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6月4日(日)晴れ 『恩師』
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週末はまるまるワンルームで過ごした。コンビニに弁当を買いに行くくらいはしたが、それ以外はまったく部屋から出ず、半分引きこもりのような二日間だった。
それというのも、栗谷のマンションが快適過ぎるからである。今週は紺野がらみで色々とあったから、マンションにいることで本当に安心できた。栗谷には感謝してもしきれない。
栗谷は日曜日の午後に少し顔を出した。
先週に続いてまたしてもノーブラTシャツにショーツという扇情的な格好で出迎えそうになってしまい、慌ててスウェットの下だけ着込んだが、栗谷は気にも留めていない様子だった。やはり教師として、生徒である僕のことをそういう目では見ないということなのかも知れない。
しばらく部屋にいる間に栗谷がしていった話といえば、最近何か困っていることはないか、足りないものはないかと僕を気遣うようなものばかりだった。
そんな栗谷の配慮に僕としてはただただ恐縮する思いで、この部屋を使わせてもらえるだけでありがたいと大袈裟に感謝の気持ちを表に出したのだが、栗谷は穏やかに笑うばかりで、そこに恩着せがましさのようなものはみじんも感じられなかった。
僕の中に自然と栗谷に対する尊敬の念がこみあげてきたのも無理のない話だろう。
現金なもので、僕はもう栗谷のことをキモいとさえ思わなくなった。もちろん容姿が変わったわけではないので、格好いいとかイケメンだとか、そんな風には間違っても思わないが、息がかかるほどの距離で差し向かいに話をしていてもそれを不快には感じないし、むしろもう少し長く話していたいという気持ちさえ湧いてくる。
つまり僕は栗谷のことを教師として――いや、一人の大人として心から信頼するようになったのだろう。
栗谷は見返りを求めないが、これだけのことをしてもらって僕が何もしないのは人としてどうかと思う。やはりそれとなく栗谷の良い噂を流して学内での評判を高めるくらいのことはしたいものだ。
もうひとつ、この週末の出来事として書き記しておかなければならないことがある。
昨日、僕は女の身体になってはじめての自慰行為――オナニーをした。
先人の言葉に『小人閑居して不善をなす』とあるが、まさにその言葉通りである。リラックスできる環境で他に何もすることがないものだから、小人である僕はついそうした行為に及んでしまったのだ。
具体的な経緯としては、月並みだがシャワーを浴びているうちにその気になって指を伸ばし、気がつけば夢中であそこを弄りまわしていた。
誰か特定の相手を思い浮かべてしたわけではない。顔が塗り潰された、いわば匿名の男に自分が抱かれているところを想像して、僕は一頻りその淫らな行為に耽った。
感想から先に述べれば、真っ暗な天国の風景を覗き見した気分、というのが一番しっくりくると思う。
はじめてのことであるし、うまくできたかどうかはわからない。けれども膣内に指を挿れない、クリトリスを弄るだけのオナニーでも、その気持ちよさと奥深さの片鱗は十分に垣間見ることができた。
そう――男だった頃のオナニーとの最大の違いとして、その奥深さを挙げることができる。頂上へ向かって登りつめていって出せば急降下の男とは違い、どこまで登っても頂上が見えないし、一瞬で賢者に覚醒することもないのだ。
言葉を変えれば、暗く暖かい快楽の海にどこまでも沈んでゆくような底知れない感覚だった。それが理由で僕はオルガスムスが見えかけたところで怖くなってしまい、いいところだったにも関わらず途中でその行為を切り上げてしまった。
ただ、次の週末にあのマンションで過ごすときも、僕は相応の時間を費やしてその行為に耽っていることだろう。
女の身体になって久しいにも関わらず僕がその行為への一歩を踏み出さなかったのは、おそらく男の目を気にしてそれどころではなかったというのが大きかった。
男に邪魔されない環境に落ち着いてはじめて、男を相手の性行為の準備に向き合えるというのも皮肉な話だ。
ともあれ、これも栗谷が僕にあのマンションというプライベートな場所を提供してくれたお陰だ。その恩恵により僕が女の快楽に目覚め、男とのセックスを求めるようになったら、恩返しに栗谷と一夜を共にすることも吝かではない――
……などと、ありもしないことを考えながらクスクスと笑いが込み上げてくるのも、僕が精神的に落ち着いてきた何よりの証拠ではないだろうか。
それというのも、栗谷のマンションが快適過ぎるからである。今週は紺野がらみで色々とあったから、マンションにいることで本当に安心できた。栗谷には感謝してもしきれない。
栗谷は日曜日の午後に少し顔を出した。
先週に続いてまたしてもノーブラTシャツにショーツという扇情的な格好で出迎えそうになってしまい、慌ててスウェットの下だけ着込んだが、栗谷は気にも留めていない様子だった。やはり教師として、生徒である僕のことをそういう目では見ないということなのかも知れない。
しばらく部屋にいる間に栗谷がしていった話といえば、最近何か困っていることはないか、足りないものはないかと僕を気遣うようなものばかりだった。
そんな栗谷の配慮に僕としてはただただ恐縮する思いで、この部屋を使わせてもらえるだけでありがたいと大袈裟に感謝の気持ちを表に出したのだが、栗谷は穏やかに笑うばかりで、そこに恩着せがましさのようなものはみじんも感じられなかった。
僕の中に自然と栗谷に対する尊敬の念がこみあげてきたのも無理のない話だろう。
現金なもので、僕はもう栗谷のことをキモいとさえ思わなくなった。もちろん容姿が変わったわけではないので、格好いいとかイケメンだとか、そんな風には間違っても思わないが、息がかかるほどの距離で差し向かいに話をしていてもそれを不快には感じないし、むしろもう少し長く話していたいという気持ちさえ湧いてくる。
つまり僕は栗谷のことを教師として――いや、一人の大人として心から信頼するようになったのだろう。
栗谷は見返りを求めないが、これだけのことをしてもらって僕が何もしないのは人としてどうかと思う。やはりそれとなく栗谷の良い噂を流して学内での評判を高めるくらいのことはしたいものだ。
もうひとつ、この週末の出来事として書き記しておかなければならないことがある。
昨日、僕は女の身体になってはじめての自慰行為――オナニーをした。
先人の言葉に『小人閑居して不善をなす』とあるが、まさにその言葉通りである。リラックスできる環境で他に何もすることがないものだから、小人である僕はついそうした行為に及んでしまったのだ。
具体的な経緯としては、月並みだがシャワーを浴びているうちにその気になって指を伸ばし、気がつけば夢中であそこを弄りまわしていた。
誰か特定の相手を思い浮かべてしたわけではない。顔が塗り潰された、いわば匿名の男に自分が抱かれているところを想像して、僕は一頻りその淫らな行為に耽った。
感想から先に述べれば、真っ暗な天国の風景を覗き見した気分、というのが一番しっくりくると思う。
はじめてのことであるし、うまくできたかどうかはわからない。けれども膣内に指を挿れない、クリトリスを弄るだけのオナニーでも、その気持ちよさと奥深さの片鱗は十分に垣間見ることができた。
そう――男だった頃のオナニーとの最大の違いとして、その奥深さを挙げることができる。頂上へ向かって登りつめていって出せば急降下の男とは違い、どこまで登っても頂上が見えないし、一瞬で賢者に覚醒することもないのだ。
言葉を変えれば、暗く暖かい快楽の海にどこまでも沈んでゆくような底知れない感覚だった。それが理由で僕はオルガスムスが見えかけたところで怖くなってしまい、いいところだったにも関わらず途中でその行為を切り上げてしまった。
ただ、次の週末にあのマンションで過ごすときも、僕は相応の時間を費やしてその行為に耽っていることだろう。
女の身体になって久しいにも関わらず僕がその行為への一歩を踏み出さなかったのは、おそらく男の目を気にしてそれどころではなかったというのが大きかった。
男に邪魔されない環境に落ち着いてはじめて、男を相手の性行為の準備に向き合えるというのも皮肉な話だ。
ともあれ、これも栗谷が僕にあのマンションというプライベートな場所を提供してくれたお陰だ。その恩恵により僕が女の快楽に目覚め、男とのセックスを求めるようになったら、恩返しに栗谷と一夜を共にすることも吝かではない――
……などと、ありもしないことを考えながらクスクスと笑いが込み上げてくるのも、僕が精神的に落ち着いてきた何よりの証拠ではないだろうか。
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