4 / 10
4 妖精王は突然に
しおりを挟む
摘んだ苺を手にして眺めているのは、人間と同じサイズの男性だった。
羽は無いけど、身体がキラキラと輝いていて、銀色の長い髪には、金細工の冠が飾られている。青色を帯びた銀の瞳は神秘的で、アリスがこれまで見たことの無いほど、美しい人だった。
アリスの肩に乗っている、先程ネズミと間違えた妖精の男の子が、説明してくれる。
「彼は妖精王だよ。僕たちの国の偉い人」
確かに、豪華なマントと高貴な服を身につけて、王族らしき優雅な佇まいだ。
妖精王はこちらに目を向けた。冷たいほどの無表情な顔は美麗さを際立てて、アリスは緊張で動けなくなる。
「この苺を育てたのは、君?」
「え……あぅ……はい」
情けないほど返答がぎこちないアリスに、妖精王は近づいて来た。
近くで見ると、輝かしくて目が眩む。
「私は妖精国を統治する妖精王ジェラルド・オルブライト・フェアリーだ。私の可愛い民たちに、素晴らしい実を与えてくれてありがとう」
「えっと、私はアリス・ベリーです。苺って、美味しいですよねぇ……」
「この苺はただの果物ではない。食した者の魔力を高める魔法食だ」
「は、はぁ……」
言われて周囲を見回すと、妖精たちは生き生きと、妖精の粉と言われる魔法の光を発して、飛び回っている。
目線を妖精王に戻すと、うやうやしく、跪いていた。
「貴方は豊穣の女神だ。アリス。私と一緒に、妖精の国に来てもらえないか」
妖精王が手を指す方向には、夜のジャングルの中、切り取られたようなドアの形の光が現れていた。妖精国の入口だ。
「い、いやいやいや!無理ですよ!私は人間ですから!」
テンパるアリスの手をそっと支えているジェラルドの手は温かく、これはもう幻ではないと、思い知らされていた。
「ただで来てほしいとは言わない。王妃として、貴方をお迎えしたい。貴方の力は妖精国に相応しい」
手の甲にキスをしてこちらを見上げるジェラルドの眼差しは美しく、アリスは胸がキューンとときめくが、言われている内容がぶっ飛びすぎていて、汗が止まらない。
「いや、ちょ、ごめんなさい!妖精の国に行くとか、怖すぎて無理ですぅ~」
半泣きのアリスを労るように、ジェラルドは手を握ったまま立ち上がった。
「そうか。確かに、突然異国へ嫁げなどと、恐ろしく感じるに違い無い。それでは私がこちらの世界に、婿入りしよう」
「えっ?」
「妖精の国にはいつでも出入りできる。問題は無いよ、アリス」
アリスの頭上に「?」が飛び交ううちに、ジェラルドは颯爽とマントを翻して、屋敷の玄関に向かった。
「そうと決まったら、君のご両親にご挨拶をしないと」
「ちょ、ちょっと待ったぁー!」
アリス自身も訳がわからないのに、いきなり自称妖精王が現れたら、父は卒倒するに違い無い。浮世離れしすぎている。
「さあ、君も一緒に」
ジェラルドはダンスをするようにアリスの手と肩を支えてエスコートした。身軽で、優雅で、楽しげだ。この御方は見かけはクールだが、案外無邪気な性格なのかもしれない。アリスは内心で分析しつつ、「待った待った」とわめきながら、あっという間に父の部屋に辿り着いていた。
羽は無いけど、身体がキラキラと輝いていて、銀色の長い髪には、金細工の冠が飾られている。青色を帯びた銀の瞳は神秘的で、アリスがこれまで見たことの無いほど、美しい人だった。
アリスの肩に乗っている、先程ネズミと間違えた妖精の男の子が、説明してくれる。
「彼は妖精王だよ。僕たちの国の偉い人」
確かに、豪華なマントと高貴な服を身につけて、王族らしき優雅な佇まいだ。
妖精王はこちらに目を向けた。冷たいほどの無表情な顔は美麗さを際立てて、アリスは緊張で動けなくなる。
「この苺を育てたのは、君?」
「え……あぅ……はい」
情けないほど返答がぎこちないアリスに、妖精王は近づいて来た。
近くで見ると、輝かしくて目が眩む。
「私は妖精国を統治する妖精王ジェラルド・オルブライト・フェアリーだ。私の可愛い民たちに、素晴らしい実を与えてくれてありがとう」
「えっと、私はアリス・ベリーです。苺って、美味しいですよねぇ……」
「この苺はただの果物ではない。食した者の魔力を高める魔法食だ」
「は、はぁ……」
言われて周囲を見回すと、妖精たちは生き生きと、妖精の粉と言われる魔法の光を発して、飛び回っている。
目線を妖精王に戻すと、うやうやしく、跪いていた。
「貴方は豊穣の女神だ。アリス。私と一緒に、妖精の国に来てもらえないか」
妖精王が手を指す方向には、夜のジャングルの中、切り取られたようなドアの形の光が現れていた。妖精国の入口だ。
「い、いやいやいや!無理ですよ!私は人間ですから!」
テンパるアリスの手をそっと支えているジェラルドの手は温かく、これはもう幻ではないと、思い知らされていた。
「ただで来てほしいとは言わない。王妃として、貴方をお迎えしたい。貴方の力は妖精国に相応しい」
手の甲にキスをしてこちらを見上げるジェラルドの眼差しは美しく、アリスは胸がキューンとときめくが、言われている内容がぶっ飛びすぎていて、汗が止まらない。
「いや、ちょ、ごめんなさい!妖精の国に行くとか、怖すぎて無理ですぅ~」
半泣きのアリスを労るように、ジェラルドは手を握ったまま立ち上がった。
「そうか。確かに、突然異国へ嫁げなどと、恐ろしく感じるに違い無い。それでは私がこちらの世界に、婿入りしよう」
「えっ?」
「妖精の国にはいつでも出入りできる。問題は無いよ、アリス」
アリスの頭上に「?」が飛び交ううちに、ジェラルドは颯爽とマントを翻して、屋敷の玄関に向かった。
「そうと決まったら、君のご両親にご挨拶をしないと」
「ちょ、ちょっと待ったぁー!」
アリス自身も訳がわからないのに、いきなり自称妖精王が現れたら、父は卒倒するに違い無い。浮世離れしすぎている。
「さあ、君も一緒に」
ジェラルドはダンスをするようにアリスの手と肩を支えてエスコートした。身軽で、優雅で、楽しげだ。この御方は見かけはクールだが、案外無邪気な性格なのかもしれない。アリスは内心で分析しつつ、「待った待った」とわめきながら、あっという間に父の部屋に辿り着いていた。
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
【完結】逃げ出した先は異世界!二度目の人生は平凡で愛ある人生を望んでいるのに、平凡では終われない
絆結
恋愛
10歳の時に両親と妹を一度に事故で亡くし、親戚中での押し付け合いの末、叔母夫婦に引き取られた主人公。
暴力、暴言、実子との差別は当たり前。従姉妹からの執拗な嫌がらせの末暴行されそうになり逃げだした先は異世界。
─転写─
それは元の世界の自分の存在を全て消し去り、新たな別の世界の人物として魂を写すこと。
その人の持つ資産の全てを貰い受ける代わりに、別世界に創られた"器"にその魂を転写する。
前の人生の記憶は持ったまま、全く別の身体で生まれ変わる。
資産の多さに応じて、身体的特徴や年齢、性別、転写後の生活基盤を得ることができる。
転写された先は、地球上ではないどこか。
もしかしたら、私たちの知る宇宙の内でもないかもしれない。
ゲームや本の中の世界なのか、はたまた死後の夢なのか、全く分からないけれど、私たちの知るどんな世界に似ているかと言えば、西洋風のお伽話や乙女ゲームの感覚に近いらしい。
国を治める王族が居て、それを守る騎士が居る。
そんな国が幾つもある世界――。
そんな世界で私が望んだものは、冒険でもなく、成り上がり人生でもなく、シンデレラストーリーでもなく『平凡で愛ある人生』。
たった一人でいいから自分を愛してくれる人がいる、そんな人生を今度こそ!
なのに"生きていくため"に身についた力が新たな世界での"平凡"の邪魔をする――。
ずーっと人の顔色を窺って生きてきた。
家族を亡くしてからずーっと。
ずーっと、考えて、顔色を窺ってきた。
でも応えてもらえなかった─。
そしてある時ふと気が付いた。
人の顔を見れば、おおよその考えていそうなことが判る─。
特に、疾しいことを考えている時は、幾ら取り繕っていても判る。
"人を見る目"──。
この目のおかげで信頼できる人に出逢えた。
けれどこの目のせいで──。
この作品は 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~
白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」
……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。
しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。
何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。
少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。
つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!!
しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。
これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。
運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。
これは……使える!
だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で……
・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。
・お気に入り登録、ありがとうございます!
・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします!
・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!!
・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!!
・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます!
・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!!
・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)
青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。
父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。
断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。
ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。
慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。
お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが
この小説は、同じ世界観で
1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら
3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。
全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。
続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。
本来は、章として区切るべきだったとは、思います。
コンテンツを分けずに章として連載することにしました。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる