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【第一章】出会い編
第11話 ほーりゅう
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屋上からの階段を一気に駆けおりながら、わたしはどきどきする胸を押さえた。
たしかに、普通なら関わりたくない。
京一郎って男にも、いまの男にも。
なんていっても、あの委員長。
夜中に闇にまぎれて出歩いていること自体が胡散臭い。
けれど、あの態度は、絶対になにか他人には言えない秘密を持っている。
それは、わたしの知りたいことなのかもしれない。
近づくなと釘を刺されたら、逆に近づきたくなるっていうものよ。
勇気を奮い立たせるように笑顔を浮かべ、左手にお弁当の袋をぶらさげながら右手で握りこぶしをつくったわたしは、立ち止まって大きく上へと突きだした。
「暴いてやる」
とは決意したものの、さて、どこから手をつけようかと考えながら、結局教室まで戻ってきた。
すると、席をくっつけて、お弁当を食べはじめていたクラスメートふたりが、目ざとくわたしを見つけて手を振る。
「ほーりゅう、こっちこっち!」
「お手洗いの帰り道で迷っているのかと思っちゃったよ。一緒に食べない?」
短いソバージュを揺らしながら、人なつっこい笑みを満面に浮かべた明子ちゃんが手招いた。
向かい合って一緒にいるのはショートヘアーの紀子ちゃんだ。
彼女はお手製らしいサンドウィッチにかぶりついていた。
呼ばれるままに、わたしはふたりの席へと寄っていく。
明子ちゃんが、空いていた隣の椅子の向きを手早く変えてくれた。
お礼を口にして腰をおろす。
手にしていた袋を開けてお弁当箱を取りだしながら、わたしは、さっそく情報収集とばかりにふたりへ訊いてみた。
「えっと……。さっきそこで委員長をみかけたんだけれど。委員長は、モテるの?」
「え? 全然そんなことはないよ?」
「なんで? 廊下で女子と、仲良さそうにしゃべっていたとか?」
とたんに、ふたりの瞳が輝いた。
どうやらふたりとも、この手の話題が好きらしい。
そこで、変な墓穴を掘って自分が突っこまれないようにと気をつけながら、わたしは次の言葉を探す。
「えっと。まあ、見た目も頭もよさそうに見えるから……。そうなのかなぁって、思って」
そう口にしながら、わたしは、さきほど真正面から睨み合ってきた彼の顔を、本当に脳裏へと思い浮かべてみた。
昨夜の印象と同じく年下と思しき童顔で、印象に残らないくらいに地味だ。
けれど、一応整った顔といえるだろう。
顔だけで考えれば、クラスの女子に人気があってもおかしくない気がする。
ただ、あの地味で陰気な彼がわたしの好みかと問われれば、非常に難しいところと言える。
明子ちゃんが腕を組んで、真剣に考えるそぶりをしてみせた。
「そりゃあ、実際に頭もいいし、ルックスもまあ悪くないけれど。――ここだけの話、同じ中学からきた子の話では、委員長の家系って代々陰陽師だって噂なのよ。家業を継いで陰陽師っていう点で、なんだか胡散臭くない? それに性格がちょっと変わっているし、本人もクラスに馴染む気がなさそうだから、必要以上に話しかけないなぁ」
「そうそう、頭がよくても身体が弱くて、体育もほとんど見学だし。やっぱり、ある程度はスポーツマンじゃないとね」
「変な呪いを使われて仕返しされるのが怖いからって、イジメの対象になっていないけれど。そのかわりクラスの皆は、関わりを避けてスルーかな」
手厳しいことを次々と口にしたふたりは、ちょっと声を落として、さらに続けた。
「それに噂では、彼には家族がいないらしくて、いまは夢乃の家に同居しているの。夢乃のお父さんって警察の人なのよ。だから委員長の身元引受人になったんだって聞いたことがある。要は怪しい陰陽師の監視ってことかなぁ」
「その関係で、委員長と普通に話をしているのは夢乃だけだよね」
「夢乃の両親も一緒に住んでいるから同居であって、同棲にはならないんだよねぇ」
同棲ってなによぅと、女の子ふたりはクスクスと笑いあう。
そんな彼女たちの様子を横目で眺めながら、わたしは、彼のとっつきにくそうな雰囲気を思いだした。
彼には複雑な生い立ちがあり、それがあの陰気な雰囲気を作りだしたのだろうか。
ジプシーというあだ名も、先に他のクラスメートから小耳にはさんでいた。
さっきも屋上で、夢乃がそう呼んでいたのを聞いている。
同居している間柄の夢乃が呼ぶのであれば、彼も了承しているあだ名なのだろう。
ならば、わたしもそう呼んで問題はないはずだ。
そんなことをつらつらと考えていたわたしは、ふと、さきほど屋上で三人が集まっていたのを思いだして口を開いた。
「夢乃だけじゃないと思う。城之内京一郎って人も、ジプシーと一緒にいたよ。夢乃から聞いた話では、怖い人なんでしょ?」
わたしの言葉に、明子ちゃんは思いだしたように相槌を打った。
「ああ、そうそう。委員長と言葉を交わすって意味では、城之内もいたなぁ。うん。わたしらは怖いから近づかないよ。けれど、あのふたりは意外と気が合うのかもね」
「最初は素行のよくない城之内を、委員長が注意するって関係に見えたんだけれど。なんていってもクラス内で浮いている者同士だからねぇ。はぐれ者同士でなんとなく一緒にいることが多くなっているんじゃないかな」
「でも、ほーりゅう、ウチのクラスって男子はかなり、見た目にかっこいい系が多いと思わない?」
「そうそう! 今度の文化祭は、男子を使って絶対舞台をしたいよね!」
そのままふたりの話は、文化祭へと移っていった。
わたしも話に合わせて適当にうなずきながら、クラスの情報って、まあこんなものだろうと考える。
どれも噂ばかりで、本当のことかどうかもわからない。
なぜなら、ジプシーと京一郎はなんとなく一緒にいるだけの、はぐれ者同士じゃないから。
屋上での様子では、共通の目的があって行動している印象があった。
そして、わたしは決心する。
やっぱりこれ以上のことを探るには、ジプシーの今日の放課後のお出かけってやつのあとをつけるしかないかも。
たしかに、普通なら関わりたくない。
京一郎って男にも、いまの男にも。
なんていっても、あの委員長。
夜中に闇にまぎれて出歩いていること自体が胡散臭い。
けれど、あの態度は、絶対になにか他人には言えない秘密を持っている。
それは、わたしの知りたいことなのかもしれない。
近づくなと釘を刺されたら、逆に近づきたくなるっていうものよ。
勇気を奮い立たせるように笑顔を浮かべ、左手にお弁当の袋をぶらさげながら右手で握りこぶしをつくったわたしは、立ち止まって大きく上へと突きだした。
「暴いてやる」
とは決意したものの、さて、どこから手をつけようかと考えながら、結局教室まで戻ってきた。
すると、席をくっつけて、お弁当を食べはじめていたクラスメートふたりが、目ざとくわたしを見つけて手を振る。
「ほーりゅう、こっちこっち!」
「お手洗いの帰り道で迷っているのかと思っちゃったよ。一緒に食べない?」
短いソバージュを揺らしながら、人なつっこい笑みを満面に浮かべた明子ちゃんが手招いた。
向かい合って一緒にいるのはショートヘアーの紀子ちゃんだ。
彼女はお手製らしいサンドウィッチにかぶりついていた。
呼ばれるままに、わたしはふたりの席へと寄っていく。
明子ちゃんが、空いていた隣の椅子の向きを手早く変えてくれた。
お礼を口にして腰をおろす。
手にしていた袋を開けてお弁当箱を取りだしながら、わたしは、さっそく情報収集とばかりにふたりへ訊いてみた。
「えっと……。さっきそこで委員長をみかけたんだけれど。委員長は、モテるの?」
「え? 全然そんなことはないよ?」
「なんで? 廊下で女子と、仲良さそうにしゃべっていたとか?」
とたんに、ふたりの瞳が輝いた。
どうやらふたりとも、この手の話題が好きらしい。
そこで、変な墓穴を掘って自分が突っこまれないようにと気をつけながら、わたしは次の言葉を探す。
「えっと。まあ、見た目も頭もよさそうに見えるから……。そうなのかなぁって、思って」
そう口にしながら、わたしは、さきほど真正面から睨み合ってきた彼の顔を、本当に脳裏へと思い浮かべてみた。
昨夜の印象と同じく年下と思しき童顔で、印象に残らないくらいに地味だ。
けれど、一応整った顔といえるだろう。
顔だけで考えれば、クラスの女子に人気があってもおかしくない気がする。
ただ、あの地味で陰気な彼がわたしの好みかと問われれば、非常に難しいところと言える。
明子ちゃんが腕を組んで、真剣に考えるそぶりをしてみせた。
「そりゃあ、実際に頭もいいし、ルックスもまあ悪くないけれど。――ここだけの話、同じ中学からきた子の話では、委員長の家系って代々陰陽師だって噂なのよ。家業を継いで陰陽師っていう点で、なんだか胡散臭くない? それに性格がちょっと変わっているし、本人もクラスに馴染む気がなさそうだから、必要以上に話しかけないなぁ」
「そうそう、頭がよくても身体が弱くて、体育もほとんど見学だし。やっぱり、ある程度はスポーツマンじゃないとね」
「変な呪いを使われて仕返しされるのが怖いからって、イジメの対象になっていないけれど。そのかわりクラスの皆は、関わりを避けてスルーかな」
手厳しいことを次々と口にしたふたりは、ちょっと声を落として、さらに続けた。
「それに噂では、彼には家族がいないらしくて、いまは夢乃の家に同居しているの。夢乃のお父さんって警察の人なのよ。だから委員長の身元引受人になったんだって聞いたことがある。要は怪しい陰陽師の監視ってことかなぁ」
「その関係で、委員長と普通に話をしているのは夢乃だけだよね」
「夢乃の両親も一緒に住んでいるから同居であって、同棲にはならないんだよねぇ」
同棲ってなによぅと、女の子ふたりはクスクスと笑いあう。
そんな彼女たちの様子を横目で眺めながら、わたしは、彼のとっつきにくそうな雰囲気を思いだした。
彼には複雑な生い立ちがあり、それがあの陰気な雰囲気を作りだしたのだろうか。
ジプシーというあだ名も、先に他のクラスメートから小耳にはさんでいた。
さっきも屋上で、夢乃がそう呼んでいたのを聞いている。
同居している間柄の夢乃が呼ぶのであれば、彼も了承しているあだ名なのだろう。
ならば、わたしもそう呼んで問題はないはずだ。
そんなことをつらつらと考えていたわたしは、ふと、さきほど屋上で三人が集まっていたのを思いだして口を開いた。
「夢乃だけじゃないと思う。城之内京一郎って人も、ジプシーと一緒にいたよ。夢乃から聞いた話では、怖い人なんでしょ?」
わたしの言葉に、明子ちゃんは思いだしたように相槌を打った。
「ああ、そうそう。委員長と言葉を交わすって意味では、城之内もいたなぁ。うん。わたしらは怖いから近づかないよ。けれど、あのふたりは意外と気が合うのかもね」
「最初は素行のよくない城之内を、委員長が注意するって関係に見えたんだけれど。なんていってもクラス内で浮いている者同士だからねぇ。はぐれ者同士でなんとなく一緒にいることが多くなっているんじゃないかな」
「でも、ほーりゅう、ウチのクラスって男子はかなり、見た目にかっこいい系が多いと思わない?」
「そうそう! 今度の文化祭は、男子を使って絶対舞台をしたいよね!」
そのままふたりの話は、文化祭へと移っていった。
わたしも話に合わせて適当にうなずきながら、クラスの情報って、まあこんなものだろうと考える。
どれも噂ばかりで、本当のことかどうかもわからない。
なぜなら、ジプシーと京一郎はなんとなく一緒にいるだけの、はぐれ者同士じゃないから。
屋上での様子では、共通の目的があって行動している印象があった。
そして、わたしは決心する。
やっぱりこれ以上のことを探るには、ジプシーの今日の放課後のお出かけってやつのあとをつけるしかないかも。
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