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どうやら歓迎されていないようです
見知らぬ敵に説得される
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わたしはいま、そんなに思っていることが顔にでているのだろうか?
『表情から読んでいるんじゃないよ』
勢いよく後ろを振り向いた。
笑いをこらえているような声で、背後からささやかれている感じがしたけれど、そこには誰の姿もない。
気が動転して、なにも考えられなくなったわたしは、無意識に本の詰まった棚のひとつに背をくっつける。
見えない視線に背中をさらしたくなかった。
どうする?
どうすればいい?
とにかく、この図書室から逃げだすために入り口へ向かうべきだ。
そう考えたとたんに。
『逃げだすつもりなんだ? 入り口まで無事にたどり着けるかなぁ』
ヘリウムガスで高く変声させ、こちらの考えていることを次々と先回りするように言葉を出してくる。
本棚に背をあずけたまま、わたしは途方に暮れた。
動けない。
学校側から言い渡されている試験であれば、凪先輩が必ず姿を見せると言っていた。
けれども、試験じゃなければ伝わっておらず、わたしがここにいることを凪先輩は知らない。
凪先輩の言う通りに、生徒会室へまっすぐ向かえば良かった!
『後悔したって遅いよ』
わたしへ向かって、声が容赦なく投げかけられる。
『こんな試験を受けようとするから、こんな目に遭うんだ』
やっぱり試験のことも知られているんだ。
この感じでは、わたし個人に対しての嫌がらせなのだろうか。
わたしが試験を受けられないようにするための妨害だろうか。
『メンバーに選ばれてどうする気なの? 他人のために自分を犠牲にすることはない。自分がしなくても、やりたい人間にやってもらえればいいじゃないか。きみは女の子なんだよ』
言葉はしだいに穏やかになり、諭すように緩やかな速さで語りかけてくる。
ガスで変えられた声は、聞きようによっては、まるで子どもの声のようだ。
なにか考えを持つと突っこまれるために目を閉じて、頭を真っ白にしようとするわたしの中へ、言葉はそろりと忍びこむ。
気づかないあいだに思考へ侵食してくる。
『わざわざ面倒なことを引き受けなくてもいいじゃないか。他人の心配なんかせずに、きみ自身の楽しい高校生活を大切にしたほうがいい。人生一度きりの高校生活だよ?』
そうだよね。
最初からわたしは、試験を受けること自体を嫌がっていた。
わたしがやらなくても、もっと才能のある他人が、わたし以上に役立つ仕事をするはずだ。
なにもわたしが嫌々試験を受ける必要なんて、ないじゃない。
試験に受かっちゃったら、そのあとはまともな高校生活を送れないのは間違いない。
うっかり言葉に乗せられて、わたしは、そう考えた……。
『表情から読んでいるんじゃないよ』
勢いよく後ろを振り向いた。
笑いをこらえているような声で、背後からささやかれている感じがしたけれど、そこには誰の姿もない。
気が動転して、なにも考えられなくなったわたしは、無意識に本の詰まった棚のひとつに背をくっつける。
見えない視線に背中をさらしたくなかった。
どうする?
どうすればいい?
とにかく、この図書室から逃げだすために入り口へ向かうべきだ。
そう考えたとたんに。
『逃げだすつもりなんだ? 入り口まで無事にたどり着けるかなぁ』
ヘリウムガスで高く変声させ、こちらの考えていることを次々と先回りするように言葉を出してくる。
本棚に背をあずけたまま、わたしは途方に暮れた。
動けない。
学校側から言い渡されている試験であれば、凪先輩が必ず姿を見せると言っていた。
けれども、試験じゃなければ伝わっておらず、わたしがここにいることを凪先輩は知らない。
凪先輩の言う通りに、生徒会室へまっすぐ向かえば良かった!
『後悔したって遅いよ』
わたしへ向かって、声が容赦なく投げかけられる。
『こんな試験を受けようとするから、こんな目に遭うんだ』
やっぱり試験のことも知られているんだ。
この感じでは、わたし個人に対しての嫌がらせなのだろうか。
わたしが試験を受けられないようにするための妨害だろうか。
『メンバーに選ばれてどうする気なの? 他人のために自分を犠牲にすることはない。自分がしなくても、やりたい人間にやってもらえればいいじゃないか。きみは女の子なんだよ』
言葉はしだいに穏やかになり、諭すように緩やかな速さで語りかけてくる。
ガスで変えられた声は、聞きようによっては、まるで子どもの声のようだ。
なにか考えを持つと突っこまれるために目を閉じて、頭を真っ白にしようとするわたしの中へ、言葉はそろりと忍びこむ。
気づかないあいだに思考へ侵食してくる。
『わざわざ面倒なことを引き受けなくてもいいじゃないか。他人の心配なんかせずに、きみ自身の楽しい高校生活を大切にしたほうがいい。人生一度きりの高校生活だよ?』
そうだよね。
最初からわたしは、試験を受けること自体を嫌がっていた。
わたしがやらなくても、もっと才能のある他人が、わたし以上に役立つ仕事をするはずだ。
なにもわたしが嫌々試験を受ける必要なんて、ないじゃない。
試験に受かっちゃったら、そのあとはまともな高校生活を送れないのは間違いない。
うっかり言葉に乗せられて、わたしは、そう考えた……。
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