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【第五章】日常恋愛編『きみがいるから』
第142話 ほーりゅう
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「もう、筋肉痛で肩があがらない」
わたしはそう言うと、夢乃の家のキッチンに続く居間のソファの背へ、もたれかかった。
「信じられない。昨日はクリアーするまで、本当に帰らせてくれる気配がないし」
「わたしも、ロープウェーの先のアスレチックの存在は、前に話で聞いたことがあるけれど。実際に行ったことはないなぁ」
夢乃は、キッチンから返してくる。
「中学時代に、京一郎とふたりでよく行っていたみたいよ」
あの男!
結局、かなりの時間をかけて、根性で全部クリアーしたわよ!
この寒空にわざわざどうして、屋外のアスレチックに連れだされたのかがわからない。
わたしが我龍のことを隠していたと思って、やっぱり怒っていたのかな。
いくら危ないところや難しいところでは手をかしてくれても。
遅い昼食で、前にパフェを食べたことのある喫茶店でサンドウィッチを奢ってくれても。
帰りにスーパーで買い物に付き合って荷物を持ってくれても。
意地悪な奴だということに変わりはない。
旅行から帰ってきて、夢乃とは一日あけて会った。
そして、わたしが考えていたほど、夢乃に変化がないことに、じつはちょっと拍子抜けしていた。
夢乃、もっと恋する乙女の状態になっているかと思ったのに。
島本さんが生きていたというだけで御の字だと言っている。
夢乃ってば、それだけで満足なのだろうか。
意外というか、やっぱりというか。
夢乃って冷静だなぁ。
「ねえ。京一郎から、なにか連絡あったの?」
そういえばと、わたしは夢乃に声をかけた。
京一郎も、こちらに戻ってきてからは連絡をとっていない。
キッチンで、おせち料理の下ごしらえを母親としている夢乃は、忙しそうに手を動かしながら顔をあげずに返事をしてきた。
「もう年末だし。京一郎の家、毎年この時期はなにかとややこしいらしいから。旅行から戻ったあとは、来年の二日まで連絡しないかもって言っていたわ」
そうか、とわたしは考える。
極道である京一郎の家は、きっと堅気には想像できない決まりがある世界なのだろう。
あまり深く聞かないほうがいいかもしれない。
そういうわたしはというと、仕事で忙しい叔母とふたりで、このお正月を迎えることになっていた。
医師である働き者の両親とは、もともといままで日本にいたときから、ゆっくり年末年始を家族で過ごしていたわけでもない。
海外にいる両親には、向こうへ行って間もないし往復も大変だから、戻ってこなくていいよと連絡をした。
母親の反応は、残念そうな、ほっとしたような気配が電話から伝わってきた。
すると、それを聞いた夢乃のお母さんが、一軒分も二軒分も変わらないからと、おせち料理を作ってくれると言ってくれたのだ。
ありがたくいただく代わりに、肉体労働提供として、わたしは買出し係となった。
材料が足りなくなったり必要なものがでてきたりしたら、すぐにお店へ買いに走る役目だ。
実際の料理のお手伝いは、わたしには無理だからなぁ。
「ところで――いま、ジプシーは?」
「朝食と昼食のときには、部屋からでてきたけれど」
なんだ。
今日は、それ以外は部屋に閉じこもりなんだ。
わざわざでてきた昨日のアスレチックって、なんだったの?
やっぱりわたしへの意地悪だったのだろうか。
わたしはそう言うと、夢乃の家のキッチンに続く居間のソファの背へ、もたれかかった。
「信じられない。昨日はクリアーするまで、本当に帰らせてくれる気配がないし」
「わたしも、ロープウェーの先のアスレチックの存在は、前に話で聞いたことがあるけれど。実際に行ったことはないなぁ」
夢乃は、キッチンから返してくる。
「中学時代に、京一郎とふたりでよく行っていたみたいよ」
あの男!
結局、かなりの時間をかけて、根性で全部クリアーしたわよ!
この寒空にわざわざどうして、屋外のアスレチックに連れだされたのかがわからない。
わたしが我龍のことを隠していたと思って、やっぱり怒っていたのかな。
いくら危ないところや難しいところでは手をかしてくれても。
遅い昼食で、前にパフェを食べたことのある喫茶店でサンドウィッチを奢ってくれても。
帰りにスーパーで買い物に付き合って荷物を持ってくれても。
意地悪な奴だということに変わりはない。
旅行から帰ってきて、夢乃とは一日あけて会った。
そして、わたしが考えていたほど、夢乃に変化がないことに、じつはちょっと拍子抜けしていた。
夢乃、もっと恋する乙女の状態になっているかと思ったのに。
島本さんが生きていたというだけで御の字だと言っている。
夢乃ってば、それだけで満足なのだろうか。
意外というか、やっぱりというか。
夢乃って冷静だなぁ。
「ねえ。京一郎から、なにか連絡あったの?」
そういえばと、わたしは夢乃に声をかけた。
京一郎も、こちらに戻ってきてからは連絡をとっていない。
キッチンで、おせち料理の下ごしらえを母親としている夢乃は、忙しそうに手を動かしながら顔をあげずに返事をしてきた。
「もう年末だし。京一郎の家、毎年この時期はなにかとややこしいらしいから。旅行から戻ったあとは、来年の二日まで連絡しないかもって言っていたわ」
そうか、とわたしは考える。
極道である京一郎の家は、きっと堅気には想像できない決まりがある世界なのだろう。
あまり深く聞かないほうがいいかもしれない。
そういうわたしはというと、仕事で忙しい叔母とふたりで、このお正月を迎えることになっていた。
医師である働き者の両親とは、もともといままで日本にいたときから、ゆっくり年末年始を家族で過ごしていたわけでもない。
海外にいる両親には、向こうへ行って間もないし往復も大変だから、戻ってこなくていいよと連絡をした。
母親の反応は、残念そうな、ほっとしたような気配が電話から伝わってきた。
すると、それを聞いた夢乃のお母さんが、一軒分も二軒分も変わらないからと、おせち料理を作ってくれると言ってくれたのだ。
ありがたくいただく代わりに、肉体労働提供として、わたしは買出し係となった。
材料が足りなくなったり必要なものがでてきたりしたら、すぐにお店へ買いに走る役目だ。
実際の料理のお手伝いは、わたしには無理だからなぁ。
「ところで――いま、ジプシーは?」
「朝食と昼食のときには、部屋からでてきたけれど」
なんだ。
今日は、それ以外は部屋に閉じこもりなんだ。
わざわざでてきた昨日のアスレチックって、なんだったの?
やっぱりわたしへの意地悪だったのだろうか。
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