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第二章 魔獣退治編

18 疑惑の歯形

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 金ピカ城の豪華なリビングで、アレキはタオルケットにくるまっている。

「ミ~シャ~、なんかさっぱりしたやつ食べたい」
「アレキ様、もう熱下がったじゃないですか」
「まだ心が風邪なの!」

 二人の問答の前に、リコがガラスの器に果物を乗せて持って来た。

「アレキさん。桃をシャーベットにしましたよ」
「え!? 何それぇ!」

 アレキは器を受け取って、半冷凍の桃シャーベットを手掴みで食べると、目を見開いた。

「うっまっ!! 何これ、ヤッバ」
「アレキ様、私にもくださいよ!」
「ミーシャちゃんのもあるよ」

 桃シャーベットを貪る二人を、リコは笑って見ている。

「いやぁ、リコちゃんのひんやりスイーツはヤバイね。昇天しちゃうわ。東の地は雪なんて滅多に降らないから、冷たいだけでサプライズだよ」
「ここは温暖らしいですね」

 お喋りをしているうちに、待ちに待ったレオが帰って来た。

「ただいま……」
「おかえりなさい!」

 リコがテンション高く迎えるのと対照的に、玄関に立つレオは幽霊のようだ。

「レオ君、どうしたの!?」

 リコは元気が無いレオに駆け寄って、怪我をしていないかチェックをした。

「あっ! 首、怪我してる!?」

 リコがレオの首に手を差し伸べると、レオはギクッと体を竦ませて、咄嗟に首を隠した。

「な、何でもないです! 汗をかいたので……お風呂に入って来ます!」

 明らかに焦って、風呂場に行ってしまった。

「……」

 リコが呆然とした顔でリビングに戻ってきたので、ミーシャが声を掛けた。

「リコ? どうしたの?」
「歯形……」
「え?」

 リコは青い顔で、こちらを振り返った。

「レオ君の首に歯形が付いてた……」

 ミーシャとアレキはギョッとする。

「トカゲに噛まれたってこと?」
「人間の……だと思う」

 場が静まり返る。
 アレキがフォローをするか、冗談を言うかで迷っているうちに、リコはワナワナと震えて、涙ぐんでいた。

「う……浮気?」


 * * * *


 そんなリビングの荒れ模様を知らずに、レオは茫然と湯に浸かっていた。

「歯形が残るまで噛むなんて。あの人……異常だ」

 ダリアを思い出すと背中がゾクッとするとともに、妙な気分になった。毒草が効いているのか、断片的な唇や胸のイメージが纏わりついて、レオは払拭するように顔に湯をかけた。

「能力者って変わった人が多いのかな……僕はやっぱり、リコさんがいいや」

 茫然としたまま着替えて風呂場を出ると、ミーシャが廊下で待っていた。

「ミーシャ?」
「リコ、泣いちゃったよ」
「え!?」
「レオ君が浮気してるって」
「そ、そんな! 誤解です!」

 ミーシャは廊下を指した。

「すぐにフォローに行った方がいいよ」

 レオは慌てて、リコの部屋に駆けて行った。

 リコの部屋をノックをすると返事があった。
 レオがそっとドアを開けると、リコはベッドの上に座っており、遠目でも涙目なのがわかった。

「リ、リコさん」

 レオはドアを閉めると、リコのベッドの横に立ち、無言でこちらを見上げるリコを見つめた。
 狼狽えたレオは深々と頭を下げて、全部を正直に話した。

「すみません。僕の力不足で、首を噛まれてしまいました」
「……誰に?」
「その、軍の人で、からかわれたと言うか」
「女の人?」
「……はい」

 その瞬間に、パキン!
 と高音が鳴って、レオもリコも、後ろを振り返った。

「え?」

 パキッ、パキン!

 音を立てているのはベッドで、リコのいた場所が急激な速度で凍っていた。

「きゃー!?」
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