64 / 110
第二章 魔獣退治編
19 瞬間冷凍庫
しおりを挟む
驚いたリコは慌てて立ち上がってレオに抱きついた。
その氷は物凄い速さで壁、床、カーテン、と凍らせていく。リコとレオの服も凍っていって、リコはパニックになっていた。
「な、何で!? 私何もしてないのに! 怖い!」
「大丈夫、落ち着いて!」
感情の昂りで能力が暴走しているのを理解して、レオは内心焦りつつも平静を装った。
氷の広がりはとうとう天井まで覆い、大きなシャンデリアが凍る。レオが見上げた瞬間に、それは落下していた。
リコの頭上にすぐに異次元の扉を現すと、落下するシャンデリアをスッポリと受け止め、レオは何事も無かったように扉を閉じた。
「リコさん、大丈夫ですよ。ちょっとビックリして、力が出ちゃっただけですから」
白い息を吐きながらリコを強く抱きしめて、昂りが収まるのを待った。
ガタガタ震えるリコはレオが取り乱さない様子に安心して、だんだんと冷静さを取り戻していた。
氷の暴走は減速し、やがて室内は冷凍庫のような状態で止まった。
「わ、私……」
「大丈夫。見なくていいですから」
自分の胸にリコを抱いたままそっとドアに向かって移動すると、廊下に出た。冷えた体に急激に温度が戻ってきた。
廊下には、異常な冷気を感じて様子を見に来たアレキとミーシャが、真っ青な顔で壁にへばりついている。
レオは無言のまま目配せをして、自室にリコを連れていった。
タオル、毛布、ミニストーブ、湯たんぽに、温かい紅茶。ありとあらゆる体を温める道具を出しまくって、レオはリコを毛布にくるんだまま、自分のベッドの上で抱きしめ続けていた。
真っ白だった指先と頬に赤みが戻って、髪や睫毛の氷が溶けていく。
「レオ君……ごめんね」
「謝るのは僕ですよ。僕のせいで混乱させてしまいました」
リコは首を振る。
「私、自分の力で自分がやられちゃう」
凍傷になりかけてショックを受けていた。
「能力が発現したばかりの頃は、誰だってそうです」
「本当?」
「ええ。僕だっていっぱい失敗して、コントロールするのに何年もかかりました」
「レオ君は最初から完璧な気がしてた」
「そんなわけないですよ。リコさんに幻滅されないように、失敗を隠しているだけです」
リコは喋るうちに、だんだんと元気を取り戻していた。
「お部屋が冷凍庫になっちゃった。どうしよう」
「大丈夫。明日には溶けますから。今日はこのまま、ここで眠ってください」
そう言われてリコは照れるが、レオの温度が恋しくて、そのまま胸の中で目を瞑った。
夢の中でエリーナに会ってこの力のコントロールの術を聞きたかったが、リコは抱擁の中で深い眠りに落ちて、エリーナと会うことは叶わなかった。
* * * *
翌朝、リコは深々と頭を下げた。
「アレキさん。お部屋をあんなにしてしまって、ごめんなさい」
アレキはテンパっていた。
「いや、いいのいいの! リコちゃんは悪く無いよ、全部あいつが悪いんだから!」
ミーシャも頷いて、自身の失敗談を告白した。
「私だって、子供の頃に家中の物を全部割っちゃって、めちゃめちゃにしたことあるよ」
「お、俺だって、洗脳に失敗して、おっさんにしこたまぶん殴られたことあるって!」
二人の暴露にリコは思わず笑いそうになるが、部屋の惨状に心から凹んでいた。
「あんなに可愛いかったお部屋が……」
昨晩の氷は溶けたが、すべてが水浸しになっていた。
「平気だよ。午後からお掃除と工事の人が来るから、すぐ元通りになるからね」
アレキはリコと一緒に部屋を見回した。
「いやあ、それにしても大したもんだ。リコちゃんの力はスイーツを冷やすだけだと思ったが、案外、強い力を秘めてるんだな」
「私、自分もレオ君も凍ってしまいそうになって、怖くなりました」
「この力がコントロールできたら、悪党を氷漬けにできるぞ」
怖い力の使い方に、リコは苦笑いする。
アレキはリコの左手を手に取った。
「しかもリコちゃんの手は、まだ右手しか解放されてないんだよ」
リコは左手にまだ石の枷が付いていることを、すっかり忘れていた。
「左手が解放されたら、何かが変わるんですか?」
アレキはそれには答えず、ミーシャを振り返った。
「ミーシャは片手だけだと、どうなる?」
「半分の風しか出ませんね。基本、両手を使います」
「俺も。片目じゃ洗脳の威力が半分だよ」
リコは驚く。自分が力の半分しか使っていないとは、考えてもみなかった。
「そんな……それじゃあ、私の左手はずっとこのままでいいです」
制御できない自分の能力に尻込みしていた。
「少しずつ慣れればいい。枷はいつかきっと外せるから、その時に自由に力を使えるようにね」
アレキが優しく諭して、リコは頷いた。
プリンも冷蔵庫も作って救世主になるだなんて、大きな希望を抱いた途端に、リコは自身の力の不安定さに押しつぶされていた。
(しかもその理由が、嫉妬だなんて……)
能力を使ってレオを必要以上に責めてしまった結果も、リコにとっては不本意でやるせなかった。
その氷は物凄い速さで壁、床、カーテン、と凍らせていく。リコとレオの服も凍っていって、リコはパニックになっていた。
「な、何で!? 私何もしてないのに! 怖い!」
「大丈夫、落ち着いて!」
感情の昂りで能力が暴走しているのを理解して、レオは内心焦りつつも平静を装った。
氷の広がりはとうとう天井まで覆い、大きなシャンデリアが凍る。レオが見上げた瞬間に、それは落下していた。
リコの頭上にすぐに異次元の扉を現すと、落下するシャンデリアをスッポリと受け止め、レオは何事も無かったように扉を閉じた。
「リコさん、大丈夫ですよ。ちょっとビックリして、力が出ちゃっただけですから」
白い息を吐きながらリコを強く抱きしめて、昂りが収まるのを待った。
ガタガタ震えるリコはレオが取り乱さない様子に安心して、だんだんと冷静さを取り戻していた。
氷の暴走は減速し、やがて室内は冷凍庫のような状態で止まった。
「わ、私……」
「大丈夫。見なくていいですから」
自分の胸にリコを抱いたままそっとドアに向かって移動すると、廊下に出た。冷えた体に急激に温度が戻ってきた。
廊下には、異常な冷気を感じて様子を見に来たアレキとミーシャが、真っ青な顔で壁にへばりついている。
レオは無言のまま目配せをして、自室にリコを連れていった。
タオル、毛布、ミニストーブ、湯たんぽに、温かい紅茶。ありとあらゆる体を温める道具を出しまくって、レオはリコを毛布にくるんだまま、自分のベッドの上で抱きしめ続けていた。
真っ白だった指先と頬に赤みが戻って、髪や睫毛の氷が溶けていく。
「レオ君……ごめんね」
「謝るのは僕ですよ。僕のせいで混乱させてしまいました」
リコは首を振る。
「私、自分の力で自分がやられちゃう」
凍傷になりかけてショックを受けていた。
「能力が発現したばかりの頃は、誰だってそうです」
「本当?」
「ええ。僕だっていっぱい失敗して、コントロールするのに何年もかかりました」
「レオ君は最初から完璧な気がしてた」
「そんなわけないですよ。リコさんに幻滅されないように、失敗を隠しているだけです」
リコは喋るうちに、だんだんと元気を取り戻していた。
「お部屋が冷凍庫になっちゃった。どうしよう」
「大丈夫。明日には溶けますから。今日はこのまま、ここで眠ってください」
そう言われてリコは照れるが、レオの温度が恋しくて、そのまま胸の中で目を瞑った。
夢の中でエリーナに会ってこの力のコントロールの術を聞きたかったが、リコは抱擁の中で深い眠りに落ちて、エリーナと会うことは叶わなかった。
* * * *
翌朝、リコは深々と頭を下げた。
「アレキさん。お部屋をあんなにしてしまって、ごめんなさい」
アレキはテンパっていた。
「いや、いいのいいの! リコちゃんは悪く無いよ、全部あいつが悪いんだから!」
ミーシャも頷いて、自身の失敗談を告白した。
「私だって、子供の頃に家中の物を全部割っちゃって、めちゃめちゃにしたことあるよ」
「お、俺だって、洗脳に失敗して、おっさんにしこたまぶん殴られたことあるって!」
二人の暴露にリコは思わず笑いそうになるが、部屋の惨状に心から凹んでいた。
「あんなに可愛いかったお部屋が……」
昨晩の氷は溶けたが、すべてが水浸しになっていた。
「平気だよ。午後からお掃除と工事の人が来るから、すぐ元通りになるからね」
アレキはリコと一緒に部屋を見回した。
「いやあ、それにしても大したもんだ。リコちゃんの力はスイーツを冷やすだけだと思ったが、案外、強い力を秘めてるんだな」
「私、自分もレオ君も凍ってしまいそうになって、怖くなりました」
「この力がコントロールできたら、悪党を氷漬けにできるぞ」
怖い力の使い方に、リコは苦笑いする。
アレキはリコの左手を手に取った。
「しかもリコちゃんの手は、まだ右手しか解放されてないんだよ」
リコは左手にまだ石の枷が付いていることを、すっかり忘れていた。
「左手が解放されたら、何かが変わるんですか?」
アレキはそれには答えず、ミーシャを振り返った。
「ミーシャは片手だけだと、どうなる?」
「半分の風しか出ませんね。基本、両手を使います」
「俺も。片目じゃ洗脳の威力が半分だよ」
リコは驚く。自分が力の半分しか使っていないとは、考えてもみなかった。
「そんな……それじゃあ、私の左手はずっとこのままでいいです」
制御できない自分の能力に尻込みしていた。
「少しずつ慣れればいい。枷はいつかきっと外せるから、その時に自由に力を使えるようにね」
アレキが優しく諭して、リコは頷いた。
プリンも冷蔵庫も作って救世主になるだなんて、大きな希望を抱いた途端に、リコは自身の力の不安定さに押しつぶされていた。
(しかもその理由が、嫉妬だなんて……)
能力を使ってレオを必要以上に責めてしまった結果も、リコにとっては不本意でやるせなかった。
11
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。
せいめ
恋愛
婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。
そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。
前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。
そうだ!家を出よう。
しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。
目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?
豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。
金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!
しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?
えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!
ご都合主義です。内容も緩いです。
誤字脱字お許しください。
義兄の話が多いです。
閑話も多いです。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる