2 / 6
2 令嬢のゴシップ
しおりを挟む
「テーブルごと爆発して屋根まで打ち上がったとか」
「婚約破棄は100回目だとか」
「無礼を働いた従者を一捻りだとか」
「ゴリラ令嬢!」
尾ひれが付いたゴシップは膨れ上がって、噂を耳にしたご子息達は、震え上がった。ルイザの見目も振舞いも完璧であるが故に、生活魔法の暴力性が際立って、余計に面白いようだ。
それでもまた、ルイザに新たな縁談が舞い込んだ。
裕福で事業に長けた父のもとには、それでも良縁を求めて打診する家があるのだ。
「アルフォード伯爵家の……フレドリック様ですか」
ルイザは緊張で喉が引きつる。
よりにもよって、繊細さを体現したような、優雅なお方だ。中性的で色白で、ルイザの生活魔法が暴発したら、粉々になってしまいそうなほどに。
ルイザは自室でひとり、鏡を見つめる。
赤色に近いブラウンの髪は、薔薇色のように輝いて、同じ色の瞳は深みがあって綺麗だ。猫のように少し釣り上がった大きな瞳は凛としていて、小さく結んだ唇は品がある。
あんな暴力的な生活魔法を繰り出すなんて、見た目では想像もつかないだろう。
「決めた。私、生活魔法は諦めますわ。もう今後一切、使わない。暴発するくらいなら、魔法力が無いと言ってしまった方がマシですもの」
ルイザは固く決心して、鏡の自分に頷いた。
ベッドに寝転がり、幼い頃のトラウマを思い出す。
「あの事件が最初の暴発……私も周囲も、私の生活魔法が異常だと気づいた時でしたわ」
祝祭の日の宮廷で。
幼い子供達が集まるパーティーで、沢山のお菓子と食事が振る舞われて、貴族の面々が交流していた。
ルイザは普段会った事のない子供達とお喋りして、ダンスを踊って、気分が浮かれていた。
そのうちに、おませな女の子が得意げに生活魔法を使ってお花を空中から振りまいて、大人も子供も笑顔になった。
ルイザも皆を喜ばせたくて、キャンディを浮かせようと掌をお皿に翳したら、皿ごと高速で吹っ飛んで、向こう側のテーブルで食事をしていたご子息をぶっ飛ばしてしまったのだ。何メートルも宙を飛んだご子息と皿に周囲は騒然となって……若干5歳のルイザは、ショックで目の前が真っ暗になった。
幼い頃と同じように動悸がして、ルイザはベッドの上で目を開ける。
「あの時はたまたま被害者の子が軽傷で済んで、その子のお父様が快い方で豪快に笑い飛ばしてくださったから、笑い話として済んだのですわ」
もしも大怪我だったら。もしも家同士の問題となっていたらと考えると、ルイザは背筋が凍る思いだった。
「ダメ。あんな事は二度と起こしちゃダメよ。誰かに怪我をさせるなんて、耐えられないもの」
ルイザは自身の力を押さえ込むように、手首を強く握った。
「婚約破棄は100回目だとか」
「無礼を働いた従者を一捻りだとか」
「ゴリラ令嬢!」
尾ひれが付いたゴシップは膨れ上がって、噂を耳にしたご子息達は、震え上がった。ルイザの見目も振舞いも完璧であるが故に、生活魔法の暴力性が際立って、余計に面白いようだ。
それでもまた、ルイザに新たな縁談が舞い込んだ。
裕福で事業に長けた父のもとには、それでも良縁を求めて打診する家があるのだ。
「アルフォード伯爵家の……フレドリック様ですか」
ルイザは緊張で喉が引きつる。
よりにもよって、繊細さを体現したような、優雅なお方だ。中性的で色白で、ルイザの生活魔法が暴発したら、粉々になってしまいそうなほどに。
ルイザは自室でひとり、鏡を見つめる。
赤色に近いブラウンの髪は、薔薇色のように輝いて、同じ色の瞳は深みがあって綺麗だ。猫のように少し釣り上がった大きな瞳は凛としていて、小さく結んだ唇は品がある。
あんな暴力的な生活魔法を繰り出すなんて、見た目では想像もつかないだろう。
「決めた。私、生活魔法は諦めますわ。もう今後一切、使わない。暴発するくらいなら、魔法力が無いと言ってしまった方がマシですもの」
ルイザは固く決心して、鏡の自分に頷いた。
ベッドに寝転がり、幼い頃のトラウマを思い出す。
「あの事件が最初の暴発……私も周囲も、私の生活魔法が異常だと気づいた時でしたわ」
祝祭の日の宮廷で。
幼い子供達が集まるパーティーで、沢山のお菓子と食事が振る舞われて、貴族の面々が交流していた。
ルイザは普段会った事のない子供達とお喋りして、ダンスを踊って、気分が浮かれていた。
そのうちに、おませな女の子が得意げに生活魔法を使ってお花を空中から振りまいて、大人も子供も笑顔になった。
ルイザも皆を喜ばせたくて、キャンディを浮かせようと掌をお皿に翳したら、皿ごと高速で吹っ飛んで、向こう側のテーブルで食事をしていたご子息をぶっ飛ばしてしまったのだ。何メートルも宙を飛んだご子息と皿に周囲は騒然となって……若干5歳のルイザは、ショックで目の前が真っ暗になった。
幼い頃と同じように動悸がして、ルイザはベッドの上で目を開ける。
「あの時はたまたま被害者の子が軽傷で済んで、その子のお父様が快い方で豪快に笑い飛ばしてくださったから、笑い話として済んだのですわ」
もしも大怪我だったら。もしも家同士の問題となっていたらと考えると、ルイザは背筋が凍る思いだった。
「ダメ。あんな事は二度と起こしちゃダメよ。誰かに怪我をさせるなんて、耐えられないもの」
ルイザは自身の力を押さえ込むように、手首を強く握った。
4
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
苺畑の聖女 〜妖精王の求婚を断ったら家に棲みついて、没落貴族の再興を始めました〜
石丸める
恋愛
絆創膏レベルの治癒力しか持たないアリス令嬢は、聖女の学園の落第生。しかも没落貴族で授業料も支払えず、自給自足で庭を耕すほど貧困に。ところが植えた苺が異常な成長をして、妖精たちが集まりだした。ついには妖精王と名乗る美麗な王まで現れて、アリスは突如、求婚を迫られる。混乱のまま断ると、妖精王は伯爵家に棲みついて、婿入りを主張しつつ、事業の再興を始めた。彼にはただならぬ過去と目的があり、アリスはその愛の深さにだんだんと惹かれていく。
※全10話完結 10,000文字程度の短編です。
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
誰がゲームの設定に従うと思いまして?
矢島 汐
恋愛
いい加減に、してほしい。この学園をおかしくするのも、私に偽りの恋心を植え付けるのも。ここは恋愛シミュレーションゲームではありません。私は攻略対象にはなりません。私が本当にお慕いしているのは、間違いなくあの方なのです――
前世どころか今まで世の記憶全てを覚えているご令嬢が、今や学園の嫌われ者となった悪役王子の名誉と秩序ある学園を取り戻すため共に抗うお話。
※悪役王子もの第二弾
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる