定試験だね。頑張って応援してるから。前日は美味しいトンカツご馳走するからランチに行こうね」と書いてあった。そんな申し訳ない。お義母さんも応援してくれてるのに期待を裏切るかもしれない。
気がつけば足音が聞こえなくなっていて、ドアの開く音が聞こえた。振り向くと「海斗、お疲れさま」と透さんが入ってきた。
「もう帰れそうか?」
「はい」
「じゃあ帰ろう」
透さんの車に乗って会社を出た。何か声を出せば悪口を言いそうで、黙って外の景色を見ていた。「疲れたか?」と聞かれて「大丈夫です」と答えて目を瞑った。何も聞かないでほしい。何も言いたくなかった。夜遅いからコンビニ寄って帰るか?と言われ何時だろうと時計をみると21時を回っていた。
透さんは僕の態度がいつもと違うのに何も言わないし、聞かないでいてくれた。いつもはお風呂に入ってもちょっかい出してくるのに今日は何もしなかった。そのまま特に何かを話すことなく透さんの隣で目を瞑った。
でもなんだか胃が痛くなってきて僕はそっとベッドから降りた。
キッチンで胃薬を飲んでソファーに座った。どうして川上さんに意地悪されてしまったんだろうか?室長にも嫌われてしまったら僕は…秘書課にいられない。これからも意地悪をされるかもしれない。
「眠れないのか?」
「あっもう寝ます。少し喉が渇いただけなので」
そう言って立ち上がった僕を優しく抱きしめてくれた。
「海斗が言いたくないなら、何も聞かない。でも俺は海斗の夫だよ。頼りないかもしれないけど、それでも頼ってほしい」
「透さん…ごめんなさい」
「大丈夫。もう寝よう」
透さんの優しさに泣きそうになったけど…でも川上さんがやった証拠もないのに言うわけにはいかない。
翌日、透さんは何事もなかったように接してくれた。
職場でも室長はいつも通りで僕に怒ったことなんてなかったような態度だった。
僕だけが、気持ちがモヤモヤしてしながら時間だけが過ぎていった。
明日の会議の準備をするため、会議室で他の秘書さんたちと机や椅子を並べていた時、川上さんが僕に近づいてきて「明日が楽しみね。もう無理して秘書なんてしなくていいのよ。やっぱりあなたに秘書なんて向いてないのよ。心配しなくても浅井副社長の秘書は私がなるから心配しないで」と言われてしまった。そうだよな。まだ僕は補佐の立場だから、誰の秘書にもなれていない。それが現実だ。でも僕は僕らしく仕事をするしかないんだから。
でも川上さんと僕のやり取りを角谷さんが準備をしながら見ていたことに僕は何も気づかなかった。
帰ってからも透さんとギクシャクしてしまった。明日の会議には透さんも出席の予定だ。きっと僕に秘書課からは角谷さんと室長が何故か出席をする。いつもは出席なんてしないのに…きっと僕の失態を言うんだろう。
でも、どんな事になっても透さんに愛されてれば大丈夫。そう思い透さんに擦り寄って眠りについた。
「海斗、何も心配しなくてもいいよ。海斗のことはみんなで守るって約束したんだから」
スヤスヤと寝息を立てて眠る海斗にキスをして海斗を抱きしめて眠った。
きっと明日は大丈夫。みんなを信じてほしい。
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