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31 ウルド・マーシャルの事情

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*ちょっと、身体的精神的に嫌な表現があります。ご了承ください。



ーーーーー*ーーーーー*ーーーーー









 はぁ、何ですか?自己紹介?
 また面倒な。

 まぁ、仕方ないですね。
 作者のお願いですから、聞いてさしあげましょうか。

 私の名は、ウルド・マーシャル。
 薬師です。

 それだけです。

 は?容姿……面倒な。
 薄緑の髪、同色の目、メガネ着用です。
 他に何か?

 は?家族構成?


 死にますか?



*****



 私は、学園での職務を終え、いつもの様に、その足で「あるお方」に会いに向かいました。

 それにしても「あの娘」は何なんでしょうか。
 仕事とは言え、理解に苦しみますね。

「………小娘が」

 今思い出しただけでもイライラする。
 初対面で馴れ馴れしいにも程がありますね。
 しかも、何ですか?「探していた」でしたっけ?

 何故彼女は私を知っているんでしょうねぇ。
 生まれてこのかた、会った事は一度としてないはずですが。
 あれだけ派手な髪色なんです。一度見たら忘れるはずはありませんが。

 これは、別の意味でも調べた方がいいんでしょうか。




 …………あ、着きましたね。

 物思いに耽っていると、いつの間にか目的地に着いていたようです。

 私の悪い癖ですね。
 考え事をすると、周りがおろそかになる。

 さて、「陛下」にご報告ですね。

 実は、私は薬師と言う仕事の傍ら、陛下直属の密偵もしております。
 現在は、王太子であるアシェリー殿下が在学中と言う事で、情報収集を兼ねて、学園の保険医をしているのですが、殿下がご卒業後は、陛下の元に直属の薬師として戻る事になっています。

 勝手知ったる城内を歩き、真っ直ぐに陛下の執務室に向かいました。

 ーコンコンコンー

「ウルドか、入れ」

 流石は陛下。
 扉のノックの音だけで、相手が誰だがお分かりになります。

「失礼致します」

 はぁ、相変わらず書類が凄まじいな。
 アシェリー殿下にも仕事をふられていらっしゃるとは言え、これは酷い。

「ウルド、顔に出ているよ?」

 苦笑混じりに心を読まれてしまいました。

「陛下、近く疲労回復の薬をお持ちします」
「ははっ、ウルドは過保護だね」
「全く、陛下は働きすぎです……いくら国王と言え、休む事も仕事だと存じますが?」

 側に控えていた宰相閣下も、私の言葉に強く頷かれました。
 いや、誰が見てもオーバーワークですよね。

「ウルド、陛下にもっと言ってやってくれ!」
「アラン…お前ねぇ」

 宰相閣下の言葉に、苦笑いで返す陛下。
 私は、普段陛下に振り回されている宰相閣下を存じています。

 …………閣下にも疲労回復薬をお渡ししますね。
 ………ウルド、いつもすまないな。

 思わず、閣下と視線だけで会話をしてしまいました。

 その後、私学園での内容を陛下にご報告。
 今日あった、あの小娘とアシェリー殿下、そしてドロッセル嬢の騒ぎもご報告です。

「………アシェリーがギフトをねぇ」

 おや?
 陛下………楽しそうですね。
 嫌な予感しかしないのですが。
 あ、宰相閣下が紅茶を飲まれながら現実逃避をなさっています。

「やれやれ、困ったお嬢さんだねぇ、流石はあの脳内花畑女の娘だ。しかも母親よりタチが悪い」

 なるほど、やはり陛下は何もかも分かった上で、動かれているんですね。
 それでしたら、私も教師や学生から、陛下にご納得をして頂ける情報を引き出さなければいけませんね。
 ………今まで以上に陛下の「影」と連携しないと。

「では、報告は以上ですので、失礼させて頂きます………「アレ」に会う前に帰宅したいので」
「ふふっ、本当に嫌いなんだな。まぁ、おかげで私は君を手に入れる事ができたんだけど」
「……陛下には感謝しております。あのままでは気が狂っていたでしょうから」



 私は執務室を出ると、足早にエントランスを目指しました。
 話もひと段落しましたし、早く帰りましょう。
 この時間なら、アレに会う事もないでしょうし。

 そう思っていたのですが。

 豪奢な作りの廊下の向こう。
 こちらに歩いてくる人物に、私は顔を顰めました。

 チッ、予想が外れましたか。

 その人物は、私を確認するなり、下品な笑みを見せ、口を開きました。
 わざわざ喋らなくてもいいのに、コイツは毎度私に絡んでくる。

「ウルド、奇遇だなぁ」

 油ののった小太りな男が、口から汚らしいモノを吐き出す。
 私にはコイツの言葉はソウとしか受け取れません。

 心から関わり合いになりたく無い相手です。

「お久しぶりぶりです「マーシャル子爵」殿」

 冷めた目で返事をすると、男はあからさまに嫌悪感を示しました。

「ウルド、「父上」だろう?」

 そう、この男は私の父親。

 ですが、この男と同じ血が流れているなんて、私は絶対に認めません。
 この男……現子爵トーリア・マーシャルは、我が子をモルモットとしか見ない男なのですから。

 幼少期、私はこの男により、ありとあらゆる薬の実験体にさせられていました。
 解毒剤や回復魔法があるとは言え、それは常軌を逸した行いでした。
 ある時は、その副作用で全身が爛れ、ある時は、顔や体が何倍にも膨張し……。
 死にかけた回数を数えた方が多い位です。

 そんな私を救ってくださったのは「陛下」。

 学園に在籍中、陛下の影から「城へ」と言われ、そのまま保護して頂きました。

 その後、私は宮廷薬師長に師事し知識を蓄える事ができました。
 おかげで、マーシャル子爵によって植え付けられた薬の知識……それが「おかしな」知識だったのだと、やっと知る事ができたのです。

「全く、お前はいつになったら「我が家」に帰ってくるのだ?もう三年になる。いい加減子供のワガママはやめなさい」

 ワガママ………ね。

 貴方はただ、好きに出来るオモチャが居なくなったからつまらないだけですよね?
 マーシャル家に子供は私のみですし。

 本当………子供はどちらでしょう。

 本当に、陛下が「まだその時ではない」と言われるから我慢をしていますが。この男を目の前にすると、やはり我慢が出来なくなりそうです。

 お許しが出次第………絶対に。

「私はあの場所に帰るつもりはありません」
「なっ、ウルド!」

 私の返答に、顔を赤め叫ぶ男。
 このクソは、ここが城内だと忘れているようです。

「何度も申しましたが、貴方と話す事はありません……では」

 私は廊下で喚き散らすクソを無視し、そのまま城を後にしました。



 あぁ、早くあのクソを八つ裂きにしたい。
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