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【第二章】 文化祭編『最終舞台(ラストステージ)は華やかに』
第27話 ほーりゅう
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「うそだぁ!」
わたしは開いた口がふさがらないまま、廊下に貼りだされていた学年ごとの中間試験の成績総合順位、上位50名の発表を眺めていた。
しばらく見つめて動けないわたしの頭を、ジプシーが後ろから丸めたプリントの束で叩いて通り過ぎる。
「口、開け過ぎ」
わたしは、慌ててジプシーのあとを追いかけるようについていき、教室へと入る。
成績発表には興味のなさそうな夢乃と京一郎が、ふたりそろって窓際にいた。
姿を見つけた夢乃が、わたしを呼ぶように手を振ってくる。
わたしは、まっすぐ京一郎へ近づくと、抑えられない不満をぶつけるように、指を突きつけて叫んだ。
「夢乃が1番、ジプシーが2番ってのはわかる。なんで京一郎が学年で9番なのよ!」
「勉強しているからに決まってんだろ」
さらりと京一郎は答える。
それではわたしの納得がいかない。
ちょっと声を落として、京一郎を睨みつけた。
「あんた、よく学校をサボってる不良なんでしょ? なんで勉強できるのよ!」
「そりゃあ、要領よく教科書のポイントをおさえて勉強しているからだ。見ての通り、俺は家では自由にさせてもらっている。やりたいことを制限されたり剥奪されないようにするためには、親を納得させるだけの勉強もするんだよ。試験前日には、おまえにも勉強を教えてやったはずだろ」
夢乃が、京一郎の言葉のあとを続けた。
「ほーりゅう、あなた、京一郎を見た目だけで言っているでしょう? ――京一郎の髪の色は、天然の茶色なの。染めているわけじゃないのよ」
――それは知らなかった。
なんだ、とてもきれいな茶色だから、てっきり染めているのかと思っていたよ。
夢乃の言葉を受けたわたしは、まじまじと京一郎を見つめる。
京一郎の茶髪は自前で――そう言われてみれば、瞳の色も薄く、黒目部分が茶色っぽい。
全体に色素が薄い体質なのだろうか。
すると、そばの席についてわたしたちの話を聞いていたらしいジプシーが、手もとのプリントに目を通しながら会話に加わってきた。
「京一郎のお姉さんも、きれいな茶髪で色白の美人だ」
「お姉さんが、いるんだ!」
それは初耳。
茶髪で色白なんて、きっと京一郎と似ているんだろうな。
美人なのか。
それは一度会ってみたいなぁ。
「いま、会ってみたいとか思ってねぇ?」
考えたことを読んだようなタイミングで、京一郎がわたしに訊いてきた。
「うん! とっても見たい!」
「見たいって、おまえなぁ。――姉貴は親父の組を継ぐ気満々の、ばりばりの極道女だが、それでも本当に会いたいか?」
「遠慮させていただきます」
わたしは、すぐさま辞退した。
体育の時間は身長順に並ぶ関係で、わたしは明子ちゃんと組んで柔軟をした。
あの出来のよい三人に、うっかり勉強のグチをこぼすとスパルタ式教育法になりかねないので、成績が似たり寄ったりの明子ちゃん相手に嘆いてみる。
「けっこうレベルの高いこの進学校への転校だなんて、親のコネなのよ。前の学校では品行方正で先生の受けが良ければ、学力に関係なく、ある程度うまくやれたんだけどさぁ」
「でも、今回の試験で、追試はなかったんでしょ?」
「まぁね」
その点に関しては、前日にしごいてくれた京一郎に感謝しなきゃ。
でも、その話をしても、きっと明子ちゃんは信じてくれないだろう。
この高校では、堅気とはいえない家で暴走族のリーダーをしているという京一郎は、それだけで不良だと決めつけられている。
「なにはともあれ、無事に試験が終ったんだから、これからは文化祭の準備で忙しくなるわよ」
「文化祭?」
「そう、文化祭」
「――この時期に?」
いまは10月。
わたしは、転校前の学校では6月に文化祭をしていたので驚いた。
明子ちゃんが、笑いながら説明してくれる。
「ここって、このあたりでは進学校になるから、本当は秋に文化祭って変な感じがするんだけれどね。でも、実行委員は生徒会の役員がするけれど、この二学期から全員二年生に代がわりしているし。三年生にとっては勉強の合間の息抜きになるみたい」
そして、急に明子ちゃんは瞳を輝かせながら、声をひそめて続けた。
「ここの高校の文化祭、毎年最後に打ち上げをするのよ。講堂の舞台を使って在校生のグループライブがあってね。とくに今年は、ものすごく楽しみにしているの」
「なんで?」
芸能人やアイドルが大好きだという明子ちゃんのことだ。
きっと、かっこいい男の子でも出るのだろう。
なんてことを想像していたら案の定、明子ちゃんは、うっとりとした表情で言葉を続けた。
「本当はそのライブ、事前登録制で在校生だけが出られるんだけれど。去年、外部からの飛び入りがあったのよ。わたし、去年は中学生だったけれど、その後夜祭ライブまで残って見ていたら、その飛び入りのグループのボーカルが、すっごくかっこよかったの!」
――やっぱり。
「そのとき、そのボーカルの男子が舞台の最後に、来年もここで会おうって言ったのよ! だから、きっと今年はそのグループ、ここの在校生として出てくるんだと思うんだよなぁ」
「それって、じゃあ今年入学した一年ってことになるんだよね? 同じ学年で誰とかって、わからないの?」
「うん。わかんないのよね。だって、遠目だったしサングラスしていて……。――あ、でも、本当にかっこよさは伝わってきたのよ!」
明子ちゃんは、思いっきり力説していたけれど。
わたしは、ほかのことが気になった。
「でも、それって後夜祭でしょ? 昼間の文化祭ではなにをするの? うちのクラスって、やること決まっていたっけ?」
「まだよ。うちの学校の文化祭って、テーマを作ってその内容に統一するんだって。今年のテーマは、『おとぎの国』らしいよ」
「おとぎの国?」
また、メルヘンチックな。
「うん。それで、うちのクラス、委員長が舞台の権利を取ってきてくれたの! 頼りなさそうだけれど、さすが委員長。これでイケメン舞台ができるぅ! すっごい楽しみ!」
――たしかに。
以前明子ちゃんが言っていた通り、このクラスには、舞台映えのしそうな見目良い男子が多いように感じられる。
けれど。
明子ちゃん、すっごく嬉しそうだな。
なんか企んでいそうって感じるのは、わたしの思い過ごしなのだろうか……?
わたしは開いた口がふさがらないまま、廊下に貼りだされていた学年ごとの中間試験の成績総合順位、上位50名の発表を眺めていた。
しばらく見つめて動けないわたしの頭を、ジプシーが後ろから丸めたプリントの束で叩いて通り過ぎる。
「口、開け過ぎ」
わたしは、慌ててジプシーのあとを追いかけるようについていき、教室へと入る。
成績発表には興味のなさそうな夢乃と京一郎が、ふたりそろって窓際にいた。
姿を見つけた夢乃が、わたしを呼ぶように手を振ってくる。
わたしは、まっすぐ京一郎へ近づくと、抑えられない不満をぶつけるように、指を突きつけて叫んだ。
「夢乃が1番、ジプシーが2番ってのはわかる。なんで京一郎が学年で9番なのよ!」
「勉強しているからに決まってんだろ」
さらりと京一郎は答える。
それではわたしの納得がいかない。
ちょっと声を落として、京一郎を睨みつけた。
「あんた、よく学校をサボってる不良なんでしょ? なんで勉強できるのよ!」
「そりゃあ、要領よく教科書のポイントをおさえて勉強しているからだ。見ての通り、俺は家では自由にさせてもらっている。やりたいことを制限されたり剥奪されないようにするためには、親を納得させるだけの勉強もするんだよ。試験前日には、おまえにも勉強を教えてやったはずだろ」
夢乃が、京一郎の言葉のあとを続けた。
「ほーりゅう、あなた、京一郎を見た目だけで言っているでしょう? ――京一郎の髪の色は、天然の茶色なの。染めているわけじゃないのよ」
――それは知らなかった。
なんだ、とてもきれいな茶色だから、てっきり染めているのかと思っていたよ。
夢乃の言葉を受けたわたしは、まじまじと京一郎を見つめる。
京一郎の茶髪は自前で――そう言われてみれば、瞳の色も薄く、黒目部分が茶色っぽい。
全体に色素が薄い体質なのだろうか。
すると、そばの席についてわたしたちの話を聞いていたらしいジプシーが、手もとのプリントに目を通しながら会話に加わってきた。
「京一郎のお姉さんも、きれいな茶髪で色白の美人だ」
「お姉さんが、いるんだ!」
それは初耳。
茶髪で色白なんて、きっと京一郎と似ているんだろうな。
美人なのか。
それは一度会ってみたいなぁ。
「いま、会ってみたいとか思ってねぇ?」
考えたことを読んだようなタイミングで、京一郎がわたしに訊いてきた。
「うん! とっても見たい!」
「見たいって、おまえなぁ。――姉貴は親父の組を継ぐ気満々の、ばりばりの極道女だが、それでも本当に会いたいか?」
「遠慮させていただきます」
わたしは、すぐさま辞退した。
体育の時間は身長順に並ぶ関係で、わたしは明子ちゃんと組んで柔軟をした。
あの出来のよい三人に、うっかり勉強のグチをこぼすとスパルタ式教育法になりかねないので、成績が似たり寄ったりの明子ちゃん相手に嘆いてみる。
「けっこうレベルの高いこの進学校への転校だなんて、親のコネなのよ。前の学校では品行方正で先生の受けが良ければ、学力に関係なく、ある程度うまくやれたんだけどさぁ」
「でも、今回の試験で、追試はなかったんでしょ?」
「まぁね」
その点に関しては、前日にしごいてくれた京一郎に感謝しなきゃ。
でも、その話をしても、きっと明子ちゃんは信じてくれないだろう。
この高校では、堅気とはいえない家で暴走族のリーダーをしているという京一郎は、それだけで不良だと決めつけられている。
「なにはともあれ、無事に試験が終ったんだから、これからは文化祭の準備で忙しくなるわよ」
「文化祭?」
「そう、文化祭」
「――この時期に?」
いまは10月。
わたしは、転校前の学校では6月に文化祭をしていたので驚いた。
明子ちゃんが、笑いながら説明してくれる。
「ここって、このあたりでは進学校になるから、本当は秋に文化祭って変な感じがするんだけれどね。でも、実行委員は生徒会の役員がするけれど、この二学期から全員二年生に代がわりしているし。三年生にとっては勉強の合間の息抜きになるみたい」
そして、急に明子ちゃんは瞳を輝かせながら、声をひそめて続けた。
「ここの高校の文化祭、毎年最後に打ち上げをするのよ。講堂の舞台を使って在校生のグループライブがあってね。とくに今年は、ものすごく楽しみにしているの」
「なんで?」
芸能人やアイドルが大好きだという明子ちゃんのことだ。
きっと、かっこいい男の子でも出るのだろう。
なんてことを想像していたら案の定、明子ちゃんは、うっとりとした表情で言葉を続けた。
「本当はそのライブ、事前登録制で在校生だけが出られるんだけれど。去年、外部からの飛び入りがあったのよ。わたし、去年は中学生だったけれど、その後夜祭ライブまで残って見ていたら、その飛び入りのグループのボーカルが、すっごくかっこよかったの!」
――やっぱり。
「そのとき、そのボーカルの男子が舞台の最後に、来年もここで会おうって言ったのよ! だから、きっと今年はそのグループ、ここの在校生として出てくるんだと思うんだよなぁ」
「それって、じゃあ今年入学した一年ってことになるんだよね? 同じ学年で誰とかって、わからないの?」
「うん。わかんないのよね。だって、遠目だったしサングラスしていて……。――あ、でも、本当にかっこよさは伝わってきたのよ!」
明子ちゃんは、思いっきり力説していたけれど。
わたしは、ほかのことが気になった。
「でも、それって後夜祭でしょ? 昼間の文化祭ではなにをするの? うちのクラスって、やること決まっていたっけ?」
「まだよ。うちの学校の文化祭って、テーマを作ってその内容に統一するんだって。今年のテーマは、『おとぎの国』らしいよ」
「おとぎの国?」
また、メルヘンチックな。
「うん。それで、うちのクラス、委員長が舞台の権利を取ってきてくれたの! 頼りなさそうだけれど、さすが委員長。これでイケメン舞台ができるぅ! すっごい楽しみ!」
――たしかに。
以前明子ちゃんが言っていた通り、このクラスには、舞台映えのしそうな見目良い男子が多いように感じられる。
けれど。
明子ちゃん、すっごく嬉しそうだな。
なんか企んでいそうって感じるのは、わたしの思い過ごしなのだろうか……?
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