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35. 互いに触れて

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「だいぶ良くなってきたな。もうちっとで森に帰れるだろ」

 塞がった傷口を見て、イェゼロはうんうん頷いた。彼の言葉に、ティオとザクセンは互いに顔を見合わせて、安堵から笑みを浮かべた。

「無理しなきゃ、やってもいいぞ」
「やる…って、何を?」

 首を傾げる二人に、逆にイェゼロが目を丸くした。

「お前ら、番になるんだろ?しねえのかよ、セックス。いや、ザクセン的には交尾、か?」
「セッ…!こ…!?」

 何を言うんだこの男は!
 前触れもなく放たれた衝撃的な言葉に、ティオの顔は爆発したように真っ赤になった。師匠と大狐の顔を交互に見るも、ザクセンに動じた様子はない。

「タータのことは俺とソルダートで面倒みておくからな。ま、程々にな。ザクセン、くれぐれもティオに無茶させんなよ!」
「ああ」

 爆弾を投下した男は、笑顔で手を振りながら部屋を出ていく。後に残されたティオは、開いた口が塞がらない。隣でザクセンの動く気配がして、青年は我に返った。

「ザクセンさん、し、師匠の言うことは気にしなくていいから!ごめん、変なこと言っちゃって…!」
「変、とは?」
「こ、交尾とか」
「交尾は自然な営みだ。何も変ではないが」
「あ、そ、そうか。そうだね」

 事もなげに言われてしまい、恥ずかしがっている自分の感覚の方がおかしいのではないかと思えてくる。
 口づけなら何度かしたが、スキンシップと言えばそれだけだ。本音を言えば、その先はしたい。ティオだって健全な男子なのだ。好きな相手に触れて、触れられたい。
 だが、焦るべきではないと自分に言い聞かせていた。ザクセンはかつてナンナを愛していた。男の自分は彼の範囲外かもしれない。男同士、どのようにするのかさえ知らないかもしれない。家族として傍にいさせてもらえるのだから、ひとまずはそれで満足するべきなのだ。焦らず、ザクセンが受け入れてくれるのを待って…。
 ティオは、膝の上に手に視線を落とし、自分の世界に入っていた。ふとその手を握られて、思考を中断させられる。

「ティオ、俺はお前と繋がりたいんだが」
「え、ええっ」
「嫌か」
「い、嫌じゃない嫌じゃない!」
「なら何故そんなにも驚く。俺がお前と交尾をしたいと言うのは、おかしなことか?」

 翡翠の瞳で至近距離から顔を覗きこまれて、ティオは言葉に詰まってしまう。彼の視線があまりにも真っ直ぐだからだ。

「ザクセンさん…俺、男だよ。ザクセンさんと同じもの、ついてる。俺は、男の人しか好きになれないから大丈夫だけど…その、ザクセンさんは…」
「つまり、俺がお前で発情できるかどうか疑っていると言うわけか」
「発情…うん、まあ、そう…」
「…言うより行動で示す方が良さそうだな」
「え、うわっ」

 ティオの体はザクセンによって抱き上げられ、ベッドへと運ばれた。下ろされたかと思うと、大狐が覆いかぶさってくる。制止の言葉を紡ごうとした唇は、彼によって塞がれた。

「んっ」

 舌がぬるりと口内に侵入する。手首はシーツに押しつけられ、抵抗は封じられた。そうでなくとも、ティオには抵抗する力など湧いてこなかった。

「…んンっ、…ふ、ぅ…」

 舌を絡ませる淫らなキスに、思考がとろけてしまう。まるで意志を持った生き物のように、ザクセンの舌は青年の口の中をいっぱいにし、歯列や口蓋を舐める。飲みこみきれなかった二人分の唾液が、ティオの口から溢れた。
 体が離れると、ザクセンは同じく唾液まみれになった己の唇をべろりと舐めた。何気ない仕草だが、妙に雄っぽくて、ティオの胸はどきっとした。
 抑えこまれていた手首はすでに解放されていたが、シーツの上からは動かなかった。ザクセンの長い指が自分の服のボタンをひとつずつ外していくのを見て、期待してしまう。
 彼がこの体を見ても抵抗がないのであれば、続きをしたい。
 少しづつ露わになっていく肌に、ザクセンの唇が落ちる。指で触れられるところ、唇で口づけられるところ、全てが気持ちがいい。ティオの分身は、窮屈な布地の中ですっかり大きくなっていた。
 上の服を脱がされ、ザクセンの手が下へと移る。ティオも少し腰を浮かせて、彼が下着ごと服を脱がせるのに協力した。
 ザクセンは体を起こし、まじまじとティオの体を眺めた。

「…ざ、ザクセンさん、何か言って…ッ。や、やっぱり気持ち、悪い…?」

 眉一つ動かさず、何一つ言葉を発さないザクセンに焦れて、ティオは恐る恐る声をかけた。腹部にくっつく程に反り勃つ性器が恥ずかしくて、無意識に腿を擦り合わせる。

「ああ、すまない。美しくて、つい見惚れてしまった」

 予想だにしなかった言葉に、ティオの顔は真っ赤になった。

「それより、やっぱり、とは何だ。そんなに俺が信用できないのか」
「だって…ザクセンさん、雌としか経験ないでしょう!?だから俺と本当にできるのか、不安になるじゃないか…!」
「…ティオの不安を解消できるかどうかは分からないが…」

 涙目で不安をぶちまけるティオを、ザクセンは静かに見下ろす。青年の手を取り、己の股間へと導いた。
 ティオは布地越しでも分かる、硬く張り詰めた男根に息を呑んだ。

「口づけを交わしてから、ずっとこうだ」
「本当に…?」

 立派な屹立の輪郭を指で辿っていると、更に大きさが増す。ザクセンの言う通り問題なく発情してくれたのだと分かれば、途端に目の前の獣が欲しくてたまらなくなる。

「信じてくれるか、ティオ」

 熱のこもった翡翠の目を真っ直ぐに見つめて、ティオは何度も大きく頷いた。体を起こし、ザクセンの首にぎゅっと抱きつくと、自分から彼に口づける。

「ん…んん、ふぅ…」

 ザクセンの唇を食み、軽く歯を立て、舌を絡める。ザクセンもティオを抱きしめ返しつつ、手を体に這わせる。彼は再びベッドの上に押し倒された。
 互いの唇を貪りながら、ザクセンは服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になった。いきり勃った逸物をティオの股間に擦りつける。

「あぅ…っ」

 それだけで下腹部がじんと痺れる。中に、ザクセンを受け入れたい。

「待って…ザクセンさん、準備、する…」
「ここか」
「あッ…」

 指の腹で窄まりを押され、反射的に声が出た。そしてもう片方の手には、香油の瓶が握られている。ザクセンが雄同士の性交の仕方を知ってくれていて嬉しいような複雑な気持ちだ。だが、それ以上に香油を持っていることに驚いた。森で暮らす彼らにとって、人の世界で精製される香油は無縁のはずだ。

「イェゼロに教わった。人同士は香油を使用して、滑りを良くするのだと」

 青年の視線に気がついたザクセンが答える。ティオは耳を疑った。
 一体何を吹き込んでくれたんだ、あの師匠は!薬務室にたびたびザクセンを呼び出していたのは、このためだったのかと頭が痛くなる。

「ティオ、俺は何か良くないことをしたか」
「…ううん。びっくりしただけ。できれば俺がそういうの教えたかったな、と思って」
「それは…すまなかった」

 惚れた弱みか、しゅんとする姿すら可愛く見える。ティオは頭を振って香油の瓶を受け取った。中身を指に纏わせ、自分の尻穴に這わせる。誰かを中に受け入れるのは初めてだが、自慰をするときは時折後ろも弄っていたから、解し方ならわかる。

「…恥ずかしいから、あまり見ないで」
「そうは言ってもな…」

 ザクセンは苦笑した。目の前で行われる淫猥な行動に、どうしても視線が釘づけになってしまう。赤く色づいた小さな穴が、自分よりも細い指を一本飲みこんだ。縁がひくひくと動いていて、何かを突っ込みたくなる衝動に駆られる。

「…ひぅっ」

 自分の指以外の異物感に、ティオは体を震わせた。見れば、ザクセンの指が入っていた。

「ザクセン、さん…っ!?」
「悪いが、ただ指を咥えて見てられない。ティオ、お前に触りたい」

 熱に浮かされたザクセンの雰囲気に呑まれそうになる。顔に施された赤い隈取りの色気に目眩さえ感じる。

「あっ、あ…待って、ま…ぁっ!」

 指先が中を探る。弱い部分を探して動き回る指に、ティオはたまらず喘いだ。

「あ、アぁ…っ!?」
「声が変わったな。ここが気持ち良いところか」

 ある一点を触られた瞬間、脳天を突くような快感が走った。何も答えられずに体を震わせていると、確信を得たらしいザクセンがそこを重点的に触り始めた。
 ティオの中に二本目の指を挿入しながら、ザクセンは目の前に突き出された乳首に唇を寄せた。

「ぁ、だめ…っ、ィっちゃ…、あ…ーッ!」

 音が立つほどに唾液を絡めて吸われ、ティオは快感に抗えず、射精した。精液が腹に飛び散る。初めての強い快楽に、生理的な涙が目からこぼれた。

「ティオ、大丈夫か」
「…うん、気持ち良すぎて…びっくりした」
「それは何よりの褒め言葉だ」

 ザクセンは青年に顔を寄せ、彼の目から流れる涙を舌で舐めた。ティオは薄く目を開けると、目の前の大狐にキスをした。手を伸ばして、はちきれそうに大きくなったザクセンの分身を撫でる。

「次は、ザクセンさんも…一緒に気持ち良くなろ…」
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