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【第五章】日常恋愛編『きみがいるから』
第149話 ほーりゅう
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「大きな神社だから人も多いのよ。ほーりゅうってば、はぐれないでよ」
「いつもほーりゅうをみてくれる夢乃が、今日はいないものねぇ」
駅からでたあとは、わたしは明子ちゃんと紀子ちゃんのふたりに挟まれた形で、三人並んで人ごみの中を歩いた。
昨夜のジプシーは、わたしがついてくるものと決めつけた感じで、ひとりでさっさと歩いていたのに、今日はおとなしく、わたしたち女の子の後ろを黙ってついてくる。
学校の人たちがいるところでは、出しゃばる素振りは全然見せない。
自分はもう初詣に行っているくせに、いまは、なにが目的でついてきたのだろう。
大きくて有名な神社は、鳥居が見えてくるまでの大通りに、沢山の参拝者と、その参拝者目的の屋台が軒並み並んでいる。
ひっそりとした昨夜の神社とは大違いだ。
食べ物も買い物も帰りに寄ろうねと言いながらも、そのためにいまから物色しながら、人の波に乗ってゆっくりと進んでいった。
「江沼!」
ふいに、近くでジプシーの苗字を呼ぶ声が聞こえた。
わたしたちは全員、声の出どころを探してあたりを見回す。
すると、人波のあいだから、なんと足立生徒会長が顔をのぞかせた。
「江沼、ほぼ一週間ぶりだな。丁度いい。貴様からの新年の挨拶を受けてやろう」
会長の相変わらずの物言いに、わたしたちは呆然としながらもジプシーの反応に興味津々で、黙って様子をうかがう。
そのあいだに、会長はひとりの少女をひき連れて、人波をかき分けながらわたしたちに近づいてきた。
わたしは彼女に見覚えがある。
たしか、わたしが転入してきた日の夜に会った会長の妹、中学生の足立真美だ。
あのときも可愛いなぁと思ったけれど、長い髪を綺麗にまとめあげた今日の振袖姿は、さらに可憐さを増していた。
彼女は、わたしとジプシーを見て驚いた表情を浮かべた。
けれど、兄の手前か現在の状況の様子をみるためか、口を開かず頭だけをさげる。
「江沼。いま、露骨に嫌な顔をしたな?」
妹の様子に気がつかない会長がジプシーの前に立ち、じっと見据えて口を開いた。
「――いいえ、先輩。そんな。感謝こそすれ、嫌な顔だなんて」
うつむき、会長から視線をそらしてはいたが、予測していなかったであろうジプシーの言葉に、会長は一瞬鼻白む。
けれど、すぐに含み笑いをみせながら口を開いた。
「江沼。なにか言ったか? 周囲がうるさくて聞こえなかったのだが」
「このタヌキ」
ジプシーがうつむいたまま小声で続けた瞬間、会長はジプシーの顎を片手でつかみ、自分のほうへと向けた。
「どの口がなにを言う!」
「先輩、充分いまの声、聞こえているじゃないですか」
会長の手を振り払いながら、ジプシーが言い返す。
そんなやり取りなのに、ふたりのあいだには、以前のようなとげとげしい雰囲気が感じられなかった。
そして、会長が苦笑するようにつぶやく。
「前の電話のときには心配したが、元気そうで安心したぞ」
わたしが「あっ!」と思ったときには、もう会長は別のほうへ視線を向けていた。
「お! あそこを行くは、我が生徒会の副会長ではないか。真美、行くぞ!」
そして、もうこちらには目もくれずに、ふたたび人ごみをかき分けて離れていく会長たちの後姿を、わたしたちは唖然と見送った。
新年から、本当にマイペースな生徒会長だなぁ。
そう思ったわたしへ、明子ちゃんが耳打ちした。
「わたしらの高校の生徒会長ってさ、近くで見ると、妙な迫力があるよねぇ」
「うん。そうだよね」
わたしはうなずきながら。
――そうだった。
旅行中のあのとき!
わたしと喧嘩をしている最中に、会長からの電話をジプシーが受けていたなぁと思いだした。
ジプシーが仕事の真っ只中だったから深く聞かなかったけれど。
ジプシーは、会長と、どんな会話を交わしたのだろう?
あのときを境に、ジプシーは少し、わたしに対する態度が変わった気がする。
「いつもほーりゅうをみてくれる夢乃が、今日はいないものねぇ」
駅からでたあとは、わたしは明子ちゃんと紀子ちゃんのふたりに挟まれた形で、三人並んで人ごみの中を歩いた。
昨夜のジプシーは、わたしがついてくるものと決めつけた感じで、ひとりでさっさと歩いていたのに、今日はおとなしく、わたしたち女の子の後ろを黙ってついてくる。
学校の人たちがいるところでは、出しゃばる素振りは全然見せない。
自分はもう初詣に行っているくせに、いまは、なにが目的でついてきたのだろう。
大きくて有名な神社は、鳥居が見えてくるまでの大通りに、沢山の参拝者と、その参拝者目的の屋台が軒並み並んでいる。
ひっそりとした昨夜の神社とは大違いだ。
食べ物も買い物も帰りに寄ろうねと言いながらも、そのためにいまから物色しながら、人の波に乗ってゆっくりと進んでいった。
「江沼!」
ふいに、近くでジプシーの苗字を呼ぶ声が聞こえた。
わたしたちは全員、声の出どころを探してあたりを見回す。
すると、人波のあいだから、なんと足立生徒会長が顔をのぞかせた。
「江沼、ほぼ一週間ぶりだな。丁度いい。貴様からの新年の挨拶を受けてやろう」
会長の相変わらずの物言いに、わたしたちは呆然としながらもジプシーの反応に興味津々で、黙って様子をうかがう。
そのあいだに、会長はひとりの少女をひき連れて、人波をかき分けながらわたしたちに近づいてきた。
わたしは彼女に見覚えがある。
たしか、わたしが転入してきた日の夜に会った会長の妹、中学生の足立真美だ。
あのときも可愛いなぁと思ったけれど、長い髪を綺麗にまとめあげた今日の振袖姿は、さらに可憐さを増していた。
彼女は、わたしとジプシーを見て驚いた表情を浮かべた。
けれど、兄の手前か現在の状況の様子をみるためか、口を開かず頭だけをさげる。
「江沼。いま、露骨に嫌な顔をしたな?」
妹の様子に気がつかない会長がジプシーの前に立ち、じっと見据えて口を開いた。
「――いいえ、先輩。そんな。感謝こそすれ、嫌な顔だなんて」
うつむき、会長から視線をそらしてはいたが、予測していなかったであろうジプシーの言葉に、会長は一瞬鼻白む。
けれど、すぐに含み笑いをみせながら口を開いた。
「江沼。なにか言ったか? 周囲がうるさくて聞こえなかったのだが」
「このタヌキ」
ジプシーがうつむいたまま小声で続けた瞬間、会長はジプシーの顎を片手でつかみ、自分のほうへと向けた。
「どの口がなにを言う!」
「先輩、充分いまの声、聞こえているじゃないですか」
会長の手を振り払いながら、ジプシーが言い返す。
そんなやり取りなのに、ふたりのあいだには、以前のようなとげとげしい雰囲気が感じられなかった。
そして、会長が苦笑するようにつぶやく。
「前の電話のときには心配したが、元気そうで安心したぞ」
わたしが「あっ!」と思ったときには、もう会長は別のほうへ視線を向けていた。
「お! あそこを行くは、我が生徒会の副会長ではないか。真美、行くぞ!」
そして、もうこちらには目もくれずに、ふたたび人ごみをかき分けて離れていく会長たちの後姿を、わたしたちは唖然と見送った。
新年から、本当にマイペースな生徒会長だなぁ。
そう思ったわたしへ、明子ちゃんが耳打ちした。
「わたしらの高校の生徒会長ってさ、近くで見ると、妙な迫力があるよねぇ」
「うん。そうだよね」
わたしはうなずきながら。
――そうだった。
旅行中のあのとき!
わたしと喧嘩をしている最中に、会長からの電話をジプシーが受けていたなぁと思いだした。
ジプシーが仕事の真っ只中だったから深く聞かなかったけれど。
ジプシーは、会長と、どんな会話を交わしたのだろう?
あのときを境に、ジプシーは少し、わたしに対する態度が変わった気がする。
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