ヲワイ

くにざゎゆぅ

文字の大きさ
上 下
23 / 34

裏切りと逃走

しおりを挟む
 力也と曽我は、校舎の外へ出て、中庭を歩いていた。
 そのあとを、忠太と英二、そして栞も、仕方がなさそうについて回る。

 放送室には、もう犯人は戻ってこないだろうと、全員が勘で一致する。そこで今度は、全員そろって、しらみつぶしに捜していこうと力也が提案した。力也の提案は、そのまま命令でもある。
 預かった鍵の束を手に、曽我は、乱暴に植木の葉を蹴りながら奥をのぞきこんでいる力也へ告げた。

「あんまり植木を蹴るなよ。枝が折れたら、それこそ修復できないんだから」
「うるせえな。わざと蹴ってんだよ。隠れているかもしれねぇだろ?」
「いや、しかし」
「徹底的に探すんだよ! 思いだしたんだ。一年前の遊びでも、七奈美はきっとどこかに、うまく隠れていたんだ。だから捕まらなかったんだよ。あのころは考えたら、校内ばかり探していて、外は全然見回っていなかったんだ。今日は、なにがなんでも見つけだす」
「しかし、佐々木、聞いてくれ。お願いだ。明日は卒業式なんだ。これ以上、もめごとや事件を起こしたくないんだよ」
「今回は、あっちが仕掛けてきたんだ。売られた喧嘩は買う主義だ」

 調子に乗ったように力也は言う。
 喧嘩を買うことを格好いいと思いこんでいる力也に、曽我は小さなため息をついた。
 無理だと思いながらも、曽我はもう一度、力也を説得しようと考える。

「なあ、佐々木。これ以上、犯人を追いかけていると、一年前の事件が掘り起こされて、警察が絡んでくるんじゃないか? いっそのこと、このまま全員帰って、うやむやにしてしまったほうがいいんじゃないか?」
「うるせぇ。先生は黙ってみてろよ。これだけコケにされて、帰れるわけないだろ」

 そして、力也は曽我を、じろりと睨みつけた。

「女だろうが、絶対ボコる。ただじゃ済まさねぇ」

 そういうと、幹が太く大きな木を、靴裏で思い切り蹴った。ガサガサと葉を揺らし、何枚か、ひらひらと葉が舞って落ちた。小さく舌打ちをしたあと、力也は横柄な態度で、曽我に命令した。

「ほら、先生。次行くぞ、次」
「わ、わかった」

 仕方がなさそうに、曽我も歩きだそうとしてから、ふとなにかを思いだしたかのように、力也のほうへ振り返った。

「ああ、そうだ。ぼくは、神園先生と衣川の様子を見てこよう。ほら、向こうは女性ばかりだし。ここからは、きみたちだけで回ってくれないか」

 一気に口にすると、そばにいた栞へ、自分が持っていた鍵の束を押しつけた。

「え? ちょ、待って、先生?」
「待てよ! 先生!」

 鍵の束を渡されて、栞は戸惑った。忠太と英二も呆気にとられた顔をする。
 そのそばで、脱兎のごとく身をひるがえし、きた道を戻るように駆けだした曽我へ向かって、力也が怒鳴った。

「逃げる気か? 先生よぉ。俺の言うことが聞けねぇのか?」

 だが、すぐに曽我が、暗闇へ姿を消すと、力也が馬鹿にしたような笑い声をあげた。

「曽我の奴、ついにビビッて逃げやがった」
「先生に向かって、その口の利き方はよくないと思う」

 栞が恐る恐る、力也に小さな声で苦言を呈した。
 逆らう彼女に怒りをぶつけるかと思われたが、予想を裏切って、力也は静かに体ごと栞へと向く。そして、力也が可笑しくて我慢ができないといった表情をしてみせた。

「いいんだよ。俺は、曽我の弱みを握ってんだから。バラされたくなきゃ、俺に指図はするな、言うことを聞けって脅してたんだよ」

 その言葉に、栞は驚いた表情を浮かべた。
 それが面白かったのだろうか。力也は調子に乗って続けた。

「ああ、でも、いま曽我は俺の命令を無視して逃げだしたな。もう曽我の秘密をバラしてもいいってことだ」

 そして、少し栞のほうへ、傾けるように体を寄せる。反射的に首を竦める栞の耳もとで、力也はささやいた。

「一年前の噂、女子生徒と付き合ってる教師のあれな? 付き合ってる教師のほうは、曽我なんだよ」

 そう告げられ、思わず栞は声にでた。

「嘘」
「本当だって。俺はたまたま、曽我が高校無関係の酒の席で、大声で吹聴しているところに居合わせたんだ。そしてすぐに、その場で曽我を問い詰めた。あっさり認めたぞ。それから、曽我は俺の言いなりだったんだがな」
「――噂、本当だったんだ……」

 栞はショックで、呆然とする。
 そんな彼女を、力也は面白そうに眺めた。

「曽我の奴、付き合ってる女のほうが、七奈美だったのかどうかは口を割らなかったけどな。七奈美ももう、いなくなった後だったし。でも、あの様子じゃあ、七奈美だけじゃなくて、数人の女子生徒に手をだしてるかもな」

 そこまで言って、力也は唇を笑いの形に歪ませると、思考停止をしている栞の手から、鍵の束を奪った。そして、中庭の先へ向かって歩きだす。

「逃げた曽我の処分は、後回しだ。放送室の録音を手に入れてから、おおっぴらにバラしてやるよ。ほら、さっさと次を見にいくぞ」

 力也は、忠太と英二を引き連れて、どんどんと先へ進む。
 栞は逡巡したが、ひとりきりになるのは危険だと判断して、彼らのあとを追った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

亡くなった妻からのラブレター

毛蟹葵葉
ミステリー
亡くなった妻からの手紙が届いた 私は、最後に遺された彼女からのメッセージを読むことにした

先生、それ、事件じゃありません

菱沼あゆ
ミステリー
女子高生の夏巳(なつみ)が道で出会ったイケメン探偵、蒲生桂(がもう かつら)。 探偵として実績を上げないとクビになるという桂は、なんでもかんでも事件にしようとするが……。 長閑な萩の町で、桂と夏巳が日常の謎(?)を解決する。 ご当地ミステリー。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...