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【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第67話 ほーりゅう
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夢乃の家まで帰ってきたら、もう外は薄暗くなってきていた。
今日も夢乃の家で、夕食をご馳走してもらっちゃう。
外科医のわたしの叔母、仕事が忙しいからなぁ。
一緒に食べる機会があまりない。
外から帰ってきて夢乃の部屋へ入る前に、わたしはふと、奥のジプシーの部屋の扉に目を向けた。
学校の授業が終わって教室で別れたあと、ジプシーはまだ帰ってきていないみたい。
もうすぐ夜になるのに、どこをうろついているのかな。
学校の帰りに、明子ちゃんたちと甘味処に寄ってきたから、わたしも夢乃も、あまり空腹感がない。
わたしは、夢乃のベッドの上に仰向けで寝転がると、ずっと気になっていたことを夢乃に訊いた。
「ねえ。夢乃って、今日の京一郎の話の意味、わかった?」
残念ながら、わたしはやっぱり理解力がないのだろうか。
はっきりと意味が、わかんなかった。
「そうね。わたしの考えだけれど」
夢乃は制服の上着を脱いで、ハンガーにかけながら口を開く。
「要は、恋は盲目ってことじゃない? 好きになったら、その相手しか目に入らない。起こす行動もその相手中心になるでしょう。でも、16歳の女の子の考え方だから、その相手のためを思ってじゃなくて、逆に相手の迷惑を考えずに自分の欲望を満たすための行動をとるかも。そこが今回問題だって、京一郎は言っているんじゃないかな」
「ふぅん。京一郎って、そんなに女の子の恋心に詳しい奴だとは思わなかったな。――自分の欲望のためにかぁ」
ジプシーへ告白するために、知らない学校の教室まで乗りこんできた彼女。
恋は盲目、相手のいやな面が見えないばかりか、周りも見えていないってことか。
恋する乙女は怖いなぁ。
――「恋する」乙女、その辺りが京一郎の言っていた、気をつけないといけない感覚的な彼女の「女」の部分かな。
あっさりジプシーは付き合いを断ったけれど、たぶん彼女は、このままあきらめないだろうなって気がする。
なんて言っても、相手も周りが見えていないんだから。
「今回の件に関しては、ジプシーと京一郎って、かなり考え方が違うんだね。いつもツーカーなのに」
「京一郎はともかく、ジプシーはわたしの知っている限り、いまのところ恋愛に興味がないみたいだから。文化祭のあとにもらった大量のラブレターも、未だに全部未開封で部屋に積んであったわよ」
なんてことだ。
ジプシーったら、もらったラブレターを全然読んでいないなんて。
相変わらず、女の子の気持ちを無下にする奴だなぁ。
なんて考えながら、わたしは廊下にふらりとでて、お手洗いへと向かう。
廊下を歩いていると、偶然目の前にあった電話台の上で電話が鳴った。
夢乃の家のものだけれど、切れちゃったら困ると思ったわたしは、受話器をあげる。
「もしもし、佐伯です」
うん。
ちゃんと夢乃の苗字を間違えなかったぞ。
でも、相手はなにも言わない。
携帯で電波でも悪くて、声が聞こえないのだろうか。
「もしもし?」
もう一度大きく声をだすと、やっと相手の声が聞こえてきた。
『俺』
この家で、俺という奴はジプシーしかいない。
「ジプシーってば、どこでなにやってんのよ? もう遅いよ。夢乃もお母さんも心配するよ?」
けれど、なにかを口にしたジプシーの声が小さくて、なかなか聞き取れない。
「なぁに? もう一度言ってよ」
なんか様子がおかしい。
ジプシーは、もともと感情表現の薄い奴だけれど、いつもよりも感じが違う。
そして、ようやく電話の向こうから聞きとれた言葉は……。
『悪い、学校に戻ってきてくれ。夢乃も、おまえも』
そこで、電話は一方的に切れた。
わたしは受話器を握ったまま、途方にくれる。
「ほーりゅう、電話は誰から?」
夢乃が部屋からでてきて声をかけてきた。
わたしは受話器を戻しながら、そのまま伝える。
「なんか、いつものジプシーじゃないなぁ」
ちょっと考えた夢乃も、わたしと同じ印象を受けたらしい。
「なにか理由があるからでしょうね。いまから学校へ戻ろうか。外はもう暗いけれども、ふたりそろってなら大丈夫だろうし」
わたしは、うなずいた。
続けて口を開く。
「あ、でも夢乃のお母さんになんて言おうか? 黙ってでちゃう? それとも忘れ物を取りに行くとか? ジプシーのことにしても、あんまり心配かけたくないよねぇ」
夢乃は、母親のいるキッチンのほうへ向かいながら笑った。
「どんなことでも、嘘は言わずに全部話すって約束なの。そういう条件で、わたしはジプシーの手伝いを両親から許してもらっているから。はっきりジプシーに呼ばれて学校に行くって伝えてくるわ」
そして、夢乃の姿が見えなくなったとき、わたしはひとり、自分の都合でごまかそうとしたことを反省した。
そっか。
そうだよね。
考えたら夢乃は一人娘なんだもん。
親は心配するよね。
海外にいるわたしの両親は、普段は電話もなにも、わたしのほうからほとんどしていないけれども。
心配しているかなぁ?
叔母さんからの連絡は、時々入っていると思うけれど。
そして。
今回のことで、つくづく思ったよ。
お出かけするときは、ちゃんと家の人に目的や行き先を告げてから出かけるべきだなって。
今日も夢乃の家で、夕食をご馳走してもらっちゃう。
外科医のわたしの叔母、仕事が忙しいからなぁ。
一緒に食べる機会があまりない。
外から帰ってきて夢乃の部屋へ入る前に、わたしはふと、奥のジプシーの部屋の扉に目を向けた。
学校の授業が終わって教室で別れたあと、ジプシーはまだ帰ってきていないみたい。
もうすぐ夜になるのに、どこをうろついているのかな。
学校の帰りに、明子ちゃんたちと甘味処に寄ってきたから、わたしも夢乃も、あまり空腹感がない。
わたしは、夢乃のベッドの上に仰向けで寝転がると、ずっと気になっていたことを夢乃に訊いた。
「ねえ。夢乃って、今日の京一郎の話の意味、わかった?」
残念ながら、わたしはやっぱり理解力がないのだろうか。
はっきりと意味が、わかんなかった。
「そうね。わたしの考えだけれど」
夢乃は制服の上着を脱いで、ハンガーにかけながら口を開く。
「要は、恋は盲目ってことじゃない? 好きになったら、その相手しか目に入らない。起こす行動もその相手中心になるでしょう。でも、16歳の女の子の考え方だから、その相手のためを思ってじゃなくて、逆に相手の迷惑を考えずに自分の欲望を満たすための行動をとるかも。そこが今回問題だって、京一郎は言っているんじゃないかな」
「ふぅん。京一郎って、そんなに女の子の恋心に詳しい奴だとは思わなかったな。――自分の欲望のためにかぁ」
ジプシーへ告白するために、知らない学校の教室まで乗りこんできた彼女。
恋は盲目、相手のいやな面が見えないばかりか、周りも見えていないってことか。
恋する乙女は怖いなぁ。
――「恋する」乙女、その辺りが京一郎の言っていた、気をつけないといけない感覚的な彼女の「女」の部分かな。
あっさりジプシーは付き合いを断ったけれど、たぶん彼女は、このままあきらめないだろうなって気がする。
なんて言っても、相手も周りが見えていないんだから。
「今回の件に関しては、ジプシーと京一郎って、かなり考え方が違うんだね。いつもツーカーなのに」
「京一郎はともかく、ジプシーはわたしの知っている限り、いまのところ恋愛に興味がないみたいだから。文化祭のあとにもらった大量のラブレターも、未だに全部未開封で部屋に積んであったわよ」
なんてことだ。
ジプシーったら、もらったラブレターを全然読んでいないなんて。
相変わらず、女の子の気持ちを無下にする奴だなぁ。
なんて考えながら、わたしは廊下にふらりとでて、お手洗いへと向かう。
廊下を歩いていると、偶然目の前にあった電話台の上で電話が鳴った。
夢乃の家のものだけれど、切れちゃったら困ると思ったわたしは、受話器をあげる。
「もしもし、佐伯です」
うん。
ちゃんと夢乃の苗字を間違えなかったぞ。
でも、相手はなにも言わない。
携帯で電波でも悪くて、声が聞こえないのだろうか。
「もしもし?」
もう一度大きく声をだすと、やっと相手の声が聞こえてきた。
『俺』
この家で、俺という奴はジプシーしかいない。
「ジプシーってば、どこでなにやってんのよ? もう遅いよ。夢乃もお母さんも心配するよ?」
けれど、なにかを口にしたジプシーの声が小さくて、なかなか聞き取れない。
「なぁに? もう一度言ってよ」
なんか様子がおかしい。
ジプシーは、もともと感情表現の薄い奴だけれど、いつもよりも感じが違う。
そして、ようやく電話の向こうから聞きとれた言葉は……。
『悪い、学校に戻ってきてくれ。夢乃も、おまえも』
そこで、電話は一方的に切れた。
わたしは受話器を握ったまま、途方にくれる。
「ほーりゅう、電話は誰から?」
夢乃が部屋からでてきて声をかけてきた。
わたしは受話器を戻しながら、そのまま伝える。
「なんか、いつものジプシーじゃないなぁ」
ちょっと考えた夢乃も、わたしと同じ印象を受けたらしい。
「なにか理由があるからでしょうね。いまから学校へ戻ろうか。外はもう暗いけれども、ふたりそろってなら大丈夫だろうし」
わたしは、うなずいた。
続けて口を開く。
「あ、でも夢乃のお母さんになんて言おうか? 黙ってでちゃう? それとも忘れ物を取りに行くとか? ジプシーのことにしても、あんまり心配かけたくないよねぇ」
夢乃は、母親のいるキッチンのほうへ向かいながら笑った。
「どんなことでも、嘘は言わずに全部話すって約束なの。そういう条件で、わたしはジプシーの手伝いを両親から許してもらっているから。はっきりジプシーに呼ばれて学校に行くって伝えてくるわ」
そして、夢乃の姿が見えなくなったとき、わたしはひとり、自分の都合でごまかそうとしたことを反省した。
そっか。
そうだよね。
考えたら夢乃は一人娘なんだもん。
親は心配するよね。
海外にいるわたしの両親は、普段は電話もなにも、わたしのほうからほとんどしていないけれども。
心配しているかなぁ?
叔母さんからの連絡は、時々入っていると思うけれど。
そして。
今回のことで、つくづく思ったよ。
お出かけするときは、ちゃんと家の人に目的や行き先を告げてから出かけるべきだなって。
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