上等だ

吉田利都

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ちょっとね

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浅野水族館までの道のりは短いはずなのに長く感じた。

「黒沢君って休日はいつも何してるの?」

「休日か・・本読んだり映画見たりかな。」

「どんな映画見るの!?私もよく見る。」

前のめりに聞いてくるもんだから少し引けてしまった。

「あ、ゾンビ映画とか好きだよ。」

顔がしゅんとなったのが一目でわかる。

「酒井さんはどんなの見るの?」

「わたし?私は恋愛ものとか好きかな。」

なんだか酒井さんが照れている。

この子はもしかしたら相当な天然というかピュアなのかもしれない。

今どきの高校生に恋愛ものが好きというだけでこんなにもじもじする子はいないだろう。

「恋愛ものはあまり見ないな。一人で入りづらくてさ。」

「じゃ、じゃあ今度一緒に見に行きましょう。」

「ああ今度ね。」

酒井さんと映画は気まずすぎる。。

それこそカップルがやることじゃないか。

その後もつたない会話で水族館へと着いた。

「黒沢君早く入ろ!」

僕も久々の水族館でワクワクする。

中に入るとすぐ見えるところにヒトデやウニ、ナマコなどに触れるコーナーがあった。

「酒井さんこっちちょっと見てみよう。」

僕はナマコに興味があった。

「え、なにこの黒いぶよぶよした生き物。」

「酒井さんナマコ見たことない?」

これはいけるナマコの存在を知らなければそんなに気持ち悪いと思わないかもしれない。

「ここのコーナー触ってもいいみたいだからナマコ触ってみる?」

実はというと僕も触るのは初めてだ。

水が冷たくて気持ちがいい。

指先に触れる。

「わ。」

ほんとに柔らかい。

これは凄い・・・

持ち上げて酒井さんに渡す。

「はい。持ってみて。」

「う、うん。」

両手に乗せると酒井さんは意外にも嫌がらなかった。

「わ~。変な感触。」

「なんか、ちょっとかわいいかも。」

か、かわいいのか・・・

「じゃあそろそろ中の方も見てみようか。」

「うん」

一気に暗くなり、水族館に来たんだなという実感もわいてきた。

小型の綺麗な魚が辺りの暗さとマッチしていて神秘的にさえ思える。

「綺麗だな。」

「ね。海の生き物ってこんなにいるなんて知らなかった。」

「まだまだ知らない世界が広がっているんだね。」

水槽を眺めつぶやく。

そういうセリフは恥ずかしくないんだな。。。

「あ!」

「どうしたの?」

「見て、黒沢君。クラゲがいるよ。」

「クラゲ好きなの?」

「うん、大好き!」

目をキラキラ輝かせ僕にクラゲの魅力を語ってくれた。

「そんなに好きだったんだね。」

「飼ってないの?」

「今は飼えないなあ。でもいつかはクラゲに囲まれて眠りたい。」

そ、それは流石に嫌だな。

「あ、この先にマンボウとか大きめの魚いるみたいだよ。」

「おーいいね。」

なんだか周りを見ればカップルが多いな。

今は家族っていうよりカップルが多いのかな。

酒井さんもそれに気づいてるみたいだった。

お互い変に緊張している。

「黒沢君」

「な、なに?」

ちょっと声が上ずってしまう。

「黒沢君って美咲さんの事どう思ってる?」

「どうって・・・」

この質問がいつか来ることを僕は分かっていた気がする。
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