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お仕事が舞い込んできた住職さん
しおりを挟む「住職さ~ん、書留ですよ~」
妙慶寺に玄関チャイムと言った洒落た物はない。よって郵便さんも宅配さんも皆、大声で叫んで完治を呼ぶ。たった今、玄関で声を上げているのは郵便さんだろう。書留と言う事は、間違いなく郵便だ。
「どなたかが郵送で法要を言ってきたのでしょうか」
今度こそお布施が入る。
己の思考に少々赤面しつつも完治の気持ちは上向いた。
いそいそと玄関に向かい、書留を受け取った。なじみの郵便さんに礼を言うのもそこそこに引き戻り、封を切る。
果たして――――――
出てきたのは8×20×5センチ程の古めかしい木箱がひとつ。その上に白い絹紙に毛筆でしたためられた達筆の文が1通。
簡素な文面で、同封した箱の懐剣を供養して欲しいと書かれている。【些少ではございますが】との文字と供に諭吉さんも5枚!入っていた。
「ぃ・・・・・・ぃ、いやった~~~!!!!!」
オッケーカモォン!刀?人形?いくらでも送って下さい。髪が伸びる人形でも嫌がる事無く供養します。現金収入、オッケーカムカム。お任せちょんまげ。
久しぶりに見た桁の大きな札の姿に驚喜した完治は奇妙奇天烈な喜びの舞を踊り狂う。
幸いだったのは完治のそんな姿を目にしたのが人間ではなく庭先で虫をつつく雀だけだった事だろう。
完治は浮かれた気分のまま昼食のキャベツをかき込んで、午後いっぱいかけて送られてきた懐剣の供養をした。
しかしてその夜――――――
臨時収入にて購入した久しぶりのアルコールで身も心も幸せ満足に浸って夢路に旅だった完治だが、不審な物音で目が覚めた。
コトガタッ、ゴトンッ――カタン、カタカタカタタ――カッタン
まさか貧乏寺に泥棒でもあるまいし、と寝とぼけた目を擦りながら起き出した完治が見たのは、ご本尊の足下の光。怪しげなそれはパアッと強く光ったと思えば消えそうに弱くなって、更には蛍のように点滅したりと不思議な動きをしてしる。
「・・・・・・何だぁ?」
訝しく思いながら、よくよく目を凝らせば光っているのはご本尊ではなく本日郵便が運んできた5万円、いや、供養を依頼された懐剣だった。
「おいおい。やっぱり呪いのアイテムだったんかい。昼間の経でも供養できてないって、どんだけ強力な呪いなんだよ。ま、そりゃそうだよな~。何てったって諭吉さんが5枚だもんなぁ。これで普通の品物だったら太っ腹過ぎるって」
日頃のお行儀よい完治はどこへやら。酔いに任せた本性ダダ漏れ状態でぶつくさぼやきながら完治は木箱に近づいた。
ついでに言っておくと、供養のあるなしにかかわらず完治は毎晩本堂で寝起きしている。何故ならこの寺で雨漏りがしない場所は本堂だけだから。
今夜は晴れて星が無数に瞬いている。しかし最近の天気は変わりやすいからいつ急な雨が降っても慌てないように最初から本堂を生活の拠点にしているのだ。弟子や同僚がいるわけでなし。仏様と2人っきりなのだから省ける無駄は省いた生活も許されるだろう、と解釈している。
改めて見ると、光っているのは木箱じゃなく木箱の表面に書かれた消えかけの文字部分らしい。
蓋全体に書かれた文字らしき黒ずみがぼんやり光り、紐で縛られた蓋が外れようとしているみたいに勝手にカタカタ動いている。
中に生き物が入っているようなその動きはちょっとホラーだ。
ネズミがゴキでも閉め込んだか?
一瞬そんな馬鹿げた事まで疑ったが、恐怖はないから完治はそのまま動く箱を見続けた。
じ~~~、じじ~~~~~。ジロジロジロリ。ジロジロリン。
どの位そうしていただろう。箱の動きは止まらないし変わらない。見ているのに飽きた完治は揺れ動く箱をムンズと掴んで紐を解いた。
呼ばれて飛び出てジャジャジャ~~~ン♪♪♪ってもんじゃないけれど、かなりそれに近い感じで箱から白い煙(?)が出て、あっという間に本堂を真っ白に変えた。
火事かっ?
身構えた完治だったが、数秒後煙が薄れ、目に入ったのは空中にふわりと浮かんだ懐剣だった。抜き身でなく袋入りのままで。
安全安心と気を緩めたのも束の間で、完治が息を吐いた次の瞬間浮かんだ剣が変化した。
水の中に墨を落とした時のようにジワリ、と輪郭が滲んでいく。
ぶわりぶわりと広がって、広がり続けて大きくなって、ついに等身大までになった。いつの間にか袋が消えて、むき出しになった剣鞘が鈍色からさっきの煙を窮した様な白色に変わっている。同時に形も変化している。シュッとしたフォルムが丸みを帯びている。
何だ?
もっとよく見ようと目を眇めながら近づいた完治にそれは降ってきた。
本当に、文字通り、空中に浮かんでいたくせに急に重力を取り戻したようにドサッと、だ。
「ウギャッ!」
腕の中というより完治の体に被さるみたいにのし掛かってきたのは
ナントッ
ソレハッ
イワユルッ
着物姿の女だった。
年の頃は20代半ばから後半といった風情で、腰まで届く黒髪と対照的な白い肌。寝着のような薄い浴衣に包まれた体は曲線が豊かなエロボディ。襟の合わせから覗く谷間が何ともそそる。
果たしてこれは、幽霊・物の怪の類いか?それとも剣から変化した所をみると付喪神の一種とか?いやいやいや。1番考えられるのは、酔っ払った完治は只今夢のまっただ中で、この女は日照りの続いた欲求不満が見せた完治の願望。いわゆる妄想で。
うんうん。妄想だ、妄想。これは妄想。今俺は眠っていて夢の中。夢の中なら現実じゃない。現実じゃないなら――――――
つ・ま・り――――――夢の中は何をしても許されるという事で・・・・・・・・・・・・
チン・チン・チン・ッチ――――――ン。
シンキングタイム終了です。
結論。
夢なのだ。夢の中なら、いや、夢だからこそ何をする。いや、ナニをする。
楽しまなきゃ損でしょう!!!!!!だ。
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