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私はパナ・モーマ、侯爵令嬢だ。


 突然だが私には婚約者がいる。


「帝国の美剣」ことサラド・マクトリーラ。



 私を飾り付ける最高の装飾品だ。



 サラド・マクトリーラが私の婚約者であると言うだけで周りは私を褒める。

 
 それがどれだけ気持ちのいいことか。


「今回の戦場でも必ず功績を上げる。そして無事帰ることが出来たら…結婚しよう」


 サラドにそう言われた。


 正直結婚自体に興味はないし子供が欲しいと思ったこともないが将来安泰な彼なら文句はない。


 だから私は愛を語る。


「嬉しい。こんなに嬉しいことはありません…どうかご無事で」


 ま、死んだら死んだときだけど。


 サラドが大怪我を負ったらしい。


 面倒くさいけど一応見に行くか。


 そこにいたのは火傷で顔の原型すら分からなくなった婚約者だった。


 
「化け物」



 つい本心が出てしまう。


 …もういいか。この状態じゃあ近いうちに亡くなるでしょ。


 私はサラドに素の自分を出した。


 結構驚いたみたいだけどもう会うこともないし別に問題は無い。


 じゃあ、さようなら。



 ゼゴ副団長に言い寄られた。


 どうやら昔から私のことが好きだったらしい。


「サラド団長はもう剣を握ることすらできない。反戦行為もあって団長の地位剥奪は免れないだろう。だから俺の物になれ。そうすれば今まで以上に幸せにしてやるからよ」


 たぶんゼゴがサラドを陥れたのだろう。

 
 女の勘というのかゼゴの言葉の裏にある卑劣さを感じた。


 でも感じただけ、憎しみとかそう言う感情は湧いてこない。


「嬉しいです!これからどうしよかと途方に暮れていた私に道を示してくださるなんて…私はあなたをお慕いしますゼゴ様」


 サラドと同じ様に愛を語る。


 ゼゴは意気揚々と結婚だと話を進め、私に婚約破棄の証書を書かせた後、それを自身でサラドに届けに行った。


 男としては及第点以下、それでも次期騎士団長、文句はない。


 私は自分のことしか考えない、そんな女だ。



◇◇◇◇


 
 ゼゴが住む屋敷の寝室。


 窓から入る月明かりだけが光源となった部屋には服を脱ぎシーツだけを羽織る男女の姿がある。


 ゼゴとパナだ。


「今あちこちの要人に婚約パーティーの招待状を送っているところだ。せっかくだし派手にやろう」

「いいですね。今から楽しみです」

「本当ならサラドにも招待状を送ってやるつもりだったが、状況が変わったからな」


 どういうこと?


「サラドの火傷は国の誰にも治せないほどの重症。そのまま放置しても問題なかったんだが、それを治せる人物が1人だけいたんだ。サラドが治されても面倒だから誰も知らない人里離れた山奥に療養と言う名目で流してやった。そのうち餓死するだろう」


 別にサラドが餓死しようと何も思わない。


 けどサラドを治されると私の立場も危うくなるわね。


「ゼゴ様。その治療が出来る人を婚約パーティーに招待してはいかがでしょう?そこで1言口添えすれば今後問題が起きることは無いはずです」

「それは名案だ。流石は俺の妻になる女、こうでなくては」



 ◇◇◇◇



 婚約パーティー当日、計画通りその回復魔法の使い手に招待状を送り、挨拶を交わす。


 それだけで済むはずだった…。


「初めまして。ミルネ・ルルロと申します。この度はご招待に預かり光栄です。不束ながら私の婚約者も紹介したいと思います」


 ミルネ・ルルロの隣に立つ男性、私はこの顔に見覚えがあった。

 
 いや、見覚えがあるレベルではない。


 何故ここに…?







「ご紹介に預かったサラド・マクトリーラと申します。お久しぶりですね、パナ」
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