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第一章 リコプリン編

13 福音のカード

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 リコは思わず、声を上げた。

「レオ君!?」

 レオはリコに気付いて、ギョッとしている。

「リ、リコさん!?」

 またもや予想外の場所に存在するリコに、レオは面食らっていた。占い師とマニを見回して、状況を把握しようと必死の様子。

 占い師は水を差されたように「やれやれ」と居直った。

「そうだ。荷物が届く予定だったんだ」

 レオは小包をテーブルに置くと、書類とペンを出して、占い師に指示をしている。

「はい、ここにサイン。対面でないと受け取れないと知っていたでしょう? 何ほっつき歩いてるんですか!」

 説教をかましながらテントを見回し、怪しげな装飾に呆れている。

「またこんな怪しげな商売を始めて……まったく」

 言いながらリコと目が合うと、リコは口を開けたまま固まっていた。
 占い師はサインを書きながら、ペンでレオを指した。

「お嬢さん、この口うるさい配達屋と知り合いなの?」

 リコは我に返って、立ち上がる。

「あ、あの、私、蜘蛛から助けてもらって……レオ君は命の恩人なんです!」
「へえ~」

 占い師もマニも、レオに注目した。
 レオは咳払いすると書類をひったくり、素早くまとめてテントを出て行く。

「リコさん。こんな怪しげなテントに入ってはいけませんよ」

 忠告を残すとサッサと黒猫に乗って、去ってしまった。

 テントはシンとして、マニは最初の発言に戻った。

「あの少年、あんたの事を師匠って……呼んでたよね?」

 リコも思い出して、占い師を振り返る。

「配達屋さんの師匠ですか? それとも、占いの?」

 占い師はノンノン、と言いながら小包を開けている。

「まあ、人生の師匠ってやつ?」

 意味のわからない発言を深掘りしようとしたその時、また新たな来客が現れた。

「アレキ様、こちらにいたんですか」

 テントの入り口には、マニと同じ年頃の華奢な女の子が、息をきらして立っていた。エプロン姿にレースのカチューシャを付けて、小さなメイドさんのようだ。

「お客様がみえましたので、急いでお戻りください」

 占い師は開封途中の箱を抱えて、立ち上がった。

「OK,OK, 俺は人気者だな」

 既に走り出した女の子の後について、占い師はテントを出ていく。

「アデュー。お嬢さん達よ。いつでもアレキの占い館においでよ」

 宣伝文句を残して、行ってしまった。


 呆然と、リコとマニはテントに残された。

「意味わかんない……」

 マニの言う通り、チンプンカンプンだった。

 リコは占いの途中だった事を思い出し、テーブルを振り返ると、そこには四枚目に捲られたカードがある。

 噴き出す地下水の先に太陽が輝く、初めて縁起の良さそうなカードだった。


 * * * *


 日が暮れて。
 橙色に染まる町の広場の噴水に、リコとマニは並んで座っている。

「そんで、あのカードがこの噴水だって思ったの?」

 マニの呆れた質問に、リコは頷いた。

「噴水の先に希望の太陽があったでしょ。当たるんじゃないかと思って」

 マニは欠伸をしている。

「インチキだよ、あんなの。初心者だって言ってたじゃん」

 人がまばらになった広場に、豪華な馬車……大きな犬が引く車が通り過ぎた。

「あっ!」

 リコが大声を出して立ち上がり、馬車もそれに合わせて停車した。
 扉を開けて優雅に降りてきたのは、銀色の髪が輝かしい、オリヴィエ村長だった。
 マニも驚いて立ち上がった。

「君たち……こんなところで何を?」

 オリヴィエ村長は2人を見回すと、車内に手を伸ばして書類を取った。

「しかし丁度良かった」

 リコに向けて書類を差し出した。

「動物に関わらない仕事の斡旋だ。君は動物にナメられているからね。特別に雇用の推薦をして来た」

 村長が町に出かけていたのは、自分の職を斡旋するためだと知って、リコは感激していた。

「村長さん……ありがとうございます!」
「面接は明後日。合格できるよう励みたまえ。じゃ」

 そっけなく車に戻る村長に、リコは頭を下げ続けた。
 勘の鋭いオリヴィエ村長を苦手に感じていた自分を、恥じていた。

「村長さんて、冷たく見えて優しいんだね」

 リコの呟きに、マニは自分の事のように胸を張った。

「我が村の長は凄いっしょ!? みんなの事を常に考えてくれるからね! やっぱ能力者は凄いよ」

 リコは書類を抱きしめて、大きな夕陽いっぱいに希望を感じていた。


 そんな広場の様子を、金ピカの成金城の窓から、占い師は見下ろしていた。

「俺ってなかなか、占いのセンスがあるんじゃないかな。なぁ、ミーシャ」

 茶器を片付ける女の子は、主の得意げな顔を横目で見て、ため息を吐いた。

「アレキ様。お戯れもほどほどに」
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