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吉良尊氏がおとりになることを思いついた理由
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「ところで…、これが一番、大事な質問なんだが、どうしておとりになることを思いついた?」
佐藤警視は鋭い眼光を俺に浴びせてきた。どうやら言葉通り、大事な質問らしい。
「社会正義に目覚めた…、って言えば信じてくれるか?」
俺は冗談を口にしたが、佐藤警視には通じなかった。
「君がそう主張するなら、その通り、調書を作成する」
佐藤警視は能面のような顔でそう答えた。それで俺も負けを認めた。
「分かったよ…、一言で言えばリベンジだ」
「リベンジ…、復讐という意味か?」
「そうだ。それに妬みの感情、それもある」
「分かるように説明してくれ」
「分かった…、ってその説明にこいつを使いたいんだが、良いかな…」
俺は目の前においたリュックの中から高校時代の卒業アルバムを取り出した。
「ああ、良いとも…」
佐藤警視が認めてくれたので、俺はリュックサックから取り出した高校時代の卒業アルバムのお目当てのページを開くと、それを佐藤警視に見せた。
「これは…、君の卒業年次のクラスの写真かな?」
「そうだ。俺がこれで、ちなみに志貴がこれだ…」
俺は指差した。
「そのようだな…」
「で、別のページ…、これは高校1年次の集合写真だ。クラス毎の集合写真で、俺と志貴はやはり1組で同じクラスだった…」
「1組とは、やはり成績優秀者で占められているのか?」
「その通り。もっとも俺はその中でもびりっけつだったがな…、ってな話はどうでも良くて、問題はこっち…」
俺は7組の集合写真を指差した。
「1年7組…、こいつがどうした?」
「7組は…、言葉は悪いが外部生なんだ…」
「がいぶせい?」
佐藤警視が聞き返すと、山田警視が「高校時代に入学してきた生徒って意味では?」と注釈を入れたので、俺もその通りと頷いた。
「と言うと、君が通っていたのは中高一貫校というわけだな?」
「その通りだ。薬師寺中学・高校だが…、で、その7組…、外部生の中に和気がいるんだ」
「和気が?」
佐藤警視の顔色が変わった。
「そうだ…、こいつだ」
俺が和気の顔を指差すと、佐藤警視はそれを凝視した。
「そうか…、和気は外部生だったのか…、それで?」
「見てくれは…、まぁ、まだ地味だろう?」
「確かに…、その口ぶりだと、その後、派手になったということか?」
「その通り…、このアルバムには1年次から3年次までの主要な行事が移されているんだが…」
俺はさらにページをめくった。
「これは5月のオリエンテーションの写真…、幸いにもというべきか、和気が写ってる…」
俺はやはり和気の顔写真を指差した。何だか自分の指が汚れそうな感覚で嫌なのだが、仕方がない。
「どう思う?」
「これはまた…、随分と派手な出で立ちだな…」
確かに佐藤警視の言う通りで、和気の髪型はそれまでの短髪、サラサラヘアから長髪の、それも茶色がかったそれへと変貌を遂げていた。
「この他にもその手の変貌を遂げている連中もいて…」
「連中というと、つまりは愚連隊ということか?」
「愚連隊とはまた古風な言い回しだが、その通りだ」
俺は認めた。
「で、その和気たちが愚連隊で君にいじめでもして、そのリベンジというわけか?」
「早い話がその通り」
「いじめの具体的な内容は?」
「単純明快、カツアゲ」
「それで君は金を差し出したと?」
「千円だけ」
「少額だな…、それで納得したのか?」
「納得も何も、その時には財布にそれしか入っていなかったから、出しようがない。ない袖は何とやら、だ」
「もっと持って来いとでも言われなかったのか?」
「言われた」
「で、君はそれでどうした?」
「断った」
「断った…、随分と勇気があるな」
「無謀なだけだった…、案の定、ボコボコにされた」
「それでどうした?」
「それでも断った。どうやら頑固な性分なんでね…」
「それで和気たちはどうした?」
「諦めた。不良はどうしようもない馬鹿だが、退き時は心得ていたらしい…」
「これ以上、君を痛めつけても絶対に金は出てこない…、そう理解したからか?」
「恐らくはその通りだろう。実際、和気は、もう無駄だ、って言ったから…、地面と睨めっこしている時にそう聞いた…」
「そうか…、それでそのリベンジというわけか?」
「まぁ、そうなんだが、それだけがすべてじゃないな…」
「妬みとか言っていたが…」
「ああ。動機のうち、リベンジが2割、いや、1割、よくても1割5分程度なら、妬みの感情の方が9割、少なくても8割5分だ」
「妬みの感情とはどういう意味だ?」
「あまり言いたくないんだが…」
「それでも聞かせてくれるんだろう?」
佐藤警視は自信ありげに尋ねた。
「ああ…、要するにだ、和気のような元不良、元ヤンキーが背広を着ているのが気に入らねぇ、ってことさ…」
「君は真面目だったのに職にあぶれたニート、それにひきかえ和気は元不良、元ヤンキーであるにもかかわらず背広を着ている…、それが気に入らないと?」
「ああ、正しく…、俺はこの先、せいぜい、肉体労働、いわゆるブルーカラーの仕事にしかありつけないだろうが、それにひきかえ和気の野郎、高校時代は元不良、元ヤンキーでぶいぶい言わせていたくせに、それが今では背広を着ている?つまりはホワイトカラー?冗談じゃねぇって話さ…、永田町の住人にもその手の野郎がいるが…、元ヤンキー先生だっけか?あういうのを見るにつけ反吐が出そうだ…」
俺は思いの丈をぶちまけ、佐藤警視もそうと気付いたのか、「そうか」と苦笑したものである。
「ところで…、これは個人的な興味だが、和気は卒業時には何組なんだ?」
「卒業しなかった」
「退学にでもなったのか?」
「ああ、1年から2年に進級しようって時に退学になった」
「それは…、君に暴力行為を働いたことと関係があるのか?」
「直接にはないだろうな」
「と言うと?」
「俺がボコられたのは6月、で、和気が退学になったのは年明けだから…、それでも退学の理由は恐らくカツアゲ、暴行といったところだろう。詳しくは知らないが…」
俺は正直に答え、佐藤警視も「そうか」と頷いた。
佐藤警視は鋭い眼光を俺に浴びせてきた。どうやら言葉通り、大事な質問らしい。
「社会正義に目覚めた…、って言えば信じてくれるか?」
俺は冗談を口にしたが、佐藤警視には通じなかった。
「君がそう主張するなら、その通り、調書を作成する」
佐藤警視は能面のような顔でそう答えた。それで俺も負けを認めた。
「分かったよ…、一言で言えばリベンジだ」
「リベンジ…、復讐という意味か?」
「そうだ。それに妬みの感情、それもある」
「分かるように説明してくれ」
「分かった…、ってその説明にこいつを使いたいんだが、良いかな…」
俺は目の前においたリュックの中から高校時代の卒業アルバムを取り出した。
「ああ、良いとも…」
佐藤警視が認めてくれたので、俺はリュックサックから取り出した高校時代の卒業アルバムのお目当てのページを開くと、それを佐藤警視に見せた。
「これは…、君の卒業年次のクラスの写真かな?」
「そうだ。俺がこれで、ちなみに志貴がこれだ…」
俺は指差した。
「そのようだな…」
「で、別のページ…、これは高校1年次の集合写真だ。クラス毎の集合写真で、俺と志貴はやはり1組で同じクラスだった…」
「1組とは、やはり成績優秀者で占められているのか?」
「その通り。もっとも俺はその中でもびりっけつだったがな…、ってな話はどうでも良くて、問題はこっち…」
俺は7組の集合写真を指差した。
「1年7組…、こいつがどうした?」
「7組は…、言葉は悪いが外部生なんだ…」
「がいぶせい?」
佐藤警視が聞き返すと、山田警視が「高校時代に入学してきた生徒って意味では?」と注釈を入れたので、俺もその通りと頷いた。
「と言うと、君が通っていたのは中高一貫校というわけだな?」
「その通りだ。薬師寺中学・高校だが…、で、その7組…、外部生の中に和気がいるんだ」
「和気が?」
佐藤警視の顔色が変わった。
「そうだ…、こいつだ」
俺が和気の顔を指差すと、佐藤警視はそれを凝視した。
「そうか…、和気は外部生だったのか…、それで?」
「見てくれは…、まぁ、まだ地味だろう?」
「確かに…、その口ぶりだと、その後、派手になったということか?」
「その通り…、このアルバムには1年次から3年次までの主要な行事が移されているんだが…」
俺はさらにページをめくった。
「これは5月のオリエンテーションの写真…、幸いにもというべきか、和気が写ってる…」
俺はやはり和気の顔写真を指差した。何だか自分の指が汚れそうな感覚で嫌なのだが、仕方がない。
「どう思う?」
「これはまた…、随分と派手な出で立ちだな…」
確かに佐藤警視の言う通りで、和気の髪型はそれまでの短髪、サラサラヘアから長髪の、それも茶色がかったそれへと変貌を遂げていた。
「この他にもその手の変貌を遂げている連中もいて…」
「連中というと、つまりは愚連隊ということか?」
「愚連隊とはまた古風な言い回しだが、その通りだ」
俺は認めた。
「で、その和気たちが愚連隊で君にいじめでもして、そのリベンジというわけか?」
「早い話がその通り」
「いじめの具体的な内容は?」
「単純明快、カツアゲ」
「それで君は金を差し出したと?」
「千円だけ」
「少額だな…、それで納得したのか?」
「納得も何も、その時には財布にそれしか入っていなかったから、出しようがない。ない袖は何とやら、だ」
「もっと持って来いとでも言われなかったのか?」
「言われた」
「で、君はそれでどうした?」
「断った」
「断った…、随分と勇気があるな」
「無謀なだけだった…、案の定、ボコボコにされた」
「それでどうした?」
「それでも断った。どうやら頑固な性分なんでね…」
「それで和気たちはどうした?」
「諦めた。不良はどうしようもない馬鹿だが、退き時は心得ていたらしい…」
「これ以上、君を痛めつけても絶対に金は出てこない…、そう理解したからか?」
「恐らくはその通りだろう。実際、和気は、もう無駄だ、って言ったから…、地面と睨めっこしている時にそう聞いた…」
「そうか…、それでそのリベンジというわけか?」
「まぁ、そうなんだが、それだけがすべてじゃないな…」
「妬みとか言っていたが…」
「ああ。動機のうち、リベンジが2割、いや、1割、よくても1割5分程度なら、妬みの感情の方が9割、少なくても8割5分だ」
「妬みの感情とはどういう意味だ?」
「あまり言いたくないんだが…」
「それでも聞かせてくれるんだろう?」
佐藤警視は自信ありげに尋ねた。
「ああ…、要するにだ、和気のような元不良、元ヤンキーが背広を着ているのが気に入らねぇ、ってことさ…」
「君は真面目だったのに職にあぶれたニート、それにひきかえ和気は元不良、元ヤンキーであるにもかかわらず背広を着ている…、それが気に入らないと?」
「ああ、正しく…、俺はこの先、せいぜい、肉体労働、いわゆるブルーカラーの仕事にしかありつけないだろうが、それにひきかえ和気の野郎、高校時代は元不良、元ヤンキーでぶいぶい言わせていたくせに、それが今では背広を着ている?つまりはホワイトカラー?冗談じゃねぇって話さ…、永田町の住人にもその手の野郎がいるが…、元ヤンキー先生だっけか?あういうのを見るにつけ反吐が出そうだ…」
俺は思いの丈をぶちまけ、佐藤警視もそうと気付いたのか、「そうか」と苦笑したものである。
「ところで…、これは個人的な興味だが、和気は卒業時には何組なんだ?」
「卒業しなかった」
「退学にでもなったのか?」
「ああ、1年から2年に進級しようって時に退学になった」
「それは…、君に暴力行為を働いたことと関係があるのか?」
「直接にはないだろうな」
「と言うと?」
「俺がボコられたのは6月、で、和気が退学になったのは年明けだから…、それでも退学の理由は恐らくカツアゲ、暴行といったところだろう。詳しくは知らないが…」
俺は正直に答え、佐藤警視も「そうか」と頷いた。
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参考文献
『ホス狂い ~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』宇都宮直子(小学館)
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