72 / 159
【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第72話 ジプシー
しおりを挟む
いない。
ほーりゅうと夢乃のふたりがいるのは、校舎のこちらではなく、京一郎の向かった生徒棟のほうだったのか。
俺は、電気の消えた職員室棟のそれぞれの階の廊下を確認しながら、一気に階段を四階まで駆けあがる。
そして、四階から各教室のなかを窓からチェックしつつ廊下を突っ切り、三階、二階とおりてきた。
一階の職員室前では走るのをやめ、念のために静かに廊下側の窓から様子をうかがった。
この高校は、かなり下校時間にはうるさい。
そのせいか、下校時間をとっくに過ぎたいま、職員室にも教師の姿はなかった。
となると、この時間で校内にいるのは、夜間の見回りのために別の部屋で待機しているであろう用務員くらいか。
俺は、生徒棟へ移動しようと、一階の渡り廊下のほうへ向かうことにした。
そして、渡り廊下を通ろうとして。
――音に気がつく。
これは、ピアノだ。
聴いたことがない、俺の知らない曲だった。
音楽室は生徒棟の四階の一番向こう端で、ここからはもっとも遠い場所だ。
俺は渡り廊下の手すりから身体を乗りだして、音楽室を仰ぎ見る。
暗い夜空を背景に、白い校舎の角に位置する音楽室が浮かびあがり、その窓が黒く開いているのが見えた。
それで、外へピアノの音が漏れ聴こえているのか。
この時間にピアノ練習とは、普通にありえない。
今回の呼び出しに、無関係ではないだろう。
そう考えた俺は、音楽室に向かう気で、生徒棟への入り口に顔を向けた。
そして、前方に複数の影を見つける。
空手部の一年が2人。
2人とも隣のクラスの男で顔は知っているが、俺はどちらとも話をしたことは一度もない。
そして別の1人は、サッカー部のキーパーをしている二年だ。
こちらも顔を知っているだけだが、過去にチェックしたことがある資料では、たしか彼は類をみないほどの部活熱心な男のはずだ。
さらに野球部の一年が2人。
こちら2人は、それぞれ違うクラスのはずだ。
まだ野球部内でも補欠で、まったくやる気のみられない連中だったはず。
こちらの2人とも、俺は直接話をしたことがない。
そんな、つながりのなさそうな5人が渡り廊下の先で、生徒棟の入り口に背を向け、ふさぐように立っていた。
まず、気配がなかった。
俺としたことが、すぐに気がつかなかったとは迂闊だったが、やはり連中の様子が尋常ではないためだろうか。
この存在感のない連中の様子からみて、例の彼女――高橋麗香の仕業である傀儡術とみて間違いないだろう。
この複数を同時に操るとなると。
いま聴こえてくるピアノ音が、術を発動しているってことになるだろう。
ため息をついた俺の現状の問題は、操られているこいつらを、果たして叩きのめして良いのだろうかということだ。
同じ学校内で顔を知っている連中なだけに、そう躊躇することを見越してこの連中を使ったとしたら……。
あの女、けっこういい性格をしていやがる。
俺は、できるだけ怪我を負わさず、戦闘不能にさせる程度にとどめるつもりで構えた。
親しい間柄でもないだろうに、連中は申し合わせたように、無言でタイミングよく殴りかかってくる。
空手部の2人の構えと攻撃は、たしかに隙がない。
主将をしている生徒会長の教えが良いのだろう。
その2人の動きをメインに、俺はとりあえずすべての攻撃をかわしながら、様子をうかがう。
そして、野球部の1人の大きな隙をかいくぐって、まずはそいつの鳩尾に手加減しつつ足刀を蹴りこんだ。
彼は、廊下を軽く吹っ飛んだあと、起きあがる気配がなかった。
――操られているってことは、そのうち、ゾンビのように起きあがってくるかもしれない。
油断はできないってことだが。
まず、一人。
そのとき、目の前に残りの4人がいるはずなのに、背後に殺気を感じた。
頭で判断する前に、反応した身体がとっさに前受身をして、俺の立ち位置を変える。
そして相対した先で、どうみても怒り心頭の生徒会長が、空振りで蹴り終わった片足を宙に浮かせたまま、俺を睨みつけていた。
ほーりゅうと夢乃のふたりがいるのは、校舎のこちらではなく、京一郎の向かった生徒棟のほうだったのか。
俺は、電気の消えた職員室棟のそれぞれの階の廊下を確認しながら、一気に階段を四階まで駆けあがる。
そして、四階から各教室のなかを窓からチェックしつつ廊下を突っ切り、三階、二階とおりてきた。
一階の職員室前では走るのをやめ、念のために静かに廊下側の窓から様子をうかがった。
この高校は、かなり下校時間にはうるさい。
そのせいか、下校時間をとっくに過ぎたいま、職員室にも教師の姿はなかった。
となると、この時間で校内にいるのは、夜間の見回りのために別の部屋で待機しているであろう用務員くらいか。
俺は、生徒棟へ移動しようと、一階の渡り廊下のほうへ向かうことにした。
そして、渡り廊下を通ろうとして。
――音に気がつく。
これは、ピアノだ。
聴いたことがない、俺の知らない曲だった。
音楽室は生徒棟の四階の一番向こう端で、ここからはもっとも遠い場所だ。
俺は渡り廊下の手すりから身体を乗りだして、音楽室を仰ぎ見る。
暗い夜空を背景に、白い校舎の角に位置する音楽室が浮かびあがり、その窓が黒く開いているのが見えた。
それで、外へピアノの音が漏れ聴こえているのか。
この時間にピアノ練習とは、普通にありえない。
今回の呼び出しに、無関係ではないだろう。
そう考えた俺は、音楽室に向かう気で、生徒棟への入り口に顔を向けた。
そして、前方に複数の影を見つける。
空手部の一年が2人。
2人とも隣のクラスの男で顔は知っているが、俺はどちらとも話をしたことは一度もない。
そして別の1人は、サッカー部のキーパーをしている二年だ。
こちらも顔を知っているだけだが、過去にチェックしたことがある資料では、たしか彼は類をみないほどの部活熱心な男のはずだ。
さらに野球部の一年が2人。
こちら2人は、それぞれ違うクラスのはずだ。
まだ野球部内でも補欠で、まったくやる気のみられない連中だったはず。
こちらの2人とも、俺は直接話をしたことがない。
そんな、つながりのなさそうな5人が渡り廊下の先で、生徒棟の入り口に背を向け、ふさぐように立っていた。
まず、気配がなかった。
俺としたことが、すぐに気がつかなかったとは迂闊だったが、やはり連中の様子が尋常ではないためだろうか。
この存在感のない連中の様子からみて、例の彼女――高橋麗香の仕業である傀儡術とみて間違いないだろう。
この複数を同時に操るとなると。
いま聴こえてくるピアノ音が、術を発動しているってことになるだろう。
ため息をついた俺の現状の問題は、操られているこいつらを、果たして叩きのめして良いのだろうかということだ。
同じ学校内で顔を知っている連中なだけに、そう躊躇することを見越してこの連中を使ったとしたら……。
あの女、けっこういい性格をしていやがる。
俺は、できるだけ怪我を負わさず、戦闘不能にさせる程度にとどめるつもりで構えた。
親しい間柄でもないだろうに、連中は申し合わせたように、無言でタイミングよく殴りかかってくる。
空手部の2人の構えと攻撃は、たしかに隙がない。
主将をしている生徒会長の教えが良いのだろう。
その2人の動きをメインに、俺はとりあえずすべての攻撃をかわしながら、様子をうかがう。
そして、野球部の1人の大きな隙をかいくぐって、まずはそいつの鳩尾に手加減しつつ足刀を蹴りこんだ。
彼は、廊下を軽く吹っ飛んだあと、起きあがる気配がなかった。
――操られているってことは、そのうち、ゾンビのように起きあがってくるかもしれない。
油断はできないってことだが。
まず、一人。
そのとき、目の前に残りの4人がいるはずなのに、背後に殺気を感じた。
頭で判断する前に、反応した身体がとっさに前受身をして、俺の立ち位置を変える。
そして相対した先で、どうみても怒り心頭の生徒会長が、空振りで蹴り終わった片足を宙に浮かせたまま、俺を睨みつけていた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる