76 / 85
桃太郎、出歯亀する
しおりを挟む浦島家のあてがわれた客間の中で枕を抱えた桃太郎はあっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロと転がり回っていた。右へゴロリと転がっては「うぅ~~~ん」と唸り、左へゴロゴロゴロッと転がっては「はぁ~~」とため息をもらしている。
得体のしれない行動はかれこれ30分以上続いており、乙が見れば「ちょいっと、桃ちゃん。畳が擦り減っちまうだろ」と怒りの小言を貰う事間違いなしの奇行だった。
桃太郎とて怒られたくてやっているわけじゃない。もちろん畳をすり減らそうとしてもいない。ただただ一心に悩んでいるだけなのである。
そう。
「は~~ぁ。一体どうやったら鯉子ちゃんと雉さんってくっ付くんだろ」と。
あの日、ホテルで犬山と猿川に相談したら声をそろえて放っておけと言われてしまった。
「他人の事に首を突っ込むな」
「2人ともえ~大人なんや。放っといたらええ。横からヘタに手ぇだしたらこじれるで」
「くっ付くもくっ付かんも成り行きしだいだ。桃がちょっかいかける事ではない」
「雉やんやっていい年した男やで。自分の事は自分でするがな。変なちょっかい掛けられたら意固地になってまうかもよ」
等々、聞き分けのない子供にするようにき~っちりお小言を貰ってしまい、更には二人の事に手出ししませんという約束までさされる始末。
そんなわけで、桃太郎は身動き取れない状況なのだ。
が、諦めきれないのも本心で。
桃太郎の目には鯉子の恋心は明白で、雉谷だって憎からず思っているのは間違いない。研究しているからと言っても、あれだけべったりくっついているのだ。ほんのちょっときっかけがあればイケる筈。そのきっかけを桃太郎が作ったっていいじゃないかと思うのだが……。
しかし、手を出さないと約束したのもまた事実。約束を破るのはいけないだろう。
「う~~ん。ゴロゴロしてても仕方ない、か。って言うか、こんな事やってるからもやもやするんだな。気分転換にどっか行こうかな……どっか…」
気分転換先に桃太郎が選んだ場所。そこは七五三家。もちろん七五三家の誰かに会いに来たわけじゃない。桃太郎が会いたいのは、屋敷に滞在しているアシニレラだ。
あの事件以来、実篤様に気に入られたアシニレラはしょっちゅう七五三家に滞在している。噂では婚約間近だとか。脳筋と戦闘民族の夫婦。案外お似合いかもしれない。
まぁ、正直2人の事はどうでもいい。今はアシニレラと女同士おしゃべりでもして、このもやもや気分を晴らしたい。
多分、きっと、優しいアシニレラなら桃太郎の愚痴を受け止めてくれる筈。
そんなわけで、やって来ました七五三様の御屋敷。
「相変わらずでかいよね~」
門番さんに用向きを伝えれば、意外とあっさり中に入る許可が出た。案内を断って、アシニレラがいると聞いた客間へ足取りも軽く歩いて行けば、目的部屋から人が争う声が聞こえて足を止めた。
いや、争う声と言うには語弊がある。何故って、聞こえてくるのは何かを懇願している男の声がひとり分だけだから。
「頼むって。なっ」
「いいだろ?お願いだから。それは今日じゃなくてもいいから」
「う~、1回。1回だけ、1回だけでいいから。お願いしますっ」
「ほんのちょっとだけだから。ねっ、ねっ。お願いお願いお願いします~」
「………だから……それ……で…」
「いやだ~。お願いします~」
立て板を流れる水のように聞こえてくる懇願?泣き落とし?の声に対して、1回だけ微かな返事の声が聞こえた。くぐもっていたが女性の声で。
こっ、こっ、これは、もしかして――――――誰かが意中の女性を口説いている場面だろうか?
犬山も、桃太郎に同じようにお願いしてくることがある。1回だけエッチしたいとか、エッチなしでいいから舐めて欲しいとか、ひとりで擦るからおっぱい見たいとか。そんな時はとにかくこちらが口を挟む隙が無い勢いで泣き落としにかかるのだ。
大の男が両手を組んで、ウルウルした目で見上げてくる姿は捨てられた犬そのもので、拒否できない。突き放せばこちらが悪者になった気がしてしまう。
そんなわけで、絆された桃太郎はついつい「ちょっとだけだよ」とか「1回だけだから」と受け入れてしまうのだ。
この壁の向こうの2人も同じ展開になっている気がするから、どこの男も似た行動をとるらしい。
果たして、女はどうするのか?受け入れる?それともきっぱり突き放す?
俄然興味がわいて、聞き耳をたててしまう。
気分はすっかり忍者になって、そろりそろりと忍び足で部屋に近寄る桃太郎。その間も中の2人は声を大小しながら話続けている。
が、どうやら女が根負けしたようで。
「やったっ」
恐らく拳を握っているだろう男の声があいたと思えば、続けてゴソゴソゴソという衣擦れの音がした。
ま、ま、間違いごじゃりません~~~。エッチです~~~。誰かが、七五三家の誰かがエッチに突入したようです~~~。
「はぁ……い、いくよ」
低いがはっきりと男の声が聞き取れた。
もっとよく聞こうと亀のように首を伸ばす桃太郎。
「うぅっ、ああっ、気持ちいい」
パンッ、という肉を打ち付ける音が響き、くぐもった女の悲鳴があがる。
パシン、パン、パシンパシン、パツッ、パン
音から推察するに、2人の体位は後背位。
想像して桃太郎の鼻息が荒くなる。
「ああ、いい。いいよ。たまんない……」
男の気持ちよさそうな声に、か細い女の悲鳴?喘ぎ?が混じる。
「ダメだ、も……もう、イク。イキそうだ。あっ、あ、あぁ……」
絶頂が近いのだろう。男の喘ぎに熱がこもり、射精を宣言し始めた。合わせて肉を打つ音も早く、大きくなってきた。
あっれ~~~~~?????
「ハヤクナイ?」
2人が合体してからまだほんの数分しか経ってない。なのに、もう?
あれ?そう言えば前戯した?いきなり合体しなかった?
女性の声は?喘ぎ?悲鳴?あれ?あれ?あれれ?
気になりだしたら止まらない。ほんの数分間の出来事を、頭の中で最初っから巻き戻して見るが、やはり前戯があったと思えない。喘いでいるのは男だけ。
ナンデスカ?いきなり合体?んでもってガッツンガッツン腰振ってる?気持ちいいのは男だけ?
ちょっと!
ちょっと!
ちょっとおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
柱を握りしめる指に力がはいる。怪力女じゃないから柱がへこむ事はないが、指の関節が白く浮き上がって腕がプルプルグル得てしまう。興奮で荒かった鼻息が、今度は怒りで荒くなる。
プルプルプルプル
ブチッという、どこかが切れた音が頭の中で大きく響いた瞬間、立ち上がった桃太郎は思いっきりよく襖を開け放つ。
スッパ―――――ンンッ!と小気味いい音がして敷居に襖のサンがぶつかった。
「ちょ~~~っと待ったぁぁぁぁ!」
音と桃太郎の叫びを受けて「うぁおっ」「ぅひぃっ」と驚きの悲鳴が、次いで「ほぁぁわぁぅぅっっっ」「んっふぅっ」という…………まぁ、そのなんだ。射精した男の歓喜の声と精液を受け止めた女の呻きが上がった。
部屋の中にいたのは着物を捲り上げた四つん這いのアシニレラに乗り上げた、これまた袴をズリ下ろして尻を丸出しにした実篤だった。
「あ~~~……ゴメン」
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる