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5 学園は楽しい?

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 生命力あふれる、活気に満ちた空間。
 ある者は魔法を追求せんと、ある者は世界の成り立ちを解き明かさんと奮闘している。
 そう、此処はそういった向上心の多い者達が多く学ぶ「学園」と呼ばれる場所。

 王都にあるこの学園の名は「王立ステイル学園」。
 コウラン王家が創設した、平民から貴族まで、分け隔てなく学ぶ事を目的とした平等な学舎です。

 皆様ご機嫌よう。
 私こと、シフォン・レイモンドは今日も元気イッパイ……とはまいりませんでした。



「シフォン様、この度はおめでとうございます」
「シフォン様!本当によろしかったですわ!」
「これでやっと自由に婚約者が選べま…………いえ、大変喜ばしいですわ!」

 本日、登校した途端これです。
 迎えの馬車を降りた途端、上位貴族のご令嬢方に取り囲まれました。

「皆様、おはようございます。これは一体どう言う事でしょうか?」

 キラキラとした瞳で此方を見るご令嬢達。
 言わなくても察せますが…………そうですか。

「王太子様とのご婚約、おめでとうございます!」
「これで我が国も安泰ですね!」

 そうですか…………。
 皆様、そんなにもアノ「残念王子」との婚約がお嫌でしたの。

 私の周囲を取り囲んだ令嬢達は、皆伯爵家以上の上位貴族。
 つまり、皆「氷の王子」と呼ばれるアノ王太子殿下の「婚約者候補」に挙げられていた令嬢ばかりです。
 今まで、殿下と歳の近い令嬢は婚約者候補に挙げられていたため、自由に婚約者を選ぶ事が出来なかったのですが、「私」という婚約者ができた事により、もう我慢する必要もなくなりました。

 はぁ、そうですか…………。
 まるで生贄になった気分ですわね。

 今からこの令嬢達の何人が「好きな方」との婚約をなさるのかしら。
 恋愛感情がよく理解できていない私には……………その気持ちはまだ分かりませんが。
 皆様幸せそうで何よりですわ。

 ですから、少しの意地悪くらいは良いですわよね?

「あら、皆様ありがとうございます。ですが、王家は多妻制ですわ…………この先殿下のお気に召す御令嬢が側妃様になられる事もあるかと思います。この中のどなたか将来ご一緒するかもしれませんわ。その時はどうぞよしなに」

 皆様を満面の笑みで見ると、一気に表情がお変わりになりました。
 本当…………分かりやすいこと。

「では、皆様、私は教室へ参りますわ。授業に遅れてはいけませんので」

 はぁ、面倒くさ。





「くくくくっ…本当に意地が悪いんですのね?シフォン様」
「リリアナ、見てたのなら助けなさいよ」

 どこまで悪女なのか。
 校舎に入る直前、物陰から出てきた「悪友」に、思わず地が出てしまった。

「昨日、各家に王家から通達が来ましたの。レイモンド公爵家の長女シフォン・レイモンドを、王太子ルーカス・フォン・コウランの婚約者とすると」
「それで、あの馬鹿騒ぎですか」
「えぇ、皆様本当に正直でいらっしゃいますわ。シフォン様があの様な態度を出されるのも致し方ないですわね…クスっ」

 ……………リリー。

 アンタは内心楽しんでるだけでしょうが。
 本当に性格が悪い。

 扇を出し、ハラリと開くと、口元を覆い盛大な溜息を隠しました。
 一応淑女ですから。
 そんな私に、リリアナは楽しそうな笑顔を向けるばかりです。
 自分は婿養子を迎え家を継ぐ身。今回の婚約者騒動とは無縁のため、お気楽な傍観者ですものね。

「代わってくださる?」

 分かっていても愚痴は出ますわ。

「あら?私の様な者では、シフォン様の足下にも及びませんわ」

 本当に、良い性格の親友ですわね。







 時間は経ち、お昼となりました。
 え?一気に飛ばし過ぎ?仕方ありません。巻いていかないと、話が進みませんので。
 大体、朝から婚約の話で学園内は騒がしく、ほとほと疲れてしまいましたの。
 当事者のため、常に話し掛けられますし、イライラもピークですわ。

「で?此処に逃げてきたと」

 そう、目の前の男子生徒から溜息混じりに言われました。
 今現在、私とリリアナはお弁当持参で、学園の裏庭の一角にあるガゼボに居ます。
 いつもは食堂でお昼を頂くのですが、今日は騒ぎになるかもしれないと、我が家の料理長が気を利かせてくれました。
 実際その通りです。料理長にはお礼を言わなくてはなりませんね。

「逃げてきたとは……聞き捨てなりませんが」
「間違ってはないだろうが」

 ブロンズ色の髪に、水色の瞳をした彼は呆れた様子で、目の前のサンドウィッチを頬張っています。
 まぁ、人数が多くなるのを予測して、多目にお弁当を作って下さっていたのは本当に良かったですわ。
 実はと言いますと、現在この場所には私とリリアナ以外の人物が二人おります。

「本当に、父上の心労を考えると…………此方まで胃が痛くなるな」
「あら、お兄様。お父様のアレは自業自得ですわ」
「シフ…………」

 一人は私の実の兄。
 私と同じ、プラチナブロンドに緑の瞳を持つ超絶美丈夫。
 名前は「ミカエル・レイモンド」といいます。歳は一つしか離れておりません。
 三年制のこの学園において、私は一学年。お兄様はニ学年です。
 とにかく目立つ容姿のお兄様は、学園の食堂はいつも避け、このガゼボでお弁当をお食べになられています。
 食堂にいたら女生徒の方に囲まれて大変なのです。
 そして、もう一人。
 ブロンズ色の髪に、水色の瞳を持つ男子生徒。
 彼はお兄様の学友にして、幼馴染です。
 私も幼少期からよく知っていますし、私の素の性格を知っている人物の一人です。
 名前は「アルフォンス・ベルン」。
 末端の伯爵家の人間という事は知っているのですが、そこまでしか知りません。ご両親を幼い頃に亡くされ、後見人がおらず、彼のご両親と旧知だったお父様がご面倒を引き受けられたそうです。

「シフも、やっと腹を括ったって事か?」
「アル…………その言い方はちょっと」

 相変わらずお弁当に手を伸ばしながら、軽口で言われました。
 にしても、よく食べられること。此方の方が胃もたれを起こしそうだわ。

「でさ、お前はそれで良いのか?」
「何がです?」
「…………その、王太子殿下との婚約」

 何を今更。
 この幼馴染の言わんとする意味が分かりませんわね。
 既に決まった事。しかも魔法契約までして婚約しましたもの。

「今更、なかった事にしてくださいなんて、言えるとお思い?それに貴族としてはこれ程名誉な事はないわ。公爵家の人間としては…………ね」
「じゃあ、お前の気持ちは良いのか?好きなヤツとか…………居なかったのかよ」
「ご心配ありがとう。でも大丈夫ですわ。私には恋とか愛は分かりませんので」

 その瞬間、ガバリと後ろからリリアナに抱きつかれました。
 ぎゅっと優しく抱きしめてくれたリリアナ。
 彼女なりの優しさに、自然と表情が綻びます。

「もう!アルフォンス!余計な事言ってシフォンを困らせないの!アンタには関係ないでしょうが!…………それとも今更「何を」言おうというの?」
「…………いや、その、すまない」

 リリアナの言葉に、アルフォンスの表情がみるみるヘコんで行きます。
 アルフォンスも、口でリリアナに勝てないのはいつもの事ですが…………大丈夫でしょうか?
 そんな中、私達のやり取りを傍観していたお兄様はと言うと。

「…………面倒な」

 とても残念な者を見る瞳で、アルフォンスを見ていました。
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